二十一話 03 蒼炎の大掟
俺とエナとクーベルはいつもの空き倉庫に集まっていた。
シャロンはいつもの様に屋根の上で日向ぼっこ中だろう。
「ボルゼクスって人がシャロン気を取られてる所を私がこうズカシャーン! と……テルト聞いてます?」
「勿論聞いてるよ。」
俺は今エナの自慢話を聞かされている。
「まぁそれは残念ながらハズレちゃったんですけど。でも私の気迫に圧倒されたボルゼクスって人は……」
「そのまま逃げたと」
しかも3回目の。
「そうなんです! ね? 凄いでしょ?」
「うん凄い」
エナは凄い大活躍をした様に話してる。
けどよくよく聞くとエナはボルゼクスに何も出来ていない。
ボルゼクスが何か誤解して逃げたってだけだ、本気で戦っていたらエナが危なかった。俺の采配ミスだな。
「これが勇気の力なんです!」
「あっ、うん。そうだね」
勇気ねぇ……。
「……やっぱり成功したら勇気、失敗したら無謀理論危険かも」
「あったりめぇだろうが」
クーベルの小声で冷ややかなツッコミが悔しいけど痛い。
「皆さんお揃いの様ですね」
「ロイナードさん」
ロイナードがいつの間にか倉庫の中に入って来た。
何だかもう恒例になりつつあるな。
「なんの用だよ」
「おや貴方も居たのですか」
「けっ、居ちゃ悪いかよ」
クーベルがロイナードに突っ掛かる。
まあ、この間あんな事を言われたんだ印象最悪だろう。
それに対してロイナードはいつも通り飄々としてる。
「言っとくけどクーベルも一緒に《陽炎の迷宮》に行く事になったから」
俺はクーベルが好きじゃないけど相対的にロイナードの方が嫌いだから、今はクーベルの援護をしてやる。
「そうですか」
「…………そうですかって……反対しねぇのかよ」
「ええ。それは私が決める事ではないですし、今日はその件も含めて来たのですから」
「なんでぇ、拍子抜けだぜ」
確かに予想してた反応と違って面白くないな。
けどその件も含めてどういう意味だ?
「2人共。入って下さい」
ロイナードの呼びかけに入口から2人の人間が入って来た。
「誰?」
「紹介しましょう。この2人は私のパーティ《蒼炎の大掟》の仲間で右の男性がピグザール。左の女性がアグニスと言います」
「うむ」
ピグザールと呼ばれた男は40歳ほどで背は低いがムックリとした筋肉ダルマで、頭と体には鎖帷子で固められ口にはもじゃもじゃのひげを生やしていた。
「よろしく」
アグニスと呼ばれた女は20歳ちょいくらいで、女性にしては背が高く、薄目の赤い髪をポニーテルで結んだ、凛々しいながらも可愛さも持ち合わせた絶世の美人だった。
全身に甲冑を身につけていてまるで戦乙女と言った感じがする。
「綺麗な人……」
エナがアグニスを見て小さく呟いた。
俺はエナの方が可愛いと思うけどここまで来ると好みの問題だな。
「それで?」
「まずクーベルはピグザールと大型武器の特訓をしてレベルを21まで上げなさい、そうすれば《俊器の力技》と言うスキルを覚えます。そうですね武器は槍等が良いでしょう」
そう言えばロイナードは次に覚えるスキルが分かるんだっけ。
「何勝手な事を言ってんだ! 俺は器用さを売りにしてんだ、そんなデケェ武器なんか使えっかよ。ナイフで十分だ!」
「いやクーベルそこじゃないだろう、武器の話じゃないだろ。このおっさんはお前が冒険者になる事を反対してたんだぞ? まずはその理由だろ。と言うか何でロイナードが仕切ってるんだよ」
俺は思わずこの不自然な状況に棒読みで突っ込む。
「馬鹿ですか? そんなナイフで倒せる魔物などエナさんやテルトさんだけで問題なく倒せます! クーベル貴方が担うべきは2人で対処が難しい大型の魔物の、せめて足止めです!」
「バカ抜かせ! 俺は小さい頃から小さくて力なんて全然ねぇんだよ! 大型の魔物? んなもん相手にしてられっかよ!」
「俺の話無視かよ」
ロイナードも珍しく感情的にムキになって2人は言い合いを始めた。
「それはクーベル貴方は昔は小さかったのでしょう! 今は成長期を終えて身長が変わってるじゃないですか! まだ細いですが鍛えて筋肉をつければその木偶の坊も多少マシになると言うもの!」
確かにクーベルは細身だけど身長は180センチくらいある。
ただ姿勢が悪くていつも猫背に膝を曲げて歩いてるから、サバ読んで170センチの俺とあまり変わらく見えるけど。
胸板も広そうだし筋肉付ければ見違えそうだな。
「んだとこらぁ!」
ゴンッ!
「いってぇ!」
ロイナードに食って掛かるクーベルの頭をピグザールが手で持った棍棒で強めに叩いた。
うーん何故だろう気分がいい。
「ツベコベうるさいのうクソガキめ、ロイナード様に向かって失礼であろう! 来い! その根性叩き直してくれる!」
「何しやがる!」
ゴンッ!
ピグザールは反抗的なクーベルの頭をさらに強めに叩く。
ああ心が洗われる様だ。
「痛ぇ! やめろって!」
「ほれほれかわしてみろ! 器用さが売りなのであろう!」
ゴンッ! ゴンッ!
ピグザールはクーベルの足や肩や背中を叩きまくる。
素晴らしい動きだ。そのまま俺の心を浄化してくれ。
「待て! やめろ! 早ぇえって! 早すぎるって!」
たまらずクーベルは逃げ出したが、ピグザールに追いかけ回され倉庫中を走り回る。
「さあクーベルはピグザールに任せておけば大丈夫でしょう」
「何でこんな事を?」
「勝手に《陽炎の迷宮》に行って死なれては困りますから」
「余計なお世話」
ロイナードっておっさんは相当なお節介焼きなようだ。
思えばエナにも頼まれてもないのに魔法を教えてたみたいだし。一体何なんだ。
「まあそう言わずに。テルトさん貴方にはアグニスと戦って貰います」
「えっ?」
…………俺にもお節介かよ。
「貴方は少々才能があるからと調子に乗ってるようですからね。アグニスに上には上が居る事を教わると良いでしょう」
別に俺は調子になんか乗ってないし。
というかアグニスって人は強いのか?
いやロイナードがここまで言うって事は相当強いんだろうけど。
「そういう事……なら私は帰らせてもう」
「アグニス⁉」
話を聞いていた当のアグニスは少し笑って踵を返した。
「そういった事は自分でやって下さいロイナード」
「私では意味が有りません。貴方のような麗しい女性に負てこそ男のプライドもへし折れると言うもの!」
「それではまた今度」
ロイナードが両手をわなわなとさせてアグニスを説得するも、アグニスは華麗な足取りで倉庫を後にした。
いや別に俺にそんなプライド無いから。
「まったく」
「ほんといい性格してるよあんた」
「聞いてますよ、貴方達だけで聖女暗殺計画を阻止しようとした話。大人としてはそういった無茶は止める義務があるのです」
「はいはい、もうしないって……多分」
なるほど。その話をエナあたりから聞いていたのか。
「はぁー……、頭が痛くなってきましたもう帰ります。エナさんも修行に励んでくださいね、では」
「はい」
目論見が破れたロイナードは消沈した顔で倉庫の出口へと向かった。
頭が痛くなりそうだったのは俺の方だって。
ゴンッ!
「わかった! 言う事聞くからもう叩くなってー!」
ロイナードとの会話が終わるとピグザールがクーベルを殴る特大の音が鳴り響いた。
「ならほれ、これを持ってまずは素振り1万回だ!」
「嘘だろ……テルトぉ、助けてくれぇーーーーっ!」
観念したクーベルにピグザールは持っていた大きな棍棒を手渡した。
まぁロイナードの余計なお世話ではあるけどクーベルを鍛えてくれるってんならそれはそれでありがたい。
このピグザールっておっさんにその根性を叩き直してもらえ!
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