十話 02 呪術解読
物置部屋にはいくつか大きめの棚があるだけで物は殆どなかった。
この広さなら十分だ。
俺はテーブルと椅子があったので使える位置に移動させ筆記類を準備した。
「まずは解読だ、《呪文解読》!」
【《呪文解読》】
タイプ鑑定、消費SP6
呪術を解読する事ができる。
解読には一定の時間が必要となる。
【閉じる】
昨日このスキルを試用してみたけど一定の時間が必要になると言うのが少し癖ものだった。
鑑定中にずっと解読対象を見てないといけないから集中力が消耗するし、俺は今何やってんだろうって虚しい気分が込み上げてくる。
「……………………」
ちなみに今の俺のレベル19に上がっていてSPの最大値も増えていた。
『SP25/31』だと5回使える計算だ。
けど全て使い切って万一敵が来たら何も出来ない。
最低でも10ポイントは常に残しておかないとな。
【解読完了】
高度で複雑な呪術を扱うには正しい呪陣を書き、呪者がその意味を正しく理解し、長期間の集中が必要である。
呪陣はマテリア世界からソムニア世界への逆干渉を補助するモノである。
人は常に世界を物を認識していない、認識していると思いこんでいるがそれは数秒と持たず途切れ続けている。
呪者は呪陣を見る事で認識を常に更新し続け、ソムニア世界へ逆干渉を可能にする。
【閉じる】
たったこれだけの翻訳に10分くらい時間が掛かる。
暗号化された本だから仕方ないのかも知れない。
俺はメモに書き写す。
カードの履歴で確認するよりメモの方が覚えやすいし後で見返すのも楽だからだ。
【解読完了】
呪陣には《非核呪型》と《核呪型》がある。
《非核呪型》は術作用は小さいが、呪陣を消しても呪いは直ぐには消えず緩やかに呪いは減衰していく。
《核呪型》は極めて強力な作用を引き起こせるが、《核呪》が壊されれば呪いは即座に呪者に跳ね返る。
【閉じる】
まだ冒頭部分だけの翻訳だけど早くも解呪の手がかりを得たんじゃないか?
この調子なら予想より簡単かもしれない!
俺はその日1日中解読しては休みを繰り返した。
◇◇◇
夕刻。
ハイルム男爵家の邸宅の自室でリベットは静かに手紙を読んでいた。
キー……ガタッ!
「……あら?」
読み終えたリベットが机の引き出しを引くと異変に気付いた。
リベットは他人に自分の物を触られるのを嫌う。
家族にも使用人にも部屋への立ち入りを禁じていた。
それでも信用しきれず部屋の物の配置を神経質に整え覚えて何かが動かされてないかを常にチェックしてる。
それは机の中の一見無造作に置かれた手紙や押し葉も同じ。
「動かされてる……もう、またお母様かしら!」
以前に母親のミーラが勝手に部屋に入った事がある。
その時は激しく怒ったのでもう2度と無いだろうと思っていた。
ガタッ! キー……カタッ! キー……ガタッ!
「……こっちも」
リベットは2段目の引き出しもチェックする。
そこの鍵も以前とは逆方向。
「……まさか!」
リベットは鍵を持ち出し部屋を出ると、すぐ近くの鍵の掛かった部屋を開ける。
ガチャ、カチャ……ガチャリ! キィー……パタンッ!
「ハァ…ハァ……」
リベットは机に近付きメモの紙などをどける。
「なっ!? 無い! ……私の本とノートが無くなってる!」
ありえない事だ。
この部屋の事は父ハイルムも母ミーラも知っている。勿論その重要性も。
リベットの呪術に関する物を勝手に持ち出す者などこの家に存在する筈がない。
「一体誰が……! もしかして!」
リベットは外部の人間でこんな事をするかも知れない唯一の存在が昨日現れていた事を思い出す。
「お母様! 大変よ!」
リベットは母の名を呼びながら部屋を後にする。
その日の夜。
ハイルム男爵一家の一同と執事のベイクマンが食堂に会していた。
「本当なのか?」
「分からないわよ、でも他に誰が盗んだって言うの?」
リベットはハーブティーを混ぜながら不機嫌に答える。
「使用人では無いでしょう、リベットお嬢様の気性はみな理解しております」
「あらベイクマン、それはどういう意味かしら?」
「でも、昨日の少年が忍び込んで盗んだなんて、そんな事出来るのかしら?」
ミーラには信じられなかった。
確かに少し変わった少年ではあったけど。
そんな事をするようには見えなかったからだ。
「私はその少年を見てい無いからな」
「ひょっとすると、あの少年1人では無いのかもしれませんな」
「この館に忍び込んだ協力者がいると?」
「貴方! 急いで手を打って頂戴!」
ミーラ夫人の激しい叱責にハイルム男爵は額に汗をかきながら答える。
「分かってる、だがあと数日まってくれ」
呪術の使用は重罪である。
もし世間に知れ渡れば例え娘のリベットの単独行動だったとしても無事では済まない。爵位は確実に剥奪されるだろう。
「そんなに待ってられないわ」
「リベット……」
「私がやるわ、私の呪術を使ってね」
そう行ってリベットは不敵に細く微笑む。
リベットには幼少の頃からはっきりと呪術の才があった。
それを見抜いたハイルム男爵は娘の力を使いエナに呪いをかけさせた。
そして狙い通り兄ロベルムを疫病で殺す事に成功し、男爵の地位を奪い取ったのだ。
「頼んだぞ我が愛しのリベット」
「貴方が頼りよ」
ハイルムとミーラの歪な笑顔と愛情がリベットに注がれる。
◇◇◇
リベットは食堂を出て1階の使用人の寝室が集まる廊下の前にやって来る。
1階が使用人室、2階に家族の部屋や貴賓室がある。
セキュリティ上の当然の配置だ。
「ユリース! ユリースはいる?」
「はいリベットお嬢様。なんの御用ですか?」
ユリースと言う少年が一室から出て来た。
おとなしめだが可愛さを含んだ美少年である。
ユリースは使用人の息子でリベットに気に入られ邸宅に住む事を許可されていた。
「私の部屋にいらっしゃい」
「はい」
リベットの部屋にユリースが付いて行く。
部屋に入るとリベットが左足の靴下を脱ぎユリースの方を向いて椅子に座る。
「ユリース舐めて頂戴」
「はい……リベットお嬢様…………ペロ、ペロ……」
ユリースは地に伏す様にしゃがみ込みリベットが突き出した左足の親指をなめ始める。
リベットはエナと同じく白い肌に整った顔立ちで可憐で可愛く、貴族と言う豊かな生活で垢抜けていた。
平民のユリースにとっては高嶺の花でありこの様な恥ずかしめられる様な命令にも逆に喜びに感じてしまう。
「あぁん……いいわよ。指の間も綺麗にね」
「はい」
時折漏れるリベットの媚声にユリースは興奮する。
「ねえユリースお願いがあるの。今日の夜誰にも気付かれないように、もう一度私の部屋に来てくれる?」
「はっ、はい。リベットお嬢様」
リベットはユリースを見下ろしながら愛くるしい顔で微笑みかける。
「うふふ……好きよユリース」
「私もです、リベットお嬢様」
リベットは恍惚とした表情でユリースを見下ろしていた。




