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三十話 02 スタンピード

 王都中に緊急事態宣言が発動された翌日。

 《陽炎の迷宮(ダンジョン)》前に設営された高台にハボッコが到着した。


「ふうやれやれ。この《蒼炎の大掟(そうえんのたいてい)》のハボッコ様だけ仲間ハズレとは。でも仕方ないですね新米の《S級(エスランク)》冒険者では頼りない。私が導いて差し上げなければ、ふふふ」

「ハボッコ様お待ちしておりました」


 ハボッコは気持ち悪い薄ら笑いを浮かべながら高台に上がると、弧を描くように3000人の冒険者が《魔物の大氾濫(スタンピード)》に備えているのが見える。


「うむ。それでその《S級(エスランク)》冒険者って言うのは何処に?」


 高台で待機していた受付人にハボッコは尋ねる。


「あちらに……」

「あれは……あの時の冒険者志望の生意気な少年じゃないか。何でピンピンしてるんだ? ギギースの奴め最近顔を出さなくなったと思ったが、さてはサボったな」


 高台近くの天幕でテルトとエナが涼んでいた。

 二人の姿を見てハボッコは思い出す。


 あの日以来《暗影の黒犀(あんえいのくろさい)》はハボッコの根城にパッタリと来なくなっていた。

 これまでずっと忠実な下僕だったのに。


「それより嘘はやめたまえ冒険者になれるのは一八歳からだ、彼等が冒険者な訳が無いだろう」

「いえ、あの。その特例で……」


 自分の事にしか興味がないハボッコが、新しく生まれた《S級(エスランク)》冒険者の事を知ってる訳がなかった。


「そんな特例なんてあるわけ無いだろ? ははーんさては噂の《S級(エスランク)》冒険者達あまりの責任の重さに逃げ出したな? まあいいでしょうスタンピドなどこのハボッコ様が1人居ればなんとでもなります」

「はっ、はぁ……」


 ハボッコは勝手に何か納得した様子でテルト達の天幕へ向かって行く。

 何を言っても無駄だと悟った受付人は気の無い返事をしてそれを見送った。




◇◇◇




 《陽炎の迷宮(ダンジョン)》前では時折地響きが鳴る。


 これが《魔物の大氾濫(スタンピード)》の予兆なのかな?

 地響きが鳴るたびに何人もの冒険者は立ち上がって身構えた。

 何時始まるか分からないってのも大変だな。


「おいおい君達駄目じゃないかこんな所にいちゃ」

「あっハボッコ……さん」


 俺達《極昂の虹(きょっこうのにじ)》が全員で天幕の影で涼んでいると、後ろの高台からハボッコが声をかけてきた。


 エナが返事をしたけど俺はちらりと見ただけで視線を合わせないようにした。


「おお、お嬢さん今日も麗しい……」


 エナの姿を見たハボッコがまた仰々しい会釈をする。

 エナにちょっかいを出すまでは放置しよ。

 相手するのもめんどくさいし。


「なんだコイツ?」

「コイツがハボッコだよ」


 クーベル達にハボッコの事は話してなかった。めんどくさいし。


「これからこの国を救う救国の英雄ハボッコ様に対して何という無礼! 大体なんなんだね君達は、ここは子供が居ていい場所じゃない。早くお家に帰りなさい」

「いや俺達は《S級(エスランク)》冒険者として魔獣の……」

「はぁ……、またそんな嘘を付いて……」

「いや嘘じゃねぇよ」


 ロイナードのおっさん俺達の事をハボッコに説明していないのか?

 まあどうでも良いか。

 くだらない話はエナとクーベルに任せよう。


「もう付き合い切れません。良いですか私が指揮を取るので邪魔しないように!」

「はいはい」


 そう言ってハボッコは高台の上に戻っていった。


「変な人ですね……」

「お前に言われちゃ世話ねぇな」

「クーベルどういう意味ですか?」


 流石にプリシナよりハボッコの方が変だとは思うけど。

 確かにいい勝負だ。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ………………!


 ハボッコが来てから30分程した頃にまた地響きが始まった。


 でも今回の地響きはやけに長い。

 しかも徐々に大きくなっていく。


 《陽炎の迷宮(ダンジョン)》の陽炎が大きく揺れて立ち上った。


 これまでと違う異変を感じてほぼ全ての冒険者が立ち上がり出した。


「始まった様ですね《魔物の大氾濫(スタンピード)》が。さあ冒険者諸君私の指揮に従いたまえ!」

「おおっ! ハボッコ様! ロイナード様に次ぐ智謀があると自称してるハボッコ様だ!」

「おい自称でいいのかよ!」


ドォオオオオオオォォォォーーーーン!


「来たぞ隊列を整えろ!」


 大きな音が鳴り響いて《陽炎の迷宮(ダンジョン)》の入口が爆発し噴煙が上がる。

 冒険者の隊列から怒声が飛び交う!

 どうやら本当に《魔物の大氾濫(スタンピード)》ってのがが始まったらしい!


ドドドドドドドドドドッ!


「凄い数の魔獣の群れだ……!」


 噴煙の中から魔物の群れが煙を引いて溢れ出した。

 群れは四方八方に向かっていく。


 冒険者は《陽炎の迷宮(ダンジョン)》の4割くらいしか包囲していない。

 その殆どは野放しになる。


 でも仕方ないよな。

 まず目下の目的はは王都に向かう魔獣をせき止める事だ。


「右翼はそのままそこで迎撃! 左翼は奥に移動して敵を足止め! 中央の《A級(エーランク)》部隊は正面の強敵に集中です!」

「おおおおおぉぉぉぉーーーーっ!」


 ハボッコが高台から異常な大声で指揮を取った。


 声を増幅するスキルかな?

 これなら間違いなく全冒険者に聞こえるだろう。


「凄い…………!」

「左翼もっと広がって! わざと魔物を逃して王都の騎士に倒させなさい! 全て冒険者だけで倒そうとしない‼」


 ハボッコの指揮は素人目にも正確だった。


 強い魔物にはA級(エーランク)》冒険者を当てて、数が多すぎる時はわざと取り逃がして王都前に待機している騎士団に押し付ける。

 いい感じのずる賢さを持っていた。


「ふぅん、指揮だけは本当にできるみたいだな」

「はんっ、当然です! もっとも魔法の方もロイナード師匠に次ぐ実力がありますけどね!」


 周囲は魔物と戦う喧騒でごった返してるのに、ハボッコはクーベルの言葉を聞き逃さずに自慢気になる。


 聴覚スキルも持ってそうだな。


 魔物の襲撃は波状攻撃で40分から1時間毎に300匹から600匹程度の魔物が溢れ出た。


 冒険者3000人と数では勝っても、魔獣には大型の魔物もいて《A級(エーランク)》冒険者以上でなければ対処出来ない。


 《A級(エーランク)》冒険者は120人くらいしか居ない貴重な戦力なので、長丁場で負担をかけられない。


「俺達はどうするんだ?」

「《ギガントクラス》って言う巨大な魔物が出てくるらしい。それに備えて出来るだけ消耗するなってさ」


 ロイナードの指示書にはそう書かれていた。

 なんだかサボってるみたいで申し訳ないけど。


 今の所は負傷者10名くらいで済んでいた。

 死にさえしなければ4人くらい居る聖魔法の治癒師が傷を癒せる。

 重傷者でも最悪プリシナが居る。


「ふんっ! 何を馬鹿な事を《ギガントクラス》は《陽炎の迷宮(ダンジョン)》でたまに目撃が報告される伝説の巨大な魔物です。《魔物の大氾濫(スタンピード)》が起こるたびに強力な魔物が出る事から8回目の《魔物の大氾濫(スタンピード)》では《ギガントクラス》が出現すると予見されてはいますが。

そんな物がもし本当に存在するとしたら、私でも手も足も出ません。それこそこの世の終わりでしょう。実在する訳がありませんバカバカしい!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ………………!


 ハボッコの長い解説の後。

 今までで一番大きな地響きが鳴り響いた。


「なっ! 何だこの地響きは!」


ドッゴォオオオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーンッ!


 そして今までで一番大きな噴煙が巻き上がる。

 まるで大量のダイナマイトの爆発だ。

 そして土煙の中に巨大な影が浮かび上がる。


「何だあれは……!」

「でっ、でかい…………!」

「あれは《大角の巨蛇ギガント・ケラス・ナーガ》!ギッ、《ギガントクラス》だ!」


 煙から出てきたのは《大角の巨蛇ギガント・ケラス・ナーガ》。

 頭に鋭い角が2つ伸びた大蛇だ。

 その大きさは……遠くて分からないけど相当デカイ。


「なんだってぇーーーーーーーーーーーーーッ!」


 ハボッコが顔が驚愕に歪めながら叫んだ。


 ……うるさいなぁ。

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