二十五話 02 迷宮攻略
俺達が特例で冒険者になって2日後の早朝。
入念な作戦と準備を済ませて俺達は《陽炎の迷宮》にやって来ていた。
必要な物はやルール等はロイナードやピグザールから教わり、昨日は入学式の前日の様な忙しさだった。
「よしっ、みんな準備はいいか?」
「ええ」
「おうっ」
「私にドンとまかせなさい!」
最後の確認を済ませて目の前の《陽炎の迷宮》の入口を見上げる。
赤い岩が折り重なってまるで高温の熱を持っている様にゆらゆらと揺らめいていた。
他の場所の陽炎は近寄ると消えるのにこの陽炎だけは消える事がなく進むと体中を飲み込んでく。
数歩進むと地下へ通じる大穴があった。
「すげぇな、中はこうなってるのか」
「不思議な光……なんだか不気味です」
《陽炎の迷宮》の地下に降りると陽炎のゆらめきは大分収まった。
内部はつなぎ目やヒビのない岩の壁に所々に埋まる魔石が光を放つので、照明は必要無さそうだ。
「道が幾つも分かれています。どこから行きますか?」
数10メートルも歩かないうちに分かれ道がある。大きいものが3つ。小さい道が4つ。
大きい穴の先も30メートルほどで複数の分かれ道になっていた。
こりゃまさに迷宮だな。
「そうだなぁ」
マッピングに意味は無いって聞いた。
入るたびに地形が変わる。
……と言うか常に刻々と道が生まれたり消えたりするらしい。
リアルタイム不思議のダンジョンだ。
ただ出口と入口の方向は壁の文様や魔石の種類で分かるので脱出だけは簡単にでくるそうだ。進むのだけが難しい。
「こっち!」
「シャロン?」
「……道はどこでも良いんだしシャロンに付いていこう」
シャロンが右の道へ誘導する。
どの道を通っても大差無いと思うけどシャロンが言うなら何か理由がある気がした。
シャロンを信頼して付いて行く事にしよう。
「使い魔の感ってやつか?」
「でもそれだと魔物と出会えないのでは?」
「テルト! あそこにいるよ!」
「いやシャロンはちゃんと分かってたみたいだよ」
シャロンは俺達の目的を理解していてしっかり誘導してくれた。
「むむっ、賢いです」
「そうですシャロンは賢いんです!」
「どっかの聖女様と違ってな」
「失礼な!」
素のプリシナとシャロンの知性は多分いい勝負だな。
正確に視認出来る距離まで魔物に慎重に近寄って観察する。
人の姿に似た骨と皮だけになるまで痩せた魔物だ。
角と牙が生えて背中の背骨も鋭く尖る。
「あれは……多分《骸骨屍鬼》って魔物だな」
低層で一番ポピュラーな魔物だと聞いている。
ただ名前の付いていない変異種も多いので結局は経験らしい。
「周りに居るのが《地を這う猟犬》……全部で8体ですね」
《骸骨屍鬼》の周りにはグニョリとした4足の軟体が徘徊している。
猟犬と言うけど犬じゃなくて機敏な足の生えたスライムって感じ。
「ちょっと数が多くねぇか? 初陣はもうちょい少ない敵を……」
「行くぞ!」
「はい!」
「……そう言うと思ったぜ」
遠目から見てもその動きに遅くて無駄が多い。
知性が低そうだ。たとえ多少力が強くてもかわす事は出来ると踏んだ。
それに先行するのは俺とクーベルと決めている。俺達ならやばい敵だった場合でも退却出来る可能性が高い。
「《空絶の氷槍》!」
「ボオシュ‼ ズシャーン‼」
駆け寄る俺達に魔物が気が付いて向き直ると、そこにエナが長距離からの魔法の援護射撃を放った。
牽制だと思ったその魔撃は見事に1匹の《地を這う猟犬》を貫く!
ナイスゥ!
「《振裂刃》!」
ズバッ!
俺は孤立していた一番手前の《骸骨屍鬼》に剣撃を打ち込む。
「なっ!」
すると驚くほどあっさりと、その胴体を手に持った岩の棍棒ごと切り裂いた。
これは……弱すぎる!
俺はまだ《ガードブレイク》すらしていないぞ?
「《聖光の浄槌》」
「《風翼刃》!」
バシュ! バシュ! バシュ!
隣では聖女の《ガードブレイク》魔法の後に、クーベルの大剣が軽々と打ち込まれ1撃で3体の《地を這う猟犬》を叩き切った。
「なるほど」
「ズバッ! ズバッ!」
俺はクーベルの真似をして一太刀で2体の《骸骨屍鬼》を切り倒す。
別に一太刀で1つの魔物を切る必要は無いんだな。
「へっやるじゃねぇかテルト」
「……弱い」
「そうなんですか?」
「ああっ、最後の2体はスキルなしでも斬り殺せた」
今俺は《ガードブレイク》もスキルも使っていない。
素の力だけで魔物を倒せた。
「マジかよ、俺はスキル使わないと切れなかったぜ?」
「それと私のアシストも」
「うっ」
おかしいな、この程度の敵ならクーベルにも同じ事が出来て良いはずだけど。
……もしかしてレベルか? 俺だけレベルが突出してるかも知れない。
久々に確認してみるか。……レベル49⁉
ちょ! いつの間にこんなに上がってたんだ!
俺は《ガードブレイク》が使えるので、レベルは気にしてこなかった。
最近は高レベルの《魔人》も倒していたからか、凄い事になっていたな。
「どうするテルト、休む?」
「いやどんどん進もう、まずは経験を積むんだ」
「はい!」
「しゃぁ!」
俺の経験じゃなくてクーベルとエナのレベルを上げる為だ。
俺はRPGでも出来るだけパーティレベルは揃えたいタイプなんだよね。
エナとクーベルのレベルを見れないけど多分俺より圧倒的に低い筈だ。
「疲れた……第1層ってこんなに広いのかよ?」
「流石に奥まで来ると敵にも少しは手応えが出てきたけど、まだまだ余裕だな」
エナとクーベルを観察しながら進んだけど2人とも大分動きが良くなってきた。
多分レベルも上がってるはずだ。
「そっ、それはテルトだけですぅ……」
「けっ、何でお前だけそんなバケモンみたいに強えぇんだよ!」
あれ? そうだった? 流石に飛ばしすぎだったかな。
「あのっ……私も別に平気です」
「そりゃプリシナは後ろから支援してるだけだからだろうが!」
「だって……そうしろって」
「プリシナは既に高レベルだからいいんだよ、それとスキルのレベルも相当高いし」
プリシナのレベルも俺は見えないけど、プリシナが高レベルなのは最初の頃から薄々分かっていた。
極めつけはネグザレムと戦った時だけど。もしかしたら俺より高い可能性もある。
8つ《聖霊》を心に宿してるチート聖女様だからな?
「そっ、そうだったんですか?」
「えっへん、見直しなさい」
もしかして聖霊プリシナは高レベルだけど普通プリシナはレベルが10くらいに落ちてたりしないだろうな。
……ポンコツプリシナを見てると不安になる。
「はいはい……それでどうする? まさかこのままもっと奥まで行くのか?」
「行くのか?」
俺はあまり精巧ではない安物の時計を確認した。
安いと言っても金貨2枚はしたけど、この世界で精密な時計は高級品だ。
「……いやもう時間だ。今日はキャンプで休んで明日最アタックしよう」
「時計ってやつか」
「《陽炎の迷宮》内は時間が分かりませんかね」
とうとう《砂足蜘蛛》は見つからなかったな。
あれが雑魚なんだから今までの魔物は雑魚にも満たない魔物なんだろう。
どうやら第1階層は俺が想像してた数倍は広いらしい。
《陽炎の迷宮》の攻略は甘く無さそうだ。
俺達は水色の壁を見つめながら引き返した────
◇◇◇
《陽炎の迷宮》の水色の壁の第5階層に《A級》冒険者《荒砂の猟犬》が集まっていた。
「どうするマルキス……本当に行くのか?」
「しっ、仕方ねぇだろあと3日以内に《砂足蜘蛛》を倒せなきゃ《B級》に降格だ……」
「だっだけどよぉ、俺達一度も第6階層に入った事ねぇんだぜ?」
「というか第5階層でも苦戦してるし……」
マルキス達は《A級》冒険者になって一度も第6階層に入っていない本来入れる実力が無いからだ。
「仕方ねぇだろ、腹を決めろ! 今の俺達なら《砂足蜘蛛》の一匹くらい全力でやれば倒せるはずなんだ!」
「……わかったマルキス、付き合ってやるよ」
「仕方ないね」
マルキス達は覚悟を決めて第7階層に入って行った。
「こっ、ここが第6階層……! 青の迷宮か!」
「《A級》冒険者でも厳しさからたまにしか入らないと言う!」
《陽炎の迷宮》の中は階層が進む毎に壁の色が変わっていく。
そして冒険者のランクで侵入出来る階層が制限されている。
第1層 赤 《F級》
第2層 橙 《E級》
第3層 黄 《D級》
第4層 緑 《C級》
第5層 水色 《B級》
第6層 青 《A級》
第7層 青紫 《S級》
第8層 紫 《S級》《特別許可》
制限されていると言っても見張りが居る訳ではない。
単純に入れば命の保証がないだけだ。
第6層の壁の色は青色で気温もの低さも合わさって寒々しかった。
「おい……マルキス、いたぞ《砂足蜘蛛》だ!」
「よし一体だけ! みんな行くぞ!」
第6階層に入って早々に目標の《砂足蜘蛛》を発見した。
しかも1匹とは好都合だ。何だかんだマルキス達も1体だけなら本当に倒す自信はあった。
《砂足蜘蛛》と同格の第5階層のフロアボスを倒す事は出来たのだから。
タタタタタタタッ
ドドドドドドドドド…………ッ!
「なっ! 何だこの地響き……⁉」
突然地響きが鳴り響き。
その地鳴りは徐々にマルキス達に近付いていった。
ドッホォオォォォォーーーーンッ‼
「そっ……そんな……」
「キシィ……キシィキシィ……!」
そして地面を割って2体の《砂足蜘蛛》が出現した。
それも1体は色と形が微妙に違う、変異種とよばれる強力な個体だ。
「《砂足蜘蛛》が3体も……!」
「終わった……」
当然マルキス達の実力では勝ち目はない。
さらにまずい事に《砂足蜘蛛》は非常に素早い。
相当な移動スキルを持っていなければまず逃げ切れない。
「テルト! 《砂足蜘蛛》が3体居るぞ!」
「よし、今日はこれを狩って終わりにしよう」
突然目の前の3体の《砂足蜘蛛》の向こう側から人の声が聞こえた。
「キシィキシィ……キシィ……!」
3匹の《砂足蜘蛛》は直感的に何かを感じてマルキス達を無視して後ろを振り返る。
「《空絶の氷槍》!」
ボオシュ‼ ズシャーン‼
「《振裂刃》!」
ズバッ!
振り返り終わる間もなく2体の《砂足蜘蛛》は崩れ落ちる。
しかもそのうちの1体は色違いの変異種だった。倒したのはテルト・リバースと呼ばれる《F級》冒険者。
「《聖光の浄槌》」
「《風翼刃》!」
バシュ! バシュ! バシュ!
残る1匹の《砂足蜘蛛》も緑髪の男が叩き切る。
「よしっ、次だ!」
「うん!」
最後に白髪に褐色の肌の少女が落ちた魔石をリュックに詰めて駆けて行く。
あっという間の出来事だった。
「そんな……」
「あいつら……倒しやがった……」
その様子を腰を抜かして岩陰に伏せていたマルキス達が、顔を引きつらせながら見送った。




