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十話 03 魍魎の人形

 セラスールに来て4日目の夜半近く。

 この日も物置小屋に籠もり解読を続けていた。


 たまにエナが様子を見にハーブティを差し入れてくれる。

 最初は薄い味が苦手だったけど、毎回違う香りが密かな楽しみになっていた。


「ありがとうエナ」

「いえ……凄い。もうこんなに翻訳出来たんですか?」

「まだ半分くらいだけどね」


 俺はハーブティを飲みながら答えた。

 このペースが早いのか遅いのか。でも呪術についてかなり理解が深まった。もう少しだ。


「しかしこのノート凄いな、子供なのに詳細に呪術の研究がしてある」

「リベット…………、私そろそろ休みますね」

「うん、おやすみ」


 『SP12/31』か。

 SPの回復速度は起床時だと1時間で1ポイント。

 睡眠時で1時間に2ポイントくらい。

 今日は解読作業は終わりにして後は書きためたメモを整理でもするか。


「よし、こんなもんか」


キュキュ……カチャン


 もうすぐだ、明日か明後日には解読も終わる。

 さあ部屋に戻って寝よう。


カシャカシャカシャカシャ…………


 ……何だ? 通路の左側から何か音がする外の庭だ。


カシャカシャカシャカシャ…………


「なっ!?」


 手に持った魔光ランプの光で薄暗い闇を照らすとそこには不気味に地を這いずり蠢く肢体が浮かぶ。

 まるでホラー映画のワンシーンの様な光景に俺は背筋がゾッとして後ずさる。


 蜘蛛? ……いや違う。

 あの特徴的な球体関節は何処かで見た記憶がある。……そうだハイルム男爵家の邸宅で呪術の儀式が行なわれていた部屋。その壁に飾られた人形だ!


カシャカシャ ……ガシャカシャガシャカシャ!


 人形が家の壁に到達するとしばらく静止して。そして壁をよじ登り始めた。


 2階に行こうとしてる⁉


「エナ!」


タッ、タッ、タッ、タッ…………!


 あの人形から明確な敵意を感じた。

 標的は間違いなくエナだ!


ガッシャーン!


「キャッ!」


 窓の割れる音と共にエナの悲鳴。


ガチャ トットッ


 2階に到着するとエナが部屋から飛び出して来て部屋の中を振り返った。


「エナどいて!」

「テルト! 窓に!!」


 俺はエナを押しのけて寝室に入ると部屋の対面のマドを割った人形が無機質で不気味な顔をカタカタと揺らし侵入を試みていた。


 取り敢えず外に追い出そう、何か武器になりそうな物は無いか?


タッ! タタタタタッ! ダンッ!


「ミニャー!!」


ドンガシャァアアン!!


 シャロンが俺の横を通り抜け人形の顔面にタックルした!


「ミャニュン!」


タンッ!


 人形が外に放り出され。

 シャロンが即座に窓から外に出て追撃する!


 ナイスだシャロン! 俺も外に行こうまずは靴だ、玄関だ!


「エナ! 光をお願い!」

「はい!」


 エナと事前に敵の襲撃時に逃げるか戦うか打ち合わせてあった。


カシャカシャ! ……カシャ!


「ミュニャーン!」


ガシンッ! シュバッ!


 玄関でブーツの紐を結んでいると外でシャロンが人形を足止めしてくれている音が聞こえる。


 シャロン本当に偉い! 今俺も行くから待ってろ!


ポンッ! ポンッポンポンポッポッ…………


 エナが作戦通り2階の窓から小さくて頑丈な魔光ランプを庭にいくつかばら撒いていた。

 お陰で周囲は柔らかな光に包まれ戦うのに十分な視界になった。


「シャロン、交代だ!」

「ミュニャ!」


「《劈く雷迅(トルエノ・ローア)》!」


バチンッ! キィー……、カタカタカタカタッ……


 挨拶代わりの雷撃を打ち込んだけど人形には全く効果が無かった。

 人間相手にも大した威力じゃないしなぁ。まあ人形のタゲは取れたからヨシッ!


カシャン、カシャシャン……


 人形が立ち上がり二足歩行になる。


 ロボットでも二足歩行の制御はかなり難しいのにこの人形は難なくこなして見せた。

 歩く人形ってのは本当に不気味だ。


 取り敢えずこの人形を《木偶人形》と名付けよう。


ガッシャ、ガッシャ、ガッシャ、ガッシャ…………


 《木偶人形》が俺目掛けて遅い掛かってくる。


「《砂塵の掴手(アンモス・ケイル)》!」


 俺は《木偶人形》に背負投をした。


シュ、ガシリッ、キュワッ……、ドシャン!!


 《木偶人形》はそれなりの重さだから地面に打ち付けられた衝撃はかなりのはず。

 でも手応えが無かった。


カタカタカタカタッ!


 『SP9/31』の表示を確認、ヤバい思ってたより戦闘でのSP消費は激しい。

 SP10残しじゃ全然足りなかった。節約しないと!


ドガシッ!


 俺は倒れた《木偶人形》の頭部を蹴り飛ばした。


カタカタッ……ギュルン! シャタッ、シュタッ!


「!」


 すると《木偶人形》の動きが急に変わった。ゴロンと転がり反動で素早く起き上がる!

 起き上がり小法師か!


「あら。お兄さんって結構強いのね」

「……えっ?」


 喋った!?

 俺は声のした方向《木偶人形》の後ろに目で確認したけど人の姿は見えない。

 喋ってるのは《木偶人形》で間違いない。


「お兄さん1人? お仲間さんは居なかったみたいね」


「リ……リベットなのか!?」

「リベット!」

「ミュニャ!」


 声は鈍くて若干違っているけど口調がリベットだ。

 どんな仕掛けで音を出してるんだ?


「まあ良いわ。エナお姉ちゃんと私の邪魔をするなら殺してあげる!」


カシャン パカッ……シャキーンッ! カシャン


 《木偶人形》の両腕が開き鋭い刃が伸びる。


「なっ、何だ!?」


 まずい! 俺は《衝撃耐性(しょうげきたいせい)》は持っているけど斬撃耐性は無い!


 頬を冷や汗がつたうような気がした。


「死んじゃえ!」


ヒュン!


「っと!」


 《木偶人形》が俺に斬り掛かって来たけど幸い動きは遅いのでかわす事は簡単だった。


ギュルンギュルン シュバシュバ‼ ……ダンッ!


「なっ!」


 《木偶人形》が人間には不可能な不規則な回転をしながら俺の方に飛び込んで来る。


ゲシッ!


 俺は咄嗟に《木偶人形》を遠ざけようと胴体に蹴りを入れた。


ヒュンッ! ……ビュッ!


 だけど僅かに遅く《木偶人形》の腕の刃の先が俺の頬をかすめ鮮血が糸を引く。


カシャカシャカシャカシャ……ガシャン! ズササッー!


「ほらっ! ほらっ! 早く死んじゃえ!」

「くそっ!」


 どうやったらこの《木偶人形》を止められる?

 破壊が一番手っ取り早いけど《木偶人形》は結構頑丈だから素手では厳しいぞ。


「テルト! 納屋の方に斧があります!」


(《跳鼬の飛脚(ストラート・サリア)》!)


タンッ! タンッ!


 俺は一旦スキルで《木偶人形》から距離を取った。

 2階を見ると窓からエナが左下を指差す。


「ミニャ!」


 視線の先を追うとシャロンが鳴いて知らせてくれた。

 納屋の壁に薪割り用のエナでも使えそうな小ぶりな斧が立て掛けてある。


タンッ! タンッ! タンッ! パシッ!


 移動して俺は斧を手に取る。

 思った通り軽いけど刃は十分鋭く《木偶人形》を破壊できそうな手応えを感じた。


ガッシャ、ガッシャ、ガッシャ、ガッシャ…………


「武器なんて、卑怯なんだから!」

「卑怯で結構!」


 《木偶人形》が俺に向かって駆けてくる。

 斧を使った事なんてロクに無いけど野球のバットみたいなもんだろ。


ガッシャ、ガッシャ、ガッシャ、ガッシャ……


ヒュン……バキイィィィィン‼


 俺はフルスイングで《木偶人形》の胴体に斧を叩きつけた!


ズッ! ガシャーン‼ ……カシャカシャカシャ…………


 斧が腹に食い込み反動で人形が吹き飛ぶ。

 微かにその時《木偶人形》から力が消えるのを感じる。


「ふぅ……」


 《木偶人形》は力なく崩れた。しばらく警戒して凝視していたけど《木偶人形》が動く気配は無い。


 どうやら完全に倒せた様だな。


「テルト!」

「ミニャ!」

「エナ」


 エナが2階から降りて来ていてシャロンと一緒に俺に駆け寄る。


「終わったんですか?」

「多分ね」

「頬に傷! 私回復魔法を使えるので、今治しますね」

「ありがとう」


 安心して互いに顔を合わせるとエナが俺の顔の血に気付いて頬の傷を回復魔法で治してくれた。


 温かな魔法。あの時と同じ。


 その後念の為《木偶人形》を縄で縛って納屋にしまった。

 今日はもう大丈夫だろう、警戒しながら俺達は眠りに付いた────




◇◇◇




 ハイルム男爵家の邸宅の薄暗い呪術部屋をロウソクの火がゆらゆら照らす。


「あーあ、失敗しちゃった」


 床でうつ伏せで寝ていたリベットが深い溜息と共に起き上がる。


「私の《魍魎の人形》壊されちゃった、作るの大変だったのに残念ね。ねぇ、ユリース貴方もそう思うでしょう?」


 リベットの目の前には儀式用の呪陣が描かれ、中央には全裸で仰向けにされ手と足を後ろで繋ぐように縛られ目隠しをされたユリースがあった。

 その胸には儀式用の銀の短剣が深々と突き刺さり、微動だにしていない。


「まぁいいわ、次のお人形を探しましょう」


 リベットは口の横に付いた血しぶきをペロリと舐め取り、妖しく笑う────

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[気になる点] 中身が『八話 03』とダブってますよー。
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