スライムとトログロダイト
ガイウスは指差し確認で、もう一度、人数を数え、
「うん、大丈夫、全員ついて来ているな」
しかし、それにしても、なんというひどいニオイ。胸がムカムカとしてくるけど、ダーク・エルフたちは、なんともないのだろうか。チラッと後ろを見ると、クラウディアが顔をしかめて鼻を押さえている。
「チャッチャとやっちゃいましょ……」
と、クラウディアはいかにも辛そうな雰囲気。エルフの嗅覚が特別に鈍感ということはないらしい。
ガイウスは、全員を前にして、
「え~っと…… 来る前にしておけばよかったが、一応、手短に、スライム及びトログロダイトの紹介と、段取りの説明をしよう」
何も、こんなところでしなくても……
説明によれば、スライムとは、動物なのか植物なのか、単細胞なのか多細胞なのか、更には強いのか弱いのか、よく分からないモンスターであるが、帝都の下水道に生息するブラックスライムは、下水の表層を漂い、たまたま足を踏み入れた生物にピタッと貼りつき、消化液を分泌する(つまり体外消化)。木や金属を溶かす能力はないので、犠牲になるのは、たまたま下水道に足を踏み入れた初級の(反射神経の鈍い)魔法使いやシーフなど。経験豊かな完全武装の戦士にとっては、大した脅威ではない。
トログロダイトとは、洞穴やダンジョンなど、暗くて狭いところを好み、トカゲをやや前かがみの二足歩行にしたようなモンスターである。リザードマンよりも小さく、背の高さは120センチメートル程度。知能は3歳児並みで、性格は極めて凶暴。リザードマンとの系統的な関係は不明。リザードマンは関係を否定しており、うっかりとリザードマンを指して「トログロダイト」と言ったりすると半殺しにされるので、注意が必要である。
段取りは、簡単に言うと、下水の表面にいるブラックスライムをひしゃくですくい取り、甕に入れるだけ。なお、トログロダイトをこちらから探しにいく必要はない。ブラックスライムの生息地とトログロダイトの生息地は近く、ガヤガヤと、これ見よがしに作業をしていれば、そのうちに好奇心一杯のトログロダイトが湧いて出てくるはずとのこと。適当にやっつけて、尻尾を切り取って持って帰ればよい。
ようやく(「手短に」とはいかなかった)説明が終わり、
「では、行こう」
ガイウスは四畳半のドアを開けた。その外には、舗装されていない道にゴミが散らばり、ほったて小屋のような家が(果たして、「家」と言えるようなものかどうか……)ひしめき合っている。典型的なスラム街の光景だ。
しばらく進んでいくと、何やらトンネル状の……丁度、地下鉄の入り口のような構築物があった。ガイウスは入って行く。これが下水道への入り口のようだ。その脇には、「作業員専用、立ち入り禁止」と書かれたプラカードが立て掛けられている。でも、プラカードを立てるだけでは意味がないだろう。




