十八話 03 ボルゼクス戦
聖女暗殺計画の予定時刻の直前の夜。
俺とエナとシャロンとクーベルは北区にあるボロい聖教会の礼拝堂の前にやって来ていた。
礼拝堂の修繕が間に合わず壁は剥げて所々が崩れ掛かっている。
それでも周囲の建物に比べれば多少マシだけど。
「よし、じゃあ手筈通りエナとシャロンは外を頼むよ」
「わかりました!」
「ミャニュ!」
「いくぞクーベル」
礼拝堂の外はエナに任せて俺とクーベルは中へと忍び込む。
気配を消せるのは俺とクーベルだけだ。
◇◇◇
私ことエナ・ウェルカトルは使い魔のシャロンと一緒に礼拝堂の外の物陰に潜んで待ち伏せ中です。
いつもは寝てる時間なので少し眠いけど我慢。
……あっ、人の気配! どうやら私達の敵がやっと来たみたい。
「ここか?」
「おいアレクレス、まさか下見をしていなかったのか?」
「ふんっ、小娘1人やるのに必要ない」
礼拝堂の前で立ち止まったのは3人の男の人で、会話を聞く限り聖女様を狙う暗殺者で間違いないなさそう。
「……まあいい、建物内は私が把握してる。礼拝堂の奥の右通路の3つ部屋のどれかが聖女の寝室だ、おそらく一番奥だろう」
「さっさと済ませる」
「ボルゼクス、お前は外の警戒をして自警団や衛兵が来たら撹乱して時間を稼ぐんだぞ」
「了解了解」
テルトが話してた通り3人のうち1人は礼拝堂の外の見張り役。
あの人がボルゼクスって言う私の相手な筈です。
どうしよう緊張してきた。
でもテルトが頼ってくれたんだから成功させないと。私も力になれるって証明しないと。
「ふう……、自警団や衛兵が来る前に終わるだろうし、楽な仕事だぜ」
油断してる今チャンスかも。シャロン行くよ!
「《空絶の氷槍》!」
バッシュ‼ サッ ……ザシャン‼
「そんなっ! かわされた⁉」
「ふう……」
完全に油断してる所を狙ったのに、まるで分かってたかの様にかわさちゃった。
もしかして私の存在に気付いてたのに油断した演技だった?
だとしたら凄い演技力。
「ミュニャ!」
「おっとっ」
ゲシッ!
「フギャ!」
シャロンがボルゼクスに体当たりする前に蹴飛ばされてしまった。
もう少し我慢して!
カシュ、カシュン!
その隙に私はテルトが作ってくれた《回転式ロッド》を回して次の準備。
「この魔法にその声、聞き覚えがあるな」
「聖女様を暗殺なんてさせません!」
この速さならどうだ!
「《空絶の氷槍》!」
「何⁉」
バッシュ‼ サッ ……ズシャッン‼
やっぱりかわされた。
この人……凄い!
「連射……出来るのか?」
カシュ、カシュン!
諦めちゃダメ。今度はシャロンと連携してやってみよう。
「そうだ思い出した、俺のアジトを襲撃してきたガキ共か。あん時のあんちゃんも一緒に来てるのか?」
「ええ、でも貴方の相手は私です!」
きっとテルトだったらあっさり倒しちゃうんだろうね。
でも今は私とシャロンしかいない。いつまでもテルトに頼ってばかりじゃダメ!
(シャロン!)
「ミュニャ!」
サッ
よしっ! シャロンに気を取られてこっちを見てない!
今だっ!
「《空絶の氷槍》!」
サッ バッシュ‼ ……ズシャッン‼
「なるほどなるほど」
「はっ、早い!」
今私が氷の槍を撃つ前にかわされてたような……!
カシュ、カシュン!
どうしよう次が事前に装填していた最後の4発目。
外したら、また数分かけて氷の槍を作らないといけない。
多分その前に私がやられちゃう!
「なら俺も……本気で行かせてもらう《脱兎の逃脚》!」
本気で来るって今まで本気じゃ無かったって事?
そんなの、かっ……勝てないっ!
タンッ!
はっ、早い‼ これはテルトの移動スキルよりも早い‼ これじゃ照準を合わせられない!
タンッ! タンッ! タンッ! タンッ…………!
凄い!
凄い早い!
凄い速さで遠ざかって行く!
…………えっ? 遠ざかって行く?
「…………えっと…………」
「ミュニャ……」
戻って……来ない?
シャロンも駆け寄って来て私と同じ困った顔してる。
「もしかして……逃げた? のかな……」
「ミニャ?」
「でもこれって、私達の勝ちって事で……いいよね?」
良く分からないけど勝っちゃった?
でも危なかったやっぱり戦いって甘くない。もっともっと頑張らないと。
ねっシャロン!
「ミュニャ!」
◇◇◇
俺は王都の街中を駆け抜けていた。
元《A級》の冒険者で《疾風のボルゼクス》と呼ばれていた俺だが訳あって今は聖女暗殺の手伝いをしていた。
「勝てねぇ訳じゃねぇ」
たった今、その暗殺計画で訪れたボロい礼拝堂の外で10代半ば程の少女が待ち構えていた。
少女は年の割には強いが俺には及ばねぇ、戦ったら9割は勝てそうだった。
それでも俺は逃げる選択をした。
「あの嬢ちゃん、異常過ぎる」
あの少女の使った魔法は知っている。
だが俺の知る《空絶の氷槍》って魔法はあんな間隔で何発も連射できる代物じゃねぇ。
かわし続けたら俺の《絶対回避スキル》のSPが底を付いちまう。
それに問題は中にいるガキだ。前回と同じで俺達の暗殺計画の事を知っていてやって来たんだろう。
3割か4割どころか逆に8割くらいは勝算があるに決まってる。
「暗殺計画は失敗だろうな」
俺は冒険者だった時も裏世界でも幾多の危機を生き延びてきた。
それは俺がほんの少し臆病だったからだ。
それを恥だと思ったことはねぇ。
死んでる奴を山程見てきた。
まぁ前金は貰ってるし、次の仕事を探すとするか────
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