無法者はさもありなん④
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【シュテルンホルン迷宮】の情報を得るために受付に向かうふたりを見送って、ハイアルムは大きな椅子に寝そべるようにもたれかかる。
誰もいなくなった部屋は、静寂と清浄な空気が満ちた彼女の聖域だ。
ここにいれば、この疲れ切った体を回復することができる。
――回復に努める間は、頭を使わねばなるまいな。
彼女が道具から読み取ったマナ――実はその方法ではあまり情報は引き出せないのだが――からは、持ち主が男で、自分が貴族であるという強い自惚れが見て取れた。
同時に、湧き待ちに戻りたいという意志を感じたのは運がよかっただろう。
――よもや【アルフレイムの迷宮】に行かせたふたりが、その情報を持って帰ってくるとは思っていなかった。なかなか幸先がよかろう――。
ハイアルムはそう思い笑みを浮かべてから……いやいや、と考えを改める。
『イミティオ』が創造されていたなら、それほどマナリムを巡るマナが乱れているということを指す。
なおかつ、【シュテルンホルン迷宮】にてリスポーンを待っているという無法者たちは、迷宮のマナを乱しているようだ。
まだ駆け出しが訪れるようなマナの薄い迷宮でのマナレイドといい、やはり楽観視するには状況が悪い。
「さて――ガルムはどう動くかの」
ハイアルムはまだ若いふたり――【迷宮宝箱設置人】のクロート、そしてその【監視人】であるレリル――に託した書状のことを考えた。
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「はぁーい」
肩ほどまででくるんと内巻きにされたピンク髪を弄りながら、彼女――エルフのクランベルがふたりに声をかけた。
情報を売る組織『ノーティティア』……その受付に向かって長い廊下を進んでいたクロートとレリルは、途中の階段から下りてきた彼女とばったり出会したのである。
「おかえりふたりとも! 帰ってたのね!」
今日も前髪は真っ直ぐ切り揃えられていて、その下……大きな紅い眼がきらきらして見えた。
いつもはノーティティアの制服を着ているが、今日は驚くことに髪色に似た派手なピンク色の鎧を装備している。
クロートがぎょっとして、返事をするのを忘れたほどだ。
「クランベルさん――まだその鎧なんですね」
レリルが呆れたような声で――どうやらレリルはその鎧姿を見たことがあるようだ――言うと、クランベルは髪を弄るのをやめ、代わりにひゅんと尖った耳の先を触りながら唇を尖らせた。
「あら、まだってなによ。レリルったら失礼よね」
「だって、迷宮に行くには目立ちすぎますよ……」
「だーいじょうぶよっ、私は強いから」
「あははっ、そういう問題じゃないんですけどね!」
ぽんと胸を叩いたクランベルと、思わず笑い出してしまったレリル。
ふたりを眺めながら、クロートは首を傾げた。
「迷宮に行くにはって……クランベルさん、どこか行くのか?」
そんな彼に向かって、クランベルはばちりと片目を閉じてみせる。
「ええ。【シュテルンホルン迷宮】の件、聞いてる? 対応に人手が必要だから、現場の【監視人】の増員命令があったの。【シュテルンホルン迷宮】でなにがあってもいいように、ほかの迷宮の情報を一気に集めるのよ」
「へえ……じゃあ【迷宮宝箱設置人】たちも動くのか?」
「ん、そうなるわね。いまは休んでいる人にも招集命令が出てるはずよ。あなたたちもどこかへ行くんでしょ?」
クランベルは耳の先を触るのをやめ、腰に手を当てた。
なんだか忙しない感じがするのは、彼女が迷宮を楽しみにしているからだろうか……それとも恐れているからだろうか。
「いえ、私たちは【シュテルンホルン迷宮】のガルムさんのところへ行きます」
レリルが答えると、クランベルが大きな目をさらに大きく見開いた。
「――嘘、もしかしてもう六級なの?」
目玉がこぼれそうだなとどうでもいいことを思いながら、クロートは首を振る。
「いや、特例だって言われた。持って帰ってきた情報が無法者に――」
言いかけて、彼ははたと言葉を切った。
クランベルに聞けば、今回クロートとレリルが【アルフレイムの迷宮】で会うかもしれなかった人物のことがわかるかもしれないと思い当たったのだ。
ハイアルムからは情報が引き出せなかったが、彼女に聞いてみる価値はあるだろう。
「あのさ、クランベルさん。俺たち、【アルフレイムの迷宮】で『イミティオ』を見たんだ。それで、大きな黒い鎧の男がそれを屠ったんだけど――」
瞬間、クロートの脳裏に黒い宝箱に呑み込まれた男――ハイアルムは貴族だと言った――の姿が鮮やかに蘇った。
レリルが自分を見て表情を曇らせたのを認識したクロートは、自分の顔が強張っているのだと気付く。
クランベルはすっと目を細め、険しい表情になった。
「ふたりとも、少しだけ時間ある? 話をしましょう」
本日分です!
平日は基本毎日、遅くても2日に一度くらいは更新予定です。
引き続きよろしくお願いします!




