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十一話 02 解呪の儀式

 俺がセラスールに来て1週間目の昼。

 エナの館の庭先にシャロンとエナと3人が集まっていた。


 いよいよエナの解呪を始める。

 準備は昨日のうちに済ませた。


「それじゃ、解呪の説明をするよ?」

「はい」

「うん!」


 俺は2人に解呪の手順を説明を始めた。


「エナの呪いを解くには、エナの胸の《核呪》を破壊しないといけない。でもそんな事したらエナが死んでしまう」

「ダメ!」

「そうダメだ。だからエナの《核呪》をこっちの人形に一旦移すんだ」


 庭の中央に大きく複雑な円形の呪陣が描かれている。

 《呪骸の書(じゅがいのしょ)》を見ながら描き上げた呪陣だ。


 その中心にリベットが送り込んできた人形が置いてある。


 ちなみに呪陣は形を正確に描く事より俺が意味を理解してる事の方が重要だ。

 だから大きいけど描き切るのに時間はあまり掛からなかった。


「それで人形を直してたんだんですね」


 直したと言ってもかなり雑だ。

 手のブレードを抜いて胴体の傷を糊で塞いだくらい。


「そうそう、で人形の《核呪》を破壊すれば解呪終了。ね? 簡単でしょ?」

「かんたーん!」

「そっ、そう……かな?」


 そう理屈は簡単。

 本当にそれが出来るか出来ないかそれは分からない。


「それで、エナはこっちの小さい呪陣に入ってもらって」

「はい」


 少し離れた庭の隅にもう1つ直径3メートル程度の呪陣が描いてある。


「この呪陣の中に居る間は、エナの《核呪》を少しだけ隠す事が出来る」

「隠す?」

「うん、その間に人形の方の《核呪》の方に《魍魎の疫災(ダイオロス・カタラ)》が移るんだ」

「凄い……」


 これ全部リベットのノートに書いてあった事だけどね。


「終わるまで絶対に外に出ないでね。何が起こるか分からないから」

「わかりました」

「わかったー!」


 さて後はこれでうまくいく事を祈るだけだ。


「じゃあ、シャロンこっちに来て手伝って」

「うん!」


 ここが一番大事なところだ。

 シャロンが役に立つか分からないけど少しでも解呪の成功率を上げるため手伝ってもらおう。


「いいかいシャロン? ここにある人形を『エナ』だと思い込むんだ!」

「うん! わかった思い込む!」

「よし一緒にやろう! これは『エナ』だ!」

「うーん、なんだか変な感じ」


 俺とシャロンはじっと人形を見ながらそれを『エナ』だと思い込む。

 そして俺は同時に『エナ』を自分の人形にしたいと思い込む。


 ……ヤバい発想だけど、リベットの精神を再現する事で『エナ』に《魍魎の疫災(ダイオロス・カタラ)》が移りやすくなる。


「……ちなみにシャロン、これ数時間やるからね?」

「えっ? そんなにかかるんですか?」

「しーっ! 『人形』は黙ってて! 気が散る!」

「そうそう『人形』は黙ってて!」

「ひっ、酷いです……」


 多分だけど本当にこれが一番の難所だ。


 本来の魔法は《精霊》の力でこの世界を歪める。

 でも呪術は人の意思だけで世界を歪める。

 それに必要な力を生み出すには時間をかけて意思の力を溜め込むしかない。


「……………………」

「……………………」


 3人はかなりの時間を無言で過ごす。


 傍から見たら凄く奇妙な光景だろうな。

 やってる俺もこれに本当に意味があるか不安にってきた。


 集中力が途中で何度か切れ掛かったけどその度に集中し直してを繰り返す。


…………カタッ


「!」


 2時間ほどだろうか。

 突然『人形』から音が鳴りだした。


カタカタカタカタッ……ガタタン‼


「テルト! 『エナ』が!」

「『エナ』が起き上がったぞ!」

「えっ……えっと……」


 人形が動き出して突然上半身だけ起き上がった。


 これは成功したのか?


「多分成功だ、早速『エナ』の心臓を壊すぞ!」

「うん!」

「なんか変な感じです……」


 俺とシャロンが人形を『エナ』と呼び続けてる事にエナが抗議の目を向けてくる。


 俺はそれを無視して『エナ』の胸にある《核呪》を破壊するために斧を手に取って振り上げた。


 頼む、これで上手く行ってくれ! 


ガタガタガタガタッ‼ ……ヒュゴオォォォォォーーーー‼


「……⁉」


 突然『エナ』……いや人形が激しく揺れ始め周囲に旋風が巻き起こった。

 俺は思わず1歩後ずさって左肩で口元を隠し埃を塞いだ。


「なっ、なんだ!?」

「どうしたの? 成功したんですか?」

「いや、わからない!」


オオオオォォォォォーーーー‼


 風は勢いをまして砂塵が人形に磁石の様にくっつき始める。


 何か……おかしい!

 どんどんと人形は体積を増して張り付いた砂が黒紫色に変色していく。


ビュオオオォォォォォーーーー‼

ザシュ……ザシュ……


 つむじかぜの中から元の《木偶人形》とは全く別の黒紫の土に覆われた異形の人形が現れた。

 ゴーレムや魔神を彷彿とさせる姿だ。


 以後《魔神人形(まじんにんぎょう)》って呼ぶ事にしよう。


「テルト! これはなんなの?」

「わからない! でも危険だシャロン離れよう!」

「うん!」


 俺とシャロンは《魔神人形(まじんにんぎょう)》から距離を取る。


 風が徐々に収まり、しばらくして《魔神人形(まじんにんぎょう)》は何やら辺りを見回すような動作をする。


 そしてその目線がエナを捉えて止まる。


「私のエナおねえちゃん、こんな所に居たの? ダメじゃない私から離れちゃ」

「‼」


 突然《魔神人形(まじんにんぎょう)》が喋り出した。


「リベット……なのか?」

「お兄さんもお久しぶり。私のお人形を直してくれたのね。うふふ、ありがとう。お陰で復活出来たわ」

「リベット……」


 《魔神人形(まじんにんぎょう)》が俺の方に向き直る。

 復活してしまった、やっぱり人形を直しちゃったのは不味かったかな。

 人形にある呪陣は削ったから大丈夫だと思ったんだけど。


「でもダメよお兄さん。私からエナお姉ちゃんを奪い取ろうとするなんて、そんな事許さないわ」


ザシュ……ザシュ……


 《魔神人形(まじんにんぎょう)》が俺の方に1歩、2歩と踏み寄ってくる。

 俺は斧を持ち構えた。


「だってエナお姉ちゃんは! ……私の人形なんだから!」


ビュン! ドッ! ドカッ!


「かはっ!」


 《魔神人形(まじんにんぎょう)》が腕を横に薙ぐと俺の脇腹に当たる。


ザッザアァァァァーー!


 俺は間合いを十分取っていたつもりだったけど吹き飛ばされて、斧を手放して悶絶する。


 早い!

 一昨日戦った《木偶人形》とは桁違いに《魔神人形(まじんにんぎょう)》は早い!

 《衝撃耐性(しょうげきたいせい)》が無かったら肋骨の数本は折れていたな。


「テルト!」

「けほっ、けほっ……大丈夫だエナ! 絶対にその呪陣から出ないで!」

「あら? 今ので死なないなんて、頑丈なのねお兄さん」

「まあね」


 俺は体勢を立て直し落とした斧を手に取る。

 エナが呪陣から出ると全てが水の泡だ。俺1人で戦うしか無い!



【ミッション「《魔神人形(まじんにんぎょう)》を倒せ」を開始しますか?】

条件、《魔神人形(まじんにんぎょう)》を倒す。制限時間2日。

注釈、《魔神人形(まじんにんぎょう)》の機能停止。

報酬スキル、《呀甲拳(ガコウケン)

【はい/いいえ/詳細】



 突如ミッションが発生した。


 おいおい《魔神人形(まじんにんぎょう)》を倒すイコール、エナの《魍魎の疫災(ダイオロス・カタラ)》の解呪だろ。

 これスキルの2重取りにならないのか?


 でも有り難く『はい』を押させてもらおう。

 今回はズルだろうが何だろうが絶対にエナを救うって決めたから。


 さあダブルミッションスタートだ────

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