弾劾裁判は唐突に……まあ有罪一択ですが
「被告人、高城誠司を有罪とする」
たぁん! と机を打ち鳴らし高城誠司の級友は彼を裁いた。
リア充死すべし慈悲はない。それはこのクラスで唯一無二の不文律……卒業してみんながバラバラになった後? そんなこと知るか。今この瞬間が俺たち私たちの青春なのである。
「そんなっ! セイ様が何をしたというんです!?」
胸の前で手を組んでフレンダが一生懸命にセイの無実を訴えたが駄目だった。
「天城真由子……君いつからセイをそう呼ぶようになったんだ?」
「あま……ぎ?」
「もがーーー!」
「いつもは『下僕』とか『わんこ』とか口にするのもはばかられるあだ名で呼んでたじゃないか」
「そんな! 私はいつでも『ご主人様』とか『セイ様』とお呼びしてお慕いしてるんです!」
むしろちょっとそんな風に自分を呼ぶセイに会ってみたい。とはさすがに口にしなかったがフレンダさんひたすら大混乱です。なぜかって? セイ君現在問答無用で猿轡をされて教室の真ん中に転がされてるんですよ。
「むしろ私をわんこ呼びしてしいたげてもらいたい!!」
あ、言っちゃったよフレンダさん。
「極刑にしよう。そうしよう、クラスの女神。雑誌モデルまでしてクラスの男子どころか女子すら虜にする美貌の持ち主……しかも高校一年生の時点で飛び級を望まれるほどの知識と知能を備える天城真由子を奴隷にするだってぇぇ!?」
「問題が一つあるとすれば!! どうしようもない性格クズだという所だけ!!」
「大体の被害者はセイだけどな!! 足置きにされたり椅子にされたり!!」
説明ありがとうございますモブのクラスメイトさん。
「どうしてセイ様をそんな集中的に?」
「え、小学校のころ家が隣で好きになったらしいけど中学校で告白したとき……」
「ちょっと性格的にごめんなさい。とフラれて反転したみたいだよ?」
結構えり好み激しいなセイ……。
とはいえそんな事があって以降、天城真由子は徹底的にセイにつらく当たった。
つもりであった。
「ぷはっ!? ちょっとみんな!! フレンダに何を吹き込んでいるんだよ!!」
何とか猿轡を自力ではがしてセイがわめきたてる。両手両足共に結束バンドで固定されていてゴロゴロと転がりまわるのが滑稽だが本人はそれどころじゃない。
「体は真由子で中身がフレンダだったら最高じゃないか!! 当たり前だろ!?」
…………はい?
「大体僕常々思ってたんだよ!! あの性格さえ何とかすれば真由子は美人でかっこいい系なんだけど絶対僕を尻に敷き始める!! 実際みんなも見ただろう!?」
「セイ君がちょっと顔を赤らめながら椅子になってるのちょっと気持ち悪かったかも」
「あ、私もちょっと前かがみになってたセイ君が居たたまれなかったけど気持ち悪かった」
次々と同意する女子勢にセイの眼が点になる。昨日までちょっと良いよねとか言われてたのに……。
「どうせ尻だったんだろ? 胸派の俺たちの眼は誤魔化せない。セイ……お前だけ良い目を見させてたまるか」
「いいえ! セイ様は胸派です!! イベントの際にお知り合いの方のNPCを舐めまわすように胸部を観察してスクショしたことを気づかれてアカウント停止処分72時間の刑に処されたほどです!」
「フレンダ、お願いそのことは黙ってて……」
「ついでに言えばメイド服がセイ様はお好みです!! ロングスカートで胸元が出ているのが特に!!」
「お願いフレンダそれは言わないで!?」
びょんびょんと不自然なほどにはねるコイキ〇グもとい……セイが半泣きになりながらフレンダに懇願する。まあそこまですれば流石にクラスメイトもなんか違うなぁ、と疑問に思ったらしくセイに改めて問いかけた。
「で? お前は胸か尻か?」
「圧倒的胸派だ」
ちがう!! そうじゃない!! 物語が一向に進まない!!
「テイク2でーす」
モブの女の子ありがとう!!
「で? なんで昏睡してた天城真由子が元気なの?」
「多分……ほのぼのライフのんびりしようぜに精神丸っと入れちゃったんじゃないかな? ほら、真由子の異能って」
「電子変換だっけ……え、そんなことできるの?」
「真実はいつも目の前に……フレンダは間違いなくフレンダだったし」
胸を見ていたことをしってるのは彼女だけだしね!! と吐き捨てる所まで言って、当の本人を見てみると。
「みてくださいセイ様!! こんなにお菓子いただきました!! おいひいれすよ?」
幸せそうな笑みでクラスの女子とお茶会に興じていたのだった。
「あの、朝のホームルーム……」
最初から最後まで無視されていた臼井幸子教諭が悲しそうにつぶやくのを誰も気にしなかった。結局一時間目の現国の授業が始まるまで原告のセイは追及の嵐に晒される。
「そういえば『ほのライ』ってもうすぐサービス終わるんじゃねぇの?」
天城真由子の危機に誰か気づいてあげて!?