会談開始
予想に反し、ドワーフ傭兵が大挙して押しかけてきたことで、段取りがおかしくなってしまった。多くても、せいぜい20人程度だろうと思っていたのに、100人以上で来られたものだから、こっそり暗殺というわけにはいかないだろう。仮に皆殺しにできたとしても、このことを、町の外に残っているウェルシー派遣軍本隊に覚られたら意味がない。ドワーフ傭兵が異変を察知して準備万端整えれば、奇襲は通じまい。
どうしたものかと思案していると、またもやフラリとガイウスが現れ、
「なんだか、すごいことになっているようだね」
「そうなのよ。ドワーフが、こんなに大勢でやってくるなんて、思わなかったから」
「まあ、こういうときは、昔ながらの常套手段と言うか……」
ガイウスは、わたしの耳元でヒソヒソとささやいた。わたしは話を聞きながら何度かうなずき、すぐさまそれを実行に移した。すなわち、館の倉庫から酒を取り出すと同時に、ドーンに町中の(残り少ない)酒を徴発させ、それをドワーフ傭兵にふるまって酔わせようという作戦。随行は会談が終わるまで手持ち無沙汰だろう。「交渉の間、どうど、ごゆるりとおくつろぎ下さい」ということで。
なお、このところの食糧難のせいで酒も不足気味。そこで、苦肉の策として、倉庫の片隅に少しだけ残っていたカオス・スペシャルも酒に混ぜ(さらに水で薄めて)、適当にごまかすことにした。
そうこうしている間に時間が来たので、ドワーフ傭兵の接待はドーンたち猟犬隊に任せ、わたしはマーチャント商会ウェルシー派遣部隊総司令官との会談に臨むこととなった。ガサツな猟犬隊の連中に接待ができるかどうか、不安もあるが、ここは信じる以外ない。なお、会談場所は、急遽、館の応接室に変更された。
会談は、終始、和やかな雰囲気で進んだ。会談の席上に限った話ではあるが、マーチャント商会側の要求が、ほぼ100%受け入れられるのだから、総司令官の機嫌が悪いはずがない。怪しまれないよう、わたしは適当に本質的でない部分でささやかな抵抗を試みながら、交渉を進めた。
そして、1時間ばかり話し合いが続き、話がまとまりかけたところで、わたしは「重要なことなので、部下と相談したい」と言って席を外した。司令官は「どうぞどうぞ」と余裕の表情。
応接室から廊下に出ると、ドーンが待ち構えていて、
「カトリーナ様、うまくいったようです。ドワーフ傭兵どもは、カオス・スペシャル入りの酒を飲みまくって、ラリっています。その代わり、この町の酒は、ほとんどなくなっちまいましたが」
「本当に? マンガみたいだけど、うまくいってよかったわ」
「多分、既に勝ったつもりでいるんだろう。もともとドワーフは欲望に忠実な……すなわち煩悩を体現しているような連中だから、タダ酒を飲むチャンスを逃すはずはないよ」
ガイウスは会心の笑みを浮かべた。




