二十六話 02 同郷の者
俺の問にアグニスは真面目な顔でしばらく黙っている。
「……ふふっ……」
やがてアグニスは口角を上げて僅かな笑い声を漏らし始めた。
「…………テルトお前《転生者》だろ?」
「⁉」
次にアグニスの口から出た言葉に俺は背筋が硬直した。
俺が《転生者》だって知っている? この世界の人間も《転生者》の存在を知っていたのか⁉
「くくくくっ……それも日本人だろ?」
いや、違う……それより先に考えなきゃいけない可能性があるじゃないか!
「まっ……まさか!」
「あっはっはっはっはっはっ、だってお前見た目まんま日本人じゃん! 初めて見た時はビックリして笑いを隠すのに必死だったよ! ひぃーおっかしいー!」
これまで真面目で誠実そうだと思っていたアグニスが腹を抱えて少し下品に大笑いしている。
流石にこの世界の人間が『日本』なんて言葉まで知ってる訳がない。
間違いない……!
「アグニスお前も……!」
「……俺の名前は白瀬貴明18歳、日本人で仙台出身だ、お前は?」
やっぱりアグニスは俺と同じ《転生者》だった!
そう言えば転生する時キャラメイクで姿を変えられるんだだったな。
そりゃ俺の方からは気付けないよ!
「俺は裏瑪照斗年は16、ていうか男?」
さっきから白瀬の立ち振舞がどう見ても男のそれだったし、貴明って名前が明らかに男だ。
「ああそれな。転生する時のキャラメイクで女選んじまって。てっきりゲームの世界に入り込むもんだと思ってたからさ」
「なるほど、でもそうか転生者か。だからそんな無茶苦茶強かったのか」
別に女性に負けて悔しかったとかじゃないけど、それでもアグニスの異常な強さの理由が分かって少しホッとした。
「いや。それだけじゃ無い……俺には強くならなきゃいけない理由があったんだ……」
「……どうして?」
それまで陽気な顔をしていたアグニス……じゃない白瀬が急に神妙な顔になり、苦渋の表情に変化していった。
「このガワだよ! 調子に乗ってめちゃくちゃ美人にしちまった……、万が一男に襲われたらどうする‼」
「……っ!」
それって……まさか!
「この恐怖がわかるか⁉ 俺はホモじゃねぇ、体は女でも心は男だ! 男に抱かれるなんて絶対無理! いや……やるとしてもかなり厳選してからだな…………、襲われて無理やりなんておぞましすぎる! だから俺は強くなるしか無かったんだ! ……そうこの世の誰よりも‼」
「あははっ、なるほど!」
今度は俺が腹を抱えて笑う番になった。
まさかそんな理由かよ! と思ったけど確かにそれは退っ引きならない理由かもしれない。
俺は男の姿を選んでおいた良かったな。
「ふぅ……それでテルト、聞きたいんだけど他の《転生者》に会った事あるか?」
「いや……白瀬……さんが初めて、そっちは」
そうだ俺もずっと他の《転生者》を探していたんだ。
俺より先に冒険者になっていた白瀬ならもっと大勢の《転生者》と出会っているかもしれない。
「やっぱりそうか、俺もテルトが初めて会った《転生者》だ。冒険者になれば他の《転生者》に会えると思ったんだけど、年齢制限とか余計なもんあるし」
「そっか」
他の《転生者》との接触は無しか……、転生者はそれなりの数は居るはずだけど、この世界に広くに散らばっているのかも知れないな。
「隣の国とかもあるらしいけど、移動手段が無くてなかなかなぁ」
「隣の国か……」
交通機関の発達してないこの世界で隣国までの旅は数ヶ月は掛かりそう。
本格的に探しだすと数年単位になるかも。
「あと……、元の世界に戻る方法ってなんか無いかな?」
「えっ? 転生する時に転生したら死ぬって書いてなかった?」
「だよなぁ……、やっぱこの世界で生きて行かなきゃならないのか……」
もしかして白瀬はゲームだと思って適当に転生してしまったのかもな。
俺は元の世界に戻る事なんて考えても見なかった。
いや最初の数日は考えていたけど。
この世界に馴染んでからはこの世界に居る俺の方が自然なんじゃないかって感じがするんだ。不思議なもんだな。
「それより《陽炎の迷宮》の攻略は? 白瀬さんくらい強かったらもうクリア出来たんじゃない?」
「ああそれか、最深部までは行ったよ、でもミッションクリアの通知は出なかった、まだ攻略仕切ってない何かがあるのかもな」
「白瀬さんでもまだ無理か……」
あんだけ強ければ《陽炎の迷宮》を制覇してると思ったけど攻略の条件が違うのかな?
ともかく俺にもまだ《陽炎の迷宮》攻略一番乗りのチャンスはありそうだ。
「それでテルト、ミッションの事はどこまで把握してる?」
「ミンション? ……あんまり分かってないかな、自分がやりたいと思った時に発生するのかとも思ったけど、どうも違うみたいだし」
俺がどうしても他の《転生者》に会いたかった理由の1つ。
情報交換タイムだ。
特にミッションの発生条件には謎が多い。
エナの言う条件に合致しないミッションも在るし謎が深まるばかりなんだよな。
「なるほど、テルトはゲームとか得意か?」
「えっとあまり、ここ2年くらいかなやるようになったのは」
ゲームっていうのは当然テレビゲームの事だろう。
俺は中2の頃から本格的に没頭し始めたからそこまで詳しくはない。
「なら俺の方が詳しいか……分かってる範囲で教えてやるよ」
「本当に?」
どうやら白瀬は俺よりもミッションに関しての攻略が進んでいるようだ。




