五話 01 アレセトの実
ゴルトン商会に泥棒が入った翌日の午前。
俺ことテルト・リバースは暇を貰ってシャロンと一緒に出かけていた。
デートってやつだ。
「シャロンどうだ? 分かるか?」
「スンスンッ……ミニャァ!」
残念な事に猫の姿の方だけど。
俺の言葉にシャロンは付いて来いと言わんばかりに駆け出して答える。
(《植物鑑定》)
【《アレセトの実》】
爽やかな酸味があり食用の薬味として広く流通している。
特定の動物や魔物にとって強い香りを放つ。一粒一粒微妙に香りが違う。
【閉じる/詳細】
俺はゴルトンから貰っていた《アレセトの実》を昨日の泥棒に投げつけてたのだ。我ながら天才!
ただ一晩経ってるので匂いは薄くなってるらしく、シャロンの鼻でも少し苦戦してい様だけど。頼むぞ!
「ミュニャ!」
やって来たのは、町の外の民家も疎らで人通りもない道。
その傍らに一軒のボロ小屋があった。
そこへシャロンが警戒するようにゆっくりと歩き出す。
中に誰かいるらしい。
(《隠密の呼吸》、《隠密の歩行》)
俺も隠密スキルでボロ小屋へと慎重に近寄って行く。
大きめの窓から人影が見えた、ヤバい!
俺は小屋手前の崩れかけた柵に伏せる。
見つかってないよな?
十分な間を置いて少しだけ柵から顔を出すと後ろ姿の男の姿を確認できた。
あれはゴルトン商会で仕事をしてる先輩のトッチだ。
なるほど読めたぞトッチが裏で泥棒の手引をしてたんだな。
そりゃピンポイントで高価な宝石細工だけが狙われた訳だ。
「おせぇな、兄貴」
「まだっすかね」
おっと、もう1人いたようだ。
窓の死角で見えないけど昨日の緑髪のバンタナの男だろう。
今の話から青髪の鋭い目の男は居ないようだ。
どうする? 2人相手なら勝てるかもしれない。
いや、仮に倒せても縛るロープも無いし町に連れて行くのは難しいか。
青髪の男もいつ来るか分からなないし待つ事にしよっと。
シャロンが退屈そうに隣の乾いた草の上に寝そべる。
ゴメンな、もう少し大人しくしててくれよ。
サッ、サッ、ズサッ、ズサッ、ズサッ
待ってるのが苦痛になりかけた頃に奥の道から足音が聞こえてきた。
やっと来たか?
ガチャン、バタンッ
「戻ったぞ」
「それでベイガスさん次は何を?」
間違いない鋭い目の男の声だ。
名前はベイガスと言うらしい。
「静かに! 待ってくれ!」
ガタンッ! キィキィーーーッ!
バンタナの男が突然叫んで俺がいる側の窓を勢いよく開けた。
なっ、まさか見つかったか!?
「どうしたクーベル!?」
「ミニャァ!」
シャロンが柵の上で毛づくろいをしていた。
ちょ、何してんの? このままじゃ俺まで見つかる! バカ、バッカ!
「いや物音が聞こえたんで。シッ、シッ、向こうに行け!」
「ミャニュ!」
シャロンはビックリして俺を見てから機転を利かせて林の方に走って行った。
良いぞシャロン、これで俺の存在は誤魔化せたはず! 天才、大天才!
キィーーーーーッ! ガタンッ!
「変な動物が居ただけっす」
「そうか」
「それで兄貴?」
クーベルと呼ばれたバンタナの男がベイガスに話を促す。
「冒険者や自警団が動き出した、オロフォンを出る」
「次は何処へ?」
「アルセフォンだ、既に何人も潜入員が入り込んで、準備を整えている」
「大都市っすね」
「トッチ、お前は今すぐ町に戻って他の仲間に伝えて後始末をしろ。行け」
「了解っす」
ガチャン バタンッ タッタッタッタッタッ……
トッチが町の方に走っていった。
捕まえたいのは山々だけど今は下っ端はほっとこう。
「最初の目標は?」
「噂になって警戒される前に一番の上物を狙う」
「さすが兄貴。それで?」
トッチの足音が聞こえなくなるまでわざわざ待って2人は会話を再開した。
「ハーツゲッヘ伯爵家の宝物庫。そこにある《天羅の星華》という名物宝石細工だ」
「伯爵家! 大丈夫っすか? 警備が馬鹿にならないんじゃ」
「価値の高い宝物は地下に移されていてな、宝物庫の警備は薄くなっている」
「へぇ」
次のターゲットの話か。
これは面白そうな情報だ。
「《天羅の星華》は元は大した額じゃ無かったが、今市場で急高騰してる」
「なるほど、それでまだ宝物庫に残されてるって訳っすね」
なるほど頭いいなぁ、って感心してどうする。
「決行予定は?」
「5日後の深夜2の刻だ、その日のその時間が一番警備が手薄になる」
「ならまだ余裕あるし、町に戻って準備でもしようぜ兄貴」
「いや昨日ガキに顔を見られた。オロフェンに戻るのは危険だ。今すぐ立つぞ」
これは俺の事か。
指名手配されてると思っているみたいだ。
確かに警察で人相描きでもすれば良かったな。
そういえば警察ってあるのかぁ?
なくても代わりの組織くらいはあるか。今度調べとこう。
「そうだった、あのガキ! 今度会ったらぶっ殺してやる!」
「もう会う事は無いだろう」
そんなフラグみたいな事……。
【ミッション「《天羅の星華》を守れ」を開始しますか?】
条件、ガレオロス盗賊団から、ハーツゲッヘ伯爵の宝《天羅の星華》を守る。制限時間6日。
注釈1、倒す必要なし。
注釈2、他人の手に委ねた場合は無効。(兵士、自警団、冒険者など)
注釈3、仲間の助力は有効。(シャロン)
報酬スキル、《雷震の把手》
【はい/いいえ/詳細】
……回収早!
ガチャン バタンッ! タッタッタッタッタッ……
あっと。ミッション確認してたら2人共行っちゃった。
まあ良いか、行き先は分かってるんだし。
「ミニャァーッ」
いつの間にか林からシャロンが戻ってきていた。
さてとどうするか。
勢いだけでどうにかなるミッションじゃない。
『注釈2、他人の手に委ねた場合は無効』が厄介だ。
下手に誰かに協力を頼みにくい、殆ど俺1人でやらなきゃいけないって事か。
青髪の男ベイガスは俺のレベルを見て低レベルだって驚いていた。
つまりベイガスのレベルは俺より上って事だ。
何か対策を考えないと。
「帰ろうかシャロン」
「ミニャ!」
俺は色々考えがらシャロンをナデナデした。
お前が仲間判定されてて嬉しいよ。




