十九話 01 キャスダル戦
俺ことテルト・リバースとクーベルは王都北区にあるボロい聖教会の礼拝堂の中に忍び込んでいた。
いつもの様に隠密スキルを使って聖女の寝室の前にやって来る。
コンコンッ……コンコンッ……
「……どなたですか?」
俺はドアをノックすると程なく聖女の返事が聞こえる。
「俺は怪しいものじゃない、聖女様に大事な話がある。部屋に入れて欲しい」
「とても怪しいですが」
そりゃそうか。
さてどうしよう、騒がれてもマズイいんだよな。礼拝堂に居る他の人も巻き込んでしまう。
「大事な話があるっつってんだろ! 早く入れろ!」
「おい! クーベルお前は黙ってろ!」
「その声、あの時の2人の少年ですね」
ガチャ キィー……
聖女が部屋の鍵を開き扉を開いた。
クーベルの無茶が逆に功を奏したらしい。
「ありがとう」
……パタンッ
俺とクーベルは静かに部屋に入り扉を締める。
小さな魔光灯がシミだらけの部屋を照らしていた。
聖女は外衣を1枚脱いだだけで、昼間と同じ装いのまま静かに寝具に腰を下ろす。
服がやぶけそうな程の胸がぷるんと揺れて目のやり場に困った。
「それで。こんな時間になんの話でしょうか?」
「これから聖女様の命を狙って暗殺者がここにやってくる。だからその前に聖女様にはどこかに避難してもらいたい」
「……そんな話を信じろと?」
聖女の反応は相変わらず無感情で言葉まで冷たく感じる。
「確かに信じられないだろうけど……」
さてどうやって説得しようか。この感じだと何を言っても無駄な気がする。
ドンッ!
「なっ、何者ですかあなた達は!」
俺が説得の言葉を探していると部屋の外から大きな物音と男の人の怒鳴り声が聞こえた。
そして怒鳴られた相手こそ聖女を暗殺しに来た刺客だろう。
「もう来たのか!」
「タイミングが良すぎるぜ!」
説得する時間が無くなった。もう少し早めに作戦を開始したかったけど礼拝堂の人が寝静まるのを待つ必要があったから仕方ない。
「クーベル、聖女様を頼む」
「待てテルト! アレクレスは俺にやらせてくれ!」
「バカ言うなアレクレスは元騎士だ。お前じゃ絶対勝てない!」
「くっ!」
クーベルの気持ちも分かるつもりだけど残念ながらアレクレスは相当に強い。
俺が以前勝てたのはアレクレスの油断と慢心のおかげに過ぎない。
「貴方達何を勝手な事を」
「悪いけど来てもらうぜ聖女様よ」
聖女様の気持ちも分かるつもりだけど残念ながら俺達は本気だ。
嫌だと言っても暗殺者から守らせてもらう!
俺は真っ先にドアを出て大声のした方へ駆け出した。
「誰か! 誰か賊です聖女様をお守り……!」
ザシュ!
「キャァ!」
俺が礼拝室へと躍り出ると入口付近でアレクレスが聖職者風の男を切り付けていた!
「アレクレス! やめろ!」
「何⁉ 誰だ! 何故俺の事を!」
俺に名前を呼ばれてアレクレスは驚く。
礼拝室にある魔光灯には明かりが灯っていたけど俺の顔をくっきり見るには足りていなかったらしい。
「大変」
いつの間にか後ろに来ていた聖女が切り付けられた聖職者風の男を助けるため駆け寄ろうとする。
「おっと悪いが行かせられねぇ、こっちに来てもらうぜ」
「放しなさい無礼者、私は怪我人を直さなければなりません」
だがそれをクーベルに静止され羽交い締めにする。ナイスだ!
「悪いが断るぜ、アンタに死なれちゃ困るんでな!」
「……放しなさい、このっ!」
「ってーな! 大人しくしてろ!」
そのまま聖女を担ぎ上げ予定通りクーベルが安全な場所に連れ去る。こりゃ立派な誘拐だよなぁ。
さて聖女はクーベルに任せて俺は俺のやる事だ!
「《振裂刃》!」
カキィン! タンッ!
アレクレスへの挨拶代わりの剣撃はあっさりといなされた。
実は結構全力で切りつけたんんだけどやっぱ簡単にはいかないか。
「貴様⁉ テルト!」
「俺の名前を覚えていたんだな」
「忘れるものか! 貴様のせいで俺は騎士団を首になったのだ!」
キィン!
それは俺のせいなのか? どうでもいいけどさ。
「アレクレス聖女が逃げたぞ、追うんだ。そいつは俺が引き受ける」
アレクレスに向かって黒装束の男が怒鳴る。
今まで気付かなかったのはアレクレスが目立ち過ぎていたからだ。こいつがキャスダルってリーダーだろう。
「いいやコイツには因縁がある! 聖女はお前がどうにかしろ!」
「我儘を言うな仕事中だぞ。因縁は後で晴らせ」
「くっ……わかった。殺すなよキャスダル」
「それは保証しかねるな」
キャスダルの叱責にアレクレスが渋々と従って礼拝堂の奥へと駆ける。
「逃がすかよ!」
そうはさせない。この2人を足止めして聖女が逃げる時間を稼ぐのが俺の役割だ! 勿論可能なら倒す!
「させん、《拘束の粘糸》!」
シュル シュル……!
「なっ⁉」
アレクレスに追い縋ろうとする俺にキャスダルが何かのスキルを使うと突如俺の右手と右足に何かが絡みついた。
俺は動けずアレクレスの足音が遠ざかるのを聞く事しか出来なかった。
しまった失敗だ! 多少は時間を稼いだし後はクーベルが逃げ切れる事を祈る。
諦めてキャスダルの方を見るとネバネバとした太い糸がキャスダルの足元の床から伸びていた。
「これは糸か⁉」
「私は肉弾戦は苦手だが搦め手で戦うのは得意なのだ」
「でもこれくらいなら!」
キュルッ スパッ! スパッ!
俺は右手の剣を器用に回して糸を切ると煙の様に薄くなって消えていく。
これなら大した事がなさそうだ。
シュル シュル シュル!
「何⁉」
キャスダルの足元の糸が再び右手と右足に伸びて絡み付く。
更には左足にも新たにもう1本巻き付いた。
「クククッ、そんなに簡単に逃れられるものか……」
「くそっ、面倒くさい能力だな!」
切ってもキリが無いって事か?
でも再び巻き付くのに2秒くらいはあった。切った瞬間にキャスダルに切りかかれば……!
チャキン ヒュン!
「痛っ……!」
素早いモーションでキャスダルがナイフを投げつけて来た。
俺はかわしきれずに頬が裂ける。
「クククッ……、後はじっくりとなぶり殺しにしてやる」
キャスダルが不敵な笑みを浮かべて広げたローブの内側には数10本の小さなナイフがギラリと光っていた。
グッ……!
反射的に頬の血を拭おうとすると腕に絡み付いた糸がそれを止める────




