二十六話 03 踏破せし者達
俺とアグニス、もとい白瀬貴明は近くの赤い大岩の日陰にお互い向かいって座っていた。
「ミッションは大体3つくらいのタイプに分けられる」
「3つ?」
「1つは共通ミッション。《陽炎の迷宮》を攻略したりチュートリアルとか。多分《転生者》全員に共通してるミッションだと思う」
ふむふむ。確かにそれは俺の意思とは関係なく発生するミッションだ。
と言うか全員共通? …………もしかしてあのミッションも共通なのか!
「あの存在承認ミッションクリアしたの⁉」
「……あーあれか。めっちゃきつかったけど、男をだまくらかしてギリギリ……テルトは男のガワでよくクリアできたな?」
「いや、なんとかね……かなり危ななった」
やっぱりあの鬼畜ミッションも共通だったのか。
どうやら白瀬は女の武器を使って解決したらしい。
俺はマジで死にかけたんだけどズルいな。
「そうか。で、もう1つが治安ミッション。この世界の秩序を守るようなミッションで報酬スキルが割と美味しい」
「へぇ……」
治安ミッションか。
いまいち分からないな。俺もやった事あるのかな?
「多分テルトはこのミッションあまりこなして無いんじゃないか? 冒険者になると街の治安の依頼も受けれて良いスキル稼ぎになるんだ」
「俺も見た目年齢さえ18歳超えてればなぁ」
でも《陽炎の迷宮》は確かに危険だ。
未成年をホイホイ送り込めないんだろう。
「で、最後がテルトが言ってたような自発系のミッション。これはあまり経験が無いから不明。治安ミッションとたまに混ざるみたいな気がする」
「そういう事か……」
エナの言う条件に当てはまらないミッションがあった謎がやっと分かった。
エナの言う事は間違ってはいなかったんだ。
「それと報酬のスキルもどうやら自分にちなんだスキルが優遇されるらしい。足が早けりゃ移動スキルが良かったり……テルトは格闘技やってたんじゃないか?」
「あーそっか、それで俺は格闘系のスキルが最初は多かったのか」
それで俺が実際に剣を使う様になるまで剣撃スキルとかが手に入らなかったのか。
言われてみれば他のスキルも俺が得意なものに関連してるな。
「そうそう。だから自分そのものを高めないと良いスキルは手に入らない。それが今の所の推論だな……例外も幾つか例外もあるから確実かどうかは分からないけど」
「自分も高めないとか……」
それも薄々感じていた。だから俺はスキルに頼らない肉体のトレーニングを始めたんだ。
情報交換が終わった後も俺と白瀬は色々な話しをした。
好きなゲームの話しから人に聞かせられないシモネタトークまでたっぷり2時間くらい。
「色々ありがとう白瀬さん」
「俺の事は今後アグニスって呼んでくれ、癖が付いてみんなの前で呼ばれたら困るし」
「わかりました」
「よし。じゃこれからも定期的に連絡取り合おう」
「はい」
この異世界で地球人のしかも日本人の友達が出来るとは思わなかった。
エナやクーベルとは違う意味での頼もしい協力者だ。
◇◇◇
俺達《S級》冒険者パーティの《極昂の虹》は《陽炎の迷宮》の最下層の最深部に居る。
そこで今入るたびに復活する《陽炎の迷宮》のボスと戦っていた。
ちなみにパーティ名は《極昂の虹》で行く事にした。
俺はあまりパッとしてないんけどみんな特に不満を言わない。
もしかしたらこの世界の発音だとカッコいい感じなのかもな。
ドオォオオォォーーーーン!
「ついに倒せましたね」
「これで、第8層まで完全踏破です」
そしてたった今そのボス《八つ手の竜》を倒し終えた。
もう俺達は《砂足蜘蛛》が実は《陽炎の迷宮》深部の難敵だった事も知っている。
マルキス達に騙されていた事には腹が立つけど、その件で冒険者組合から制裁があったらしいしわざわざ仕返しするのも馬鹿らしい。
「凄いです! でもこれからどうするんです? テルト、もう終わりなんですか?」
「終わり? まさか冒険者を引退するのか? 折角稼げるようになったのに勿体ねぇ」
確かに稼ぎは悪くない。
もう既に日本で言う所の1000万円くらいは稼いでいた。
税金やらギルド費を抜いて使えるのは500万円くらいだけど。それでも相当な稼ぎだ。
「……いやまだだ。まだ《陽炎の迷宮》の攻略は終わっていない」
「テルト?」
お金なんかは二の次だ。
まだ始まりのミッション『異世界に転生し《陽炎の迷宮》を攻略せよ』は終わりを告げていない。
その理由を調べてアグニスこと白瀬貴明より先にミッションをクリアしてみせる。
それが今の俺のささやかな目標になっていた。
「へっ、何を考えてんだか」
「あれ? 所でプリシナさんは?」
「あそこだよ」
クーベルが指差す場所でプリシナがボスの魔石をリュックに詰めて、シャロンに背負わせていた。
「さあシャロン歩いて下さい」
「ミュ……! ニャ…………」
「駄目ですか? 重すぎますか?」
「ミャニュ」
ボスの魔石は重すぎてとてもシャロンには持てそうになかった。
「仕方ないですね。では私が持って上げましょう。よいしょ」
「ミュニャ?」
そういってプリシナはシャロンをリュックごと軽々と抱きかかえた。
「いやそうじゃねーだろ! お前が魔石を持ってあげりゃ良いだろ‼」
「あっ、そうか!」
「あははっ……」
『あっ、そうか』じゃ無いんだよな。
と言うかね。
シャロンも20キロくらいあるし。
魔石だって20キロくらいあるし。
合わせると40キロだよ?
どんだけ力持ってるんだよ!
「これがレベル補正による筋力強化の力か……」
「さっ、バカは放っといて戻ろうぜ」
「そうしましょう」
「失礼なシャロンはバカじゃありませんよ‼」
「お前の事だプリシナ!」
クーベルのツッコミが洞窟内にこだまする。
◇◇◇
観測ステーションと呼ばれる円柱が4つ重なるピラミッド状のオフィス。
「やっと白瀬貴明くんと裏瑪照斗が接触できましたか、望月さんそっちの井上稔さんはどうなりました?」
その上から3段目のオフィスで望月に高木が問いかける。
「8時間前に死亡しています」
「えっ? どうして⁉」
「スローライフを満喫するんだとか言って、ミッションを放棄したためです」
「……そんな……、せっかく順調だったのに」
ミッションの放棄転生者へのあらゆるサポートが打ち切られる。
その結果は死である。
「どうしてでしょう。異世界に転生させられたら普通は何かそれなりの使命があると考えて良さそうなものですが」
「48歳男性の会社員ですか……現実社会に疲れて居たのかも知れませんね」
「……そうなのかもしれないですね」
新たな世界で新たな人生をやり直したいと思うのも無理はない。
そんな会話をする2人の上。
ピラミッドの頂点に一際大きな頭部を持ち、細く吊り上がった2つの目と口元を隠すほど長い鼻のある巨大な生物が、何かを感じ取った様にモニターを見て目を細めた。
『そろそろ……始まる……』
低い生体音を微かに高鳴らせながら呟く。
『世界を壊し尽くす魔嘔が────』
まだ真の《陽炎の迷宮》は生まれてすらいない。
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