執行委員会は屈服
ドワーフ傭兵の殲滅に夢中になっていて忘れていたが、思い返してみれば、騎士会執行委員会との会談も予定していたのだった。やって来たのは、レッドポール執行委員長以下、副委員長、書記長等、(安っぽい仮面の男を除く)いつものメンバーだ。
「あら、あなたたち、遅かったわね。タイミング的には丁度よかったけど」
会談は午前中の予定だったのに、もう、昼前になっている。勝利の前祝いとかで、遅くまで飲んでいたのだろう。
レッドポール執行委員長は酒臭い息で、
「多少、遅れたかもしれない。それはこちらの落ち度だとしても…… これは、一体?」
中庭や応接室の床に転がるドワーフの惨殺死体を目にしては、二日酔いで苦しんでいる場合ではないようだ。即座に反撃可能な体勢で、身構えている。
「時間がないから手短に言うわ。これからマーチャント商会ウェルシー派遣部隊に総攻撃をかける。だから、あなたたち騎士団も協力しなさい」
「なに? それは話が違うのではないか。本日は、懸案事項の解決のための会談のはずだ」
「懸案事項なんて存在しないわ。ガタガタ言ってると、あなたたち、身の破滅よ」
「身の破滅だと? 我々、誇り高き騎士団が、そのような脅しに屈するとでも、思っているのか!」
執行委員長はドワーフの死体を踏みつけた。何か勘違いをしているようだ。
わたしはドーンに「すぐにポット大臣を連れてくるように」と耳打ちし、懐から執行委員長が大臣に宛てた手紙を取り出した。執行委員長の顔が苦しげに歪む。
「屈しなくても構わない。その代わり、今回の騒動が解決したら、帝国法務院に訴えて、あなたたちから騎士の身分を剥奪することになるでしょう。証拠はあるし、証人もいるんだから」
やがて、ドーンが、後ろ手に縛られたポット大臣を連れて戻ってきた。大臣は応接室に入るや、事情も何も分からないだろうが、とにかく「ひぃ~」と悲鳴を上げた。
こうして、謀反の動かぬ証拠を突きつけられ、執行委員長はペシャンコになった。誇り高き騎士団にとって、命よりも騎士の身分の方が大事のようだ。執行委員長は、うめき声を上げた。
「大人しく言うことをきくなら、謀反のことは不問に付してもいいけどね。どうする?」
「むむむ…… だが、少しは我々の立場も汲んでもらえないだろうか。他の騎士たちの手前、手ぶらで帰るわけには……」
事情はだいたい想像がつく。執行委員会も立場的に苦労が多いのだ。もし、何も得るものがなければ、騎士会で責任を問われ(つまり吊し上げ)、総辞職させられるというのだろう。
「それじゃ、宝石産出地帯から産出される宝石のうち30%を騎士団の取り分としましょう。それで騎士たちを説得しなさいよ。でも、総攻撃に遅れてはダメよ。その時は、どうなるか分かってるでしょうね」
執行委員長は多少の抵抗を見せたものの、結局、受け入れる以外なかった。




