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八話 02 馬車に揺られて

 ハーツゲッヘ伯爵邸の執務室で、伯爵は本来の姿に戻り窓際から外を眺めていた。


「よろしいのですか?」

「余っていたものだ構わん。それより例の調べはついたか?」


 その後ろで秘書らしき女性が報告書を手に持って立っていた。


「はい、使用人の中に8名」

「それほどいたか、一介の盗賊団にしては手が込んでおる。やはり裏に奴らがいるな」


 8名とはガレオロス盗賊団に繋がる裏切り者の数だ。

 使用人を買収するのも金が要る。

 もしかしたら何らかの催眠や支配魔法が使われたかも知れない。


「いかがしますか?」

「拷問して全て吐かせて始末しろ」

「はっ」


 例えそうだとしても伯爵の指示に容赦は無い。

 今の伯爵の顔はさっきまでの聖人君子の仮面を外した権謀術数の世界を生きる支配者の顔になっていた。




◇◇◇




 翌日の午前。


 俺とシャロンは宿泊先の人に別れの挨拶を済ませ、伯爵の召使いに連れられ伯爵邸内の馬車小屋に来ていた。

 古いけど頑丈そうな馬車がずらりと並んでいる。

 馬と言っても正確には馬に似た何かだけど。


「すご~い! お馬さんだ!」

「この馬車……本当に貰っちゃて良いんですか?」

「ええ、伯爵閣下から正式に賜っています」


 伯爵に旅をしたいって話をしたら今回の盗賊を捕らえた褒美として馬車までくれちゃった。

 古いけど結構立派だよこれ。


「でもこれって幾らくらいするんですか?」

「もう古いものですので、金貨4枚もしないかと思いますが」


 金貨4枚は約40万円だけど中古車一台買うくらいの値段と見れば納得かな。

 高校1年の俺にはそれでも大金だよ、なんか気が引ける。


「それとこちら旅券と餞別でございます」

「ありがとうございます」

「やったねテルト!」


 その後飼育員から馬車の乗り方や餌や休憩の取り方等を教わる。

 この世界の交通ルール知らないけど大丈夫かな? 少し不安だ。


「王都は右に曲がって西でございます」


 俺は貰った地図を広げて確認する。

 次の行き先は『王都クロイセフォン』に決定した。


 情報が多く集まるってのもあるけど最大の理由は他の転生者に会うためだ。

 ゲーム開始時のカードの説明で俺以外にも転生者が居る事は知っていたし、同じ世界に転生してるなら接触できれば情報交換とか協力できる。

 たとえ転生者のスタート位置がバラバラだとしても同じ事を考えて一番大きな都市、すなわち首都に集まる可能性が高い。


「はい、何から何までありがとうございました」

「お気をつけて」

「いってきま~す!」

「はぁっ!」


パシンッ! カッ、カッポ、カッポ、カッポ、カッポ…………


 俺は手綱を軽く振ると馬が歩き出す。

 最初の分かれ道は右だ。

 俺は手綱を右を引いた。


「ほいっ」


カッポ、カッポ、カッ、カッポ、カッポ…………


 馬車はゆっくり左へ曲がる。

 …………えっ左? 首都は右だよ?


「ちょっ! ちょっと逆! 曲がれ右! いや左でも良いから!」


 俺は手綱を右に左に引いてみるけど馬は意に介さず道に沿って進む。


「お馬さんどうしたの?」

「くそっ! 一旦止まるんだ! ほらほら!」


 仕方ないので止まろうと両方の手綱を引いても馬は反応しない。

 あっヤバいかも!


「なっ、なんで!?」

「なんでだろ~?」


カッポ、カッポ、カッポ、カッポ…………


 俺は頭が真っ白になり固まった。馬は気の向くまま進み続ける。


「これ、どーなるんだー俺達!」

「どーにかなーるー!」


 やがて馬車は暴走した────




◇◇◇




 アルセフォンを出立して2日後の明け方。


 俺とシャロンは森の小道の小川の側で休息をしている。

 馬車の暴走は結局止まらず、馬が疲れては止まりを繰り返しここまで来た。



【シークレット「所持スキル15個超え」達成】

【スキル「《馬耳東風(ばじとうふう)》」を取得しました】

【閉じる】



【《馬耳東風(ばじとうふう)》】

タイプ欠点、消費SP無し

馬への命令や支配ができなくなる。

テイム系スキルより優先され、消去、譲渡も出来ない。

【閉じる】



 その理由がやっと分かった。

 馬に乗れなくなるスキルをいつの間にか取得していたからだ。


 タイプ欠点? 完全なペナルティスキルだった。

 消去も出来ないし俺は一生馬に乗れないかもしれない。

 せっかく金4枚分の馬車を貰ったのに。


「お馬さんテルトの言うこと、全然聞かないねー」

「そうなんだよなー、どうしよ」

「ねぇねぇ、お馬さん! シャロンにやらせて!」


 そう言ってシャロンが御者台に上がってきた。

 確かにシャロンなら馬も言うこと聞くかも?


 試してみる価値はあるな。


「ほらシャロン」


 俺は座る場所を譲って手綱を渡すと、シャロンが小さなモフモフの手で受け取った。


「やったー! お馬さんあっち行こ!」


カッ、カッポ、カッポ、カッポ、カッポ…………


「おっ!」


 馬車が小気味よく動き出してシャロンはリズミカルに頭を左右に揺らす。


「よーし良いぞシャロン、右に曲がる時は右、左に曲がる時は左を引くんだぞー」

「おもしろ~い!」


 分かれ道でシャロンの手綱に従って馬が曲った。

 どうやら成功だ!


「凄いぞシャロン! ご褒美にほっぺにチューしてあげる!」

「あーっ! テルト、エッチだ!」

「えっ? エッチ?」


 そんな、ほっぺにチューくらいで大げさな。

 それに俺はロリコンじゃないからシャロンに欲情なんてしてないぞ?


「アミーネがテルトがキスしようとしてきたらそう言えって!」

「アミーネめ変な事吹き込みおって!」


 さては俺がアミーネとシャロンがキスしてる所を羨ましそうに見てるのがバレて、真似されないように先手を打たれたか! 中々の策士だな。


「さて、これからどこに行こうかな」

「近くに町があるの! シャロンそこに行きたい!」

「町か……、うん、分かった行こう!」


 シャロンはとても嬉しそうに手綱を握る。


 一難去って俺はやっとホッとできた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ご褒美に頬にキスなんて発想がどこからでてくるんだよ よく女がやるけど、余程の美人じゃないと全然ご褒美にならないし、 美人だとしても自信過剰すぎだろ 美形でも対象の趣味じゃない可能性もあ…
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