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十ニ話 02 とけて煌めく虹

 私の住む館の庭でテルトと《人形》が戦っていた。


「エナお姉ちゃんは、私だけのお人形なの!」


 従姉妹のリベットの声が響く。

 リベットが私の事をそんな風に思っていたなんて。


「勝手に持って行くなんて許さない!」

「何を勝手なことを! エナはお前の人形なんかじゃ無い!」


 テルトの反撃で《人形》の左腕がの砂が崩れ落ちた。


「こっちのセリフだろうが‼」


ズッシャアァァン‼


 そしてテルトが《人形》の胴体を殴り付けると黒紫の土が剥がれて《核呪》がむき出しに見えた。

 あれだ、あれを壊せれば! テルトお願い、頑張って!


「終わりだ!」


シュッ、ガシッ!


「つーかまーえた♪」


 そんな! テルトが捕まっちゃった!


「がはっ‼」

「テルト!」


ガシッ! ガシッ!


「うふふ、無駄よお兄さん。死ぬまで離してあげない!」

「そんな!」


 今すぐテルトを助けたい。助けなきゃ!

 でも私は今いるこの呪陣から外に出られない。

 出ればテルトの頑張りも全部無駄になっちゃう!


「お兄さん知ってる? エナお姉ちゃんってね、この町から出たことが無いの」

「がっ……」


 どうしたらいいの? どうにかしてテルトを助けたいのに!


ピキッ……


 ううっ……また頭が…………!


「私がエナお姉ちゃんに《魍魎の疫災(ダイオロス・カタラ)》の呪いを掛けて誰とも会わないように、私だけが会えるようにしたの」


ガシッ! ガシッ!


「ぐっ……」

「リベット……」


 たまに私が考え事をしてると何かが邪魔をするように頭が重くなる。

 これは何?


「エナお姉ちゃんはね、自分から積極的に人と関わろうとしない、自分の意思で動けない、自分の力じゃ何もできない」


「はっ……」


 そう……リベットの言う通り。

 私は全てを呪いのせいにして自分から動こうとして来なかった。


「私の最高のお人形なの、だから、お兄さんなんかに絶対渡さないわ」


「ははっ……」


 テルトが町に来た時もテルトが全て解決してくれる。

 そんな期待をテルトに押し付けて自分からは何もしようとしなかった。


「何がおかしいのかしら?」

「エナがこの町から出た事が無い? 残念だけどあるんだよ」


 えっ? ……テルト? 


「嘘よ。エナお姉ちゃんにそんな事出来るわけがないわ」


「自分から積極的に人と関わろうとしない? いいやエナは俺に会いに来た」

「お兄さん何を言っているの?」


「自分の意思で動けない? いいやエナは俺を助けに来た」

「……テルト!?」


 それって、もしかして……!


「自分の力じゃ何もできない? いいやエナは俺を救ってくれた」

「さっきからなんの話よ!」


 やっぱり、あの時の事!

 ……気付いてたんだ私だって‼

 テルトは全部て分かってたんだ。


 だからあんなに必死で私の為に…………ううん、違う。

 きっと気付いて無くてもテルトは私を助けようとしてくれてたよね?


「ぐっ……だからエナは、お前の人形じゃ……ない!」


 だって、それが私がずっと見て来たテルトだから!


パリーーーーーーンッ‼


 急に頭が軽くなった──────


 そうだ、私は人形じゃない!

 あの時私はちゃんと意思で行動出来た。

 テルトのお陰で、心の赴くままに行動したいと思えた。


 だから‼


(シャロン! 持ってきて!)

(ミュニャ!)


「……ふぅん、そう。でも、もうどうでもいいわ。お父様がエナを殺す為に暗殺者を雇っちゃったし」

「なにっ!?」

「私も言う事を聞かないお人形さんは要らないの。新しいお人形を探すわ」


 落ち着いて、大丈夫きっと出来る……出来る。


ゾワゾワゾワゾワッ…………!


「ぐわっ!」

「あら? そのアザは《魍魎の疫災(ダイオロス・カタラ)》の疫病よね? そっか解呪の為にこの人形に呪いを移したのね」

「ぐぅ……」

「そんな!」


 そうだ、今《魍魎の疫災(ダイオロス・カタラ)》は私じゃなくてあの人形が持っているんだ、急がないと!


「良い事思い付いちゃった。お兄さんを絞め殺すのは止めて、この呪いでもがき苦しみながら死んで貰う事にしましょ。ね? その方が楽しそうでしょエナお姉ちゃん」

「止めなさい! リベット!」

「かはっ……げほっ!」


 リベット……またその呪いで、お父さんみたいに、また私の大切な人を奪おうとするの?

 ダメ、そんなの絶対に許さない‼


「あははっ。お兄さんの体は後でお人形の材料にでもしてあげる!」


(シャロン‼)

(ミュニャ!)


 2階の窓からシャロンが口に咥えた『杖』を落としたのが目を瞑っていても分かる。


パシッ!


 ありがとうシャロン、ちゃんと受け取ったよ。


(水よ、我が想いに応え恵みを与えん)


 私は杖を眼前に掲げ言霊に想いを乗せて、水滴が集まってくる。


(時よ、我が願いを叶え静寂を鳴らせ)


 集まった水滴が杖の先で鋭い円錐状の形に凍っていく。


(風よ、我が求めのままにたなびけ!)


 風が巻き起こって私の服と髪をなびかせながら氷の根元へ吸い込まれる。


「あら、エナお姉ちゃんそれはなあに?」


 リベットがこっちに気付いたけど、私が何をしているのか分からないから警戒してないみたい。

 ……当然かも。


 一番実用性がある攻撃魔法は制御が簡単で高威力な派手に爆裂する炎魔法。

 二番目は制御に失敗すると術者が死ぬ事もあるけど光も音も激しい雷魔法。


 それに比べてこの魔法は時間も掛かるし制御も難しいし、実戦に向いていないから誰も使わない音も静かで目立たなくてまるで私みたいに地味な氷魔法。


 だけど私が一番得意な魔法なの!

 

「テルト! もし間違って、殺しちゃったら、ごめんなさい!」

「何?」


ズシャ!


 私は地面に杖の下を突き刺して固定すると、姿勢低く屈み『照準』を人形の腕に向けた。


 得意とは言っても制御は本当に難しいから完璧に当てれる自身は無いし間違いなくテルトにもダメージは入る。

 でも私に出来る事はこれしか無い!


「《空絶の氷槍スティーリア・ランケア》‼」


 氷の刃の根本の圧縮した空気の気泡が爆発するように弾けて打ち出されて、氷は途中で複数に分裂して、人形とテルト両方に向かって行く。


 テルトの強さを信じてる!

 お願い耐えて‼




◇◇◇




「《空絶の氷槍スティーリア・ランケア》‼」


 エナの声の後に、俺の背中にとてつもない衝撃が奔って呼吸が一瞬止まる。


 確かまた『殺しちゃったら、ごめんなさい』って言ってたけど本当に死にそう!


ジャシャーーーーンッ‼


 背中全体に冷気が広がった。


 かなり痛かったけどチャンスだ。

 砂が崩れる音と同時に《魔神人形(まじんにんぎょう)》の腕の力が緩んだ。

 《魔神人形(まじんにんぎょう)》の周りの黒紫の砂は、鎧と同時に筋肉の役割もしていたらしい。


「はあぁ‼」


バシンッ! ガシッ!


 俺は力を振り絞り《魔神人形(まじんにんぎょう)》の腕を払い除け蹴りを入れ離れた。

 なんとか脱出に成功だ!


(《疫病抗体(えきびょうこうたい)》! 《跳鼬の飛脚(ストラート・サリア)》!)


タンッ! タンッ! タンッ!


 《魔神人形(まじんにんぎょう)》から10メートルほど距離を取った。

 呪いの効果が収まるのを待たないと!


「なんなのよ! もうエナお姉ちゃん邪魔しないで!」


ザシュ……ザシュ……


 《魔神人形(まじんにんぎょう)》は殆ど動けなくなってる俺を無視して、エナの方へ向かって行く。


「シャロン‼」

「ミュニャーーー!」


ドシッ!


 エナの掛け声に2階からシャロンが《魔神人形(まじんにんぎょう)》の頭に体当りすると、砂塵が崩れて重心が歪んでいたためバランスを崩してよろめいた。


 いいぞシャロン!


「シャロンまで! 邪魔よ!」


バシッ! ……ドンッ‼


「フギャ!」


 でも《魔神人形(まじんにんぎょう)》の速さは鈍っていなかった。

 シャロンは簡単に腕で薙ぎ飛ばされる。

 大丈夫か⁉


ザシュ……ザシュ……


 怒りに狂ったリベットの《魔神人形(まじんにんぎょう)》の足は止まらない。


 エナの方をチラリと見ると両手に杖を持っていてその先に氷が集まっていた。

 さっきの魔法はあれをぶつけたのか。


 でも氷ができる速度はとても遅い。


ザシュザシュ ザシュザシュ


「⁉」


 そして《魔神人形(まじんにんぎょう)》はエナに向かって走り出す!

 それはまずい!


ザシュザシュ!


「エナお姉ちゃんなんか壊れちゃえ!」


 《魔神人形(まじんにんぎょう)》がエナの目の前に立ち左腕を左上に構える。


「……ッ!」


 エナの恐怖に怯えた顔に《魔神人形(まじんにんぎょう)》の影が広がり暗くする。


ビュンッ!


 《魔神人形(まじんにんぎょう)》の左腕は、容赦なく殺意を持ってエナに打ち下ろされる。

 エナは両目を強く瞑る。


「いやっ……‼」


ガシッ‼


 でもその左腕がエナに届く事は無かった。

 俺が両腕で抑え込んだからな!


「大丈夫だっ!」

「テルト!」

「もうっ! いい加減邪魔しないでよお兄さん!」


グンッ! ……ザザザッ‼


 《魔神人形(まじんにんぎょう)》は力を込めて俺を腕ごと押し込めようとする。


「いい加減にするのはっ!」


ガシッ‼ ザザザッ…………!


 逆に俺が《魔神人形(まじんにんぎょう)》の腕を押し返すと、本来質量の大きい《魔神人形(まじんにんぎょう)》の方の足がズルズルと滑る。


「どっどうして⁉」


 それは俺の足が《砂塵の掴手(アンモス・ケイル)》で地面を掴んでいるからだ。


「お前だリベット!」


 俺は左手はそのままに、右手で《魔神人形(まじんにんぎょう)》の左腕を掴む。


バチバチンッ! ……パラパラパラパラッ!


 ガードブレイクのつもりで《雷震の把手(トルエノ・アステール)》を打ち込むと、《魔神人形(まじんにんぎょう)》の両腕の砂が少し崩れ落ちて腕力が落ちるのを感じた。


 最初からこれをやれば良かったな!


ズザッ ズザッ ズザッ ズザッ……‼


 そのまま俺は右足左足に交互に《砂塵の掴手(アンモス・ケイル)》を使いながら、《魔神人形(まじんにんぎょう)》を呪陣の外に押し出していく。


ゾワゾワゾワゾワッ…………!


「ぐっ!」


 俺の両手の手の平から赤黒いアザがうごめく。

 また呪いか!


「あらあらお兄さん、《魍魎の疫災(ダイオロス・カタラ)》の効果が発動したみたいね!」


「《疫病抗体(えきびょうこうたい)》!」


……スッ‼


 俺が《疫病抗体(えきびょうこうたい)》を使うと、瞬時に呪いのアザがかき消える。


「そっ、そんな! どうして⁉」


 リベットの声が余裕から動揺に反転する。


 どうしてだろうな?

 もしかしたら何度も食らってるから疫病への耐性が完全になったのかも。


パシンッ!


 《疫病抗体(えきびょうこうたい)》の両腕を強く押して手を離すと、《魔神人形(まじんにんぎょう)》は姿勢制御の為に前後左右によろよろと揺れる。


「《呀甲拳(ガコウケン)》‼」


バシュ‼ バシュ‼ ズシャ‼ ズシャ‼


 俺が《魔神人形(まじんにんぎょう)》の《ガードブレイク》中の左右の腕に拳を打ち込むと、《魔神人形(まじんにんぎょう)》の両腕は砂ごと弾かれて胴体が無防備に露わになる。


「あーもう! 鬱陶しい!」

「テルト伏せて!」


(《砂塵の掴手(アンモス・ケイル)》!)


 エナの力の込もった声に俺はスキルを使って地面に伏せる。


「《空絶の氷槍スティーリア・ランケア》‼」


バッシュ‼ ……ザシャンッ‼


 その瞬間エナの氷の魔法が放たれて真上で砕ける音が散った。

 冷たい氷の破片と土が俺の頭部に降り注ぐ。


 俺はゆっくりと立ち上がる。


「もう、どうして邪魔ばかりするの! 許さないんだから!」

「だから言っただろ…………」


 《魔神人形(まじんにんぎょう)》はエナの魔法攻撃で1歩2歩と後退していた。

 間に適度なスペースが生まれる。


 《魔神人形(まじんにんぎょう)》の胴体は黒紫の土が剥がれ、大きく《核呪》を晒しすのが見えた。

 再生の速度は間に合ってない。


「エナはお前の人形じゃ無いって‼」


タンッ! バッキキキキイイイイイイィィィィーーーー!!


 俺は《魔神人形(まじんにんぎょう)》に踏み込み渾身の拳を捻じり込んだ! 


「きゃああああぁぁぁぁーーーー!」


 《魔神人形(まじんにんぎょう)》の胴体は《核呪》ごと砕け散った!


ドッサッ!


 大きな音を立てて《魔神人形(まじんにんぎょう)》は仰向けに倒れ込む。


 飛び散った氷の破片が溶けて霧となり。

 綺麗な七色に煌めいた。



【ミッション「エナを呪いから解放せよ」達成】

【スキル「《呪文解読(じゅぶんかいどく)》」を取得しました】

【閉じる】



【ミッション「《魔神人形(まじんにんぎょう)》を倒せ」達成】

【スキル「《呀甲拳(ガコウケン)》」を取得しました】

【閉じる】



 確認するまでもなくミション完了メッセージが《魔神人形(まじんにんぎょう)》の破壊を知らせてくれた────

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