二十五話 03 隠れた実力者
俺達は冒険者組合クロイセフォン支部の隣りにある魔石換金所に来ていた。
クーベルがカウンターの上に4つの大きなリュックを置く、中には2日かけてびっしりと集めた魔石が詰まっていた。
ドヨドヨドヨドヨッ……!
「これは……全部君達が?」
「はい」
堂々と答えた。
たとえ雑魚の《砂足蜘蛛》の魔石だろうとみんなで頑張って集めた魔石だ。恥じるところは無い。
「これは……《砂足蜘蛛》の魔石が20はある、《牛頭の巨人》、《灰色狼》まで⁉」
「馬鹿な! そんな強敵《S級》冒険者でなければ倒せるわけが!」
「だから言ったでしょうゲラルフ、彼等は既に《S級》冒険者の実力があると」
ん、どういう事だ?
《砂足蜘蛛》くらいで驚いて?
そういえば色違いがいたからレアが紛れてたのかな?
でも……それだけで《S級》冒険者?
なんだか話しがおかしくないか?
いつの間にか話を聞きつけて、ギルド長とロイナード達《蒼炎の大定》のメンバーも集まっていた。
「いやあり得ない!」
「無理だ! ロイナード様がなんと言おうと、いくらなんでもこんな事ができるわけがない! 何か騙されておられるのだ!」
「聖女様はまだしも、こんな少年少女が……きっと何かのインチキに決まっている!」
突然何やら風向きが変わってきた。インチキってなんだよ?
確かに《牛頭の巨人》や《灰色狼》は中々歯ごたえはあったけど、所詮は第1階層の敵だろ?
「そうだ! 俺達は魔獣を倒す所を見てないし信じられない!」
「こんな事が出来る逸材が今まで無名だなんておかしすぎる!」
「ザワザワザワザワ……!」
完全に換金所内の空気が変わった。
集まった大勢の冒険者達が俺達に非難の声と侮蔑の目を向ける。
「テルト……」
「……」
不安そうな顔でエナが見つめてくるけど俺にはどうしようもない。
だってこの冒険者達が何が不満で何に怒ってるのか俺には分からない。
説得も反論もしようがないよ。
「はぁ…………やれやれ。皆さんつい先頃、ここに居る聖女プリシナ様を元聖司祭のマクウェルが暗殺しようとしていた事件はご存知ですよね?」
その空気を打ち破るようにロイナードが語りだす。
突然なんの話だ?
「はい、何でも謎の剣士が聖女様を救うと名乗りもせずに立ち去ったと言う」
「謎の剣士が誰かって話題でもちきりだよな」
へぇ、そんな噂になってたんだ。
《陽炎の迷宮》に籠もりっきりで知らなかった。
「何を隠そう、その聖女暗殺事件を解決した者こそ、このテルト・リバース少年なのです。世間では伏せられている事実ですが」
「なっ、何でその事を⁉」
その事は聖教会の聖騎士と一部の兵士と俺だけの秘密な筈だ。
聖教会の人達は誠実な人ばかりで人に漏らすとは思えない。
ロイナードの人脈の力だろうか?
「何だって! 謎の剣士がそこの少年? 信じられない!」
「嘘じゃないのか? それが本当ならとんでもない功績だ!」
「事実です」
「聖女様!」
聖女様も知っていたんだ。まあ当然か。
プリシナはこう見えても聖教会の中でもトップ3くらいに偉いらしい。
能力での貢献度が相当凄いんだろう。
「それだけではない。先ごろ乱心し世間で人斬りと恐れられた元聖騎士のユリザが、先頃倒された事を知っているか?」
続けてピグザールが語りだす。
「あの要人を暗殺しまくっていた乱心殺人鬼ユリザの事件ですか?」
「いや倒されたと言うのは初耳ですが」
ユリザってそんな有名な殺人鬼だったのか。
「それを倒したのも、このテルト・リバースである」
「なっ、何でその事を⁉」
……ってそれも何で知ってんだよ! それこそ俺とエナとクーベル、そしてプリシナしか知らない絶対の秘密だ!
「ユリザと言えば、王国最強と名高い聖騎士の中でも随一の強さと言われる⁉」
「本当だとしたら、とんでもない大手柄じゃないか!」
「……事実です」
「聖女様!」
俺はプリシナの顔を見ると『私は知らない』と言った顔で首を振った。
ならどうしてこのピグザールっておっさんは知ってるんだよ!
「ついでに。サンザーラの大幹部である《ネグザレム》が最近何者かに倒されたのはご存知?」
続けてアグニスまでもが語りだす。
「そう言えば裏社会の知り合いから《魔人》が倒された噂を聞いた事がある」
「あの噂は本当だったのか?」
《ネグザレム》が《魔人》だって事も知ってる人は知っているのか。
「それをを倒したのも、ここにいるテルト・リバースです」
「なっ、どうしてその事まで⁉」
だから何で知ってるんだ!
いやもう良いや、どうして知ってるかを考えるのを止めよう。
……ツッコミに疲れた。
「伝説の《魔人》ではないかと噂されていたネグザレムを⁉ 凄すぎる!」
「だとしたら、英雄級のとんでもない活躍じゃないか!」
「それも事実です」
「聖女様!」
プリシナが腕を腰に当てその巨大な胸を突き出して不敵にうなずいている。
「聖女様ご本人が言うなら本当に違いない! そもそも聖女様がパーティに加わったのもそのご縁があっての事だろう!」
「全くもってその通りです」
プリシナはのけぞりながら今にも後ろに倒れそうになってうなずく。
乳がボインボインと激しく倒れそうなほど揺れる。
倒れてしまえ。
「これでわかりましたか? ギルド長ゲラルフ殿そして皆さん。彼等は無名ではありません。知る人ぞ知る真の実力者だったのですよ!」
ザワザワザワザワ…………
「うぐぐ……分かった! テルト・リバースを《S級》冒険者として認める‼ 合わせて《極昂の虹》も《S級》パーティとする!」
えっ? 《S級》冒険者って結構凄いんだろ?
それを第1階層をやっと踏破しただけの俺達が?
話しが端過ぎる。なんで急にそこに話しが飛ぶんだよ!
「おおおーーーっ! この王都に新たな《S級》冒険者が! 6人目の冒険者が!」
「こんな逸材がこれまで隠れてたなんて‼」
「こりゃ大ニュースだ! 今すぐ新聞社へ連絡だ!」
周囲の冒険者が大声で騒ぎ出した。
新聞とかホント勘弁してほしい。
ひっそり目立たず《陽炎の迷宮》攻略する俺のプランが崩壊してしまう!
「凄いですテルト!」
「テルト凄い!」
「やったなテルト!」
「私の次くらいの凄さですね。誇ると良いでしょう」
「それの何が凄いのか分からないけど、ありがとう」
とりあえず仲間の祝福は受け取っておくか。
「やれやれ…………」
最後にロイナードがため息を付いたけど、ため息付きたいのは俺の方だよ。
◇◇◇
数刻後。
魔石換金所の隣にある冒険者組合クロイセフォン支部では《A級》冒険者《荒砂の猟犬》のマルキス達が受付の男に呼び止められていた。
「それで……? マルキス、《砂足蜘蛛》は倒せたか?」
「いやそれが……! おっ、俺達が戦ってる時にあいつらに邪魔されてさ!」
マルキスが良い訳を考えているとテルトがギルド長と一緒に中に入って来るのが見えた。
「そっ、そうそうもう少しで倒せたのにあいつらに横どりされちゃってさ!」
「……ふーん、あの新たな《S級》冒険者《極昂の虹》のリーダーのテルト・リバースにか?」
マルキスが指差す場所にいるテルトは、ギルド長と一緒にそのまま階段を昇って行った。
それを目で追った後に確認した受付はそう言い放つ。
「えっ? 《S級》冒険者?」
マルキス達はテルトが《S級》冒険者になった事を知らなかった。
「はぁ……、実はタレコミがあってな。お前たちが倒したとされる《砂足蜘蛛》も、実はあのテルト・リバースが倒したんだっていう奴が居るんだ」
「そっ、そんな馬鹿な!」
「うっ嘘だ! 誰だよそんなデタラメなタレコミしたやつは!」
その事は誰も知ってるはずがない。マルキスは絶対に嘘だと思った。
「俺だよ」
「なっ! オメロスさん!」
後ろから声がしてマルキス達の後振り返ると、そこには王都に5人……今は6人しか居ない《S級》冒険者の《蒼炎の大掟》のパーティメンバーでもあるオメロス・カッタレーが立っていた。
「正確には僕なんですけどね、まあいいですけど」
「そんな……」
その隣には20歳程の特徴の無い黒髪の優男が何時ものように不満そうな顔でボソリと文句を言った。
「とは言えオメロスさんもよく嘘を付くからな。それに期限はまだ1日ある。今日中に《砂足蜘蛛》を倒してきたら約束通り降級は無しにしてやる。どうする?」
オメロスはそのやる気の無い態度と杜撰な性格から信用が低い。
面倒くさいことから逃げるために平然と嘘を付く男だ。
受付の男もあまり信じていない。
「ぐうぅぅーーーー……! わかったやってや……ムグッ!」
顔を真赤にして引き受けようとしたマルキスの顔と口を後ろの仲間が羽交い締めにして塞いだ。
「いっ、いや! 《砂足蜘蛛》を倒せたのは本当だけど、あれはまぐれだったし」
「そっ、そうだねまた《B級》からやり直すのもいいかなぁー……なんて!」
「ムグッムグッ!」
マルキスが何かを必死で言おうと藻掻いているが2人は必死でそれを押さえつける。
「……物は言いようだなぁお前ら」
「他の冒険者にもとっくにバレてるぞ」
「よりによって《極昂の虹》のテルト・リバースに喧嘩を売るとは馬鹿だねぇ」
「あっはっはっはっはっはっはっ!」
いつの間にか大勢の冒険者がマルキス達の後ろにやって来て大笑いしていた。
冒険者の多くがマルキス達が《A級》相当の実力を持っていない事は知っている。
「あはっ……あははっ……」
マルキス達は顔を真っ赤にして冒険者組合の建物からから逃げ出して行った。
「彼奴等には大事な仕事を回さないようにするか」
受付は最後にそう呟いた。
冒険者には《陽炎の迷宮》以外にも美味しい魔物討伐依頼が来ることがある。それらの斡旋のさじ加減は受付が握っていた。
◇◇◇
俺は諸々の手続きを終えて冒険者組合の建物から出ると正面でアグニスが待ち構えていた。
「テルト・リバースちょっと良いか?」
「なに?」
「少し付き合ってくれ、2人だけで話がしたい」
俺はこのアグニスと言う人の事をほとんど知らない。
でも敵では無い気がする。
「……わかった」
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