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一話 05 第一村人発見

【ミッション「コントロ村へ向かえ」達成】

【スキル「カード機能《HP表示》」を取得しました】



 俺はコントロ村に到着していた。

 そして今、お爺さんを目の前に途方に暮れている。


 お爺さんは呆れた様な困惑した様な顔で灰色と白髪交じりの薄髪を指で軽く掻いていた。



【チュートリアルミッション「第一村人を笑わせろ」】

条件、第一村人トリス・ロンケラーを笑わせる。制限時間半日。

注釈1、自力で笑わせなければ無効。

注釈2、報酬スキルの試用期間無し。

報酬、カード機能《自動翻訳会話》

【詳細】



 第一村人発見、笑ってこらえて……ふざけんな! 何で言葉が通じないんだよ!

 《自動翻訳会話》? それは最初か使えるようにしといてくれよ!

 基本だろ基本!


 はいそうです。今俺の言葉は異世界人に通じません。


「アイーン!」

「…………」


「ダッフンダ!」

「…………」


 変顔しながら手を首の前に構え化石のようなギャグをかましても、お爺さんはピクリとも笑わない。


 何個目のギャグだろう、もう100回は超えているな。

 

「これ、もしかして詰んでない?」


 最初にこのお爺さんに出会ってしまった運命を呪った。

 もう少し笑いのツボが低い人だったら言葉の壁を超えて笑いを取る自信はあったんだけどな。


 俺は諦めて傍にある木の柵に腰掛けて考え込む。

 お爺さんは怪訝な顔をして農作業に戻っていく。


「何か良い方法ないかな……」


 今は午後4時くらいかな? まだ明るいけど日が落ちかけている。

 制限時間は半日あるけど夜になったら事実上アウトだ。

 これから数年間独学で異世界言語を勉強しなきゃならない。


 最悪お爺ちゃんの脇腹こちゃこちょするしかないか?


スザッ スザッ スザッ スザッ……


 白髪のお婆さんが少し目が悪いのか、目の前を道だけを見つめてよちよちと横切って行く。


 背中のカゴには丸い美味そうな果物が入っていた。


 そういやこっち来てまだ何も食ってないし少し喉が乾いたな。

 でも言葉が話せないと水を下さいの一言も言えない。

 お爺さんの笑いのツボをつかめなければ餓死もありうるって事だ。


「◎□△○◇☆」


 お婆さんの声がしたので振り向くと納屋の前で屈み込んで何かを撫で回していた。

 チラリとどこかで見たような白い動物の尻尾が見える。


コロコロ……


 道端に果物が幾つか転がり落ちていた。

 ガゴを置いた時に落ちたのかお婆さんからは遠い。


「仕方ないねぇ」


 俺は道に落ちた果物を拾って忍び足でお婆さんにバレないように近付いた。


ポイポイッ…… ササッ!


 そしてカゴに向かって果物をそっと投げて素早く近くの納屋裏に隠れる!


トンッ、ストンッ、トンストトンッ!


 ナイスショット!

 果物がカゴの中に全て入り軽快なバウンド音がする。


 影の形と衣擦れの音からお婆さんがカゴの方を見たのが分かる。

 しばらくしてお婆さんはカゴを抱え立ち上がり去って行った。


 クククッ、何が起きたか分かるまい!


 普通に返せば良いんだけど今は言葉が通じないし、泥棒と間違えられたりしても困る。


 さて戻るか。そろそろお爺さんを笑わせる方法をマジで考えなきゃ。


「しかし完璧な仕事だったな。あの婆さんの驚く顔が見れなかったのが残念だけど」

「なんだおめぇ、喋れんじゃねぇか?」

「えっ?」


 ギョッとして正面を見るとお爺さんが笑いながら俺を見ていた。


 言葉が通じてる! 何で?

 爺さん笑ってるからか、いやでも何で?

 いやもう何でもいいや!


「よっしゃーーーーっ!」

「ほっ?」

「……あっ、いや!」


 思わずガッツポーズしてしまった。……恥ずかしい。


「おもしれぇやっちゃな。お前さんどっから来たんだ?」

「えっと、あっちの森から」

「あっちってーとセラスール市からか?」


 いいえ、お爺さんから見て異世界からでーす。


「そうだ爺さん! この村に泊まれる所ってない? あっ、お金持ってないや。屋根があればどこでも良いんだけど。」


 ……そんな都合の良い所ある訳ないよな。何頼んでんだ俺。


「ほんなら、うちの家に泊まっていくか?」

「えっ? いいの!」

「本当に屋根と壁くらいしかねぇけど、それで良いならな」

「お願いします!」


 一時は詰んだかと思ったけど言葉も通じるようになったし、寝床も確保で万々歳だ。


 俺はお爺さんの畑仕事を少し手伝った後、家に案内してもらった。




◇◇◇




 日が落ちた頃に俺はお爺さんの家族と一緒に食卓を囲んでいた。

 天井からぶら下がるランプが少し傾いたテーブルを優しく照らす。


 家は木の壁がかなり傷んでいるし飾り気もない。

 この家が特別なわけじゃない、他の村の家も殆ど同じだった。


「はいどうぞ」

「おっ、魚じゃん、おかずも今日は豪勢だね」

「余計な事言わないでね、ネルミネ」


 料理を運んできたのは40歳くらいの少し細身のカレミナ。

 魚に喜んだのは俺より少し年上くらいの娘のネルミネ。

 2人とも栗色の長い髪を後ろで束ね軽く編み込んでリボンで結っていた。


「むほっ、こりゃ旨い!」


 置かれた料理を即座に食べ始めたのが第一村人トリス爺さん。

 腹が減っていたんだろう凄いがっつきだ。


 魚に野菜と茸のスープそれにパン……硬いけど薄いからナンに近いかな?


 酷い物が出ても頑張って食べるつもりだったけど、運ばれてきた料理は予想より良くて安心した。


「いただきます」


 食事の前に『いただきます』を言うのは異世界では違和感を持たれるかもしれないけど、やっぱり感謝の言葉は言っておく。


「それでどうして家に泊める事に?」


 ネルミネがスプーンを口に咥えながらトリス爺さんに尋ねた。


「道でネゲット婆さんがカゴから果物落どしたんだども、全然気付いてなぐってさ。それをテルトが拾って返して上げでだんだ」

「ぶっ!」


 俺は思わずスープを吹き出してしまう。


「何でがその後納屋の裏に隠れでな、思わず笑っぢまったよ。わははっ」

「あれ……見られてたんだ」


 なるほど。そのお陰でミッションが達成できてたのか。

 なら恥ずかしいけどいっか!


「へぇ、親切なんだねテルトって」

「ほんと感心ね、立派だわ」

「そうだべ? 中々見どころのある若物さ」

「いや……当たり前の事をしただけだよ」


 隠れるのは当たり前じゃないけどな!


「テルトってやっぱり良いところのお坊ちゃん?」

「えっ? そんな事ないと思うけど」

「着てるものも上等だし、平民でもかなり裕福でしょ絶対」


 服は転生してきた時に既に身に付けていた。

 村人が着てた服と違って質が良さそうだ。


「こらネルミネやめなさいそんな話」

「はーい」


 カレミナに窘められるとネルミネはつまらなそうに返事をした。


「そうそうお爺さん、隣のメキスさんの家も《グチ》の被害に遭ったんですって」

「あーそりゃ、うちの畑もいくつかやられとるよ」

「あれ? 去年みんなで猟師雇って駆してもらったんじゃないの?」


 会話から察すると害獣被害かな?


「また新しいの来たんだろねぇ、柵を作っても無駄だし困ったねぇ」

「……あの、《グチ》ってなんですか?」


 話に割って入るのもどうかと思ったけど気になって質問してみた。


「《グチ》ってのは《グチヴォルペ》の事、町の人は知らないだろうね」

「畑掘り返して根を食い荒らすんだ、柔らかいから美味いんだろうね」

「へーっ、困った奴がいるもんですね」



【ミッション「《グチヴォルペ》を撃退せよ」】

条件、コントロ村の畑を荒らす《グチヴォルペ》を撃退する。制限時間3日。

注釈、倒す必要なし。

報酬スキル、《隠密の呼吸(ヒュイオス・ラテイス)

【はい/いいえ/詳細】



 おっ? ミッションが発生か。


 適当に相槌を打ちつつ食事を終えた後、食事をした部屋に適当な敷物を敷いてもらって寝る事になった。




◇◇◇




 そして翌朝まだ暗がりの中。


 俺はミッションの為にトリス爺さんの畑の前で身を潜めていた。


 《グチヴォルペ》から隠れる為だけじゃない。

 俺はこのミッションを誰にも見られたくなかった。


 もし誰かに見られて『良い人に見られたいだけだろ?』なんて思われるのが怖かった。

 過去のトラウマがフラッシュバックしてしまう。


「そうだ。今後は出来るだけミッションを誰にも見られないようにやる事にしよう。その方が気楽だし。あまり目立つのは好きじゃない」


 それに普通はつまらない。

 これくらいの縛りがあった方が楽しそうだ。


「ふぅー寒い」


 この世界も日本と同じ今が春の3月末頃らしい、朝はかなり冷えるなぁ。


ガサッ! ガサササッ!


 来た! 俺は手を擦るのを止めて音のした草むらに目をやった。

 タヌキのような動物が2匹、畑に入って地面を掘り起こそうしている。


 あれが《グチ》ってやつだな? させるか!

 

「《劈く雷迅(トルエノ・ローア)》!」


バチッ!


「キャキャッ!」


 トリス爺さんの家からは結構離れているけど、念の為音が聞こえない様に少し抑えめでスキルを放つ。


 《グチ》が激しく飛び上がる!


 威力は低いけど体が小さい小動物にはこうかはバツグンだ!


「《劈く雷迅(トルエノ・ローア)》!」


バチッ!


「キュァン!」


 続けてもう1匹にも雷撃を放つ。


「どうだ痛いだろ! これに懲りたらもうこの村の畑に来るなよ!」


 俺が脅かすように《グチ》に駆け寄ると、2匹は慌てて森の奥に逃げ帰って行った。

 これでこの畑に二度と来る事は無いだろう。



【ミッション「《グチヴォルペ》を撃退せよ」達成】

【スキル「《隠密の呼吸(ヒュイオス・ラテイス)》」を取得しました】

【閉じる】



 ミッションコンプリート!

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[一言] 読み始めたばっかですけど主人公が胸張って人助け出来る様に成長すると良いなって気持ちで読んでます
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