四話 01 冒険者組合
俺こと裏瑪照斗がオロフォン市に到着したのは、コントロ村を出発してきっかり7日後の正午近くだった。
【チュートリアルミッション「都市オロフェンへ向かえ」達成】
【スキル「《自動翻訳筆記》」を取得しました】
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【《自動翻訳筆記》】
タイプ特殊、消費SP0
この異世界の公用語の文字を日本語として認識できるようになる。
独自または固有の言語の場合は可能なら代替翻訳される。
またSP1消費で、1分間ほど自動翻訳筆記できる。
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てかこの《自動翻訳筆記》って超必須な重要スキルじゃん。取り逃してたらヤバかったな危ない危ない。
途中の村にあった乗合馬車を使えば3日くらいで到着できたらしいので、難しいミッションじゃなかったけどさ。
オロフォン市はコントロ村と比べものにならない程、ザ・都市と言った感じで人の数も建物の大きさ密度が全然違った。
特徴的な2階建てや3階建の建物が印象的で別世界に来たって実感が持てる。
道のあちこちに棒が立っていて上に丸くて透明な球体が付いていた。
これは照明灯で旅の途中でも似た様なのが夜に光るのを見た。
「凄いなぁ……」
都会育ちの俺だけど観光客気分でつい辺りをキョロキョロ見渡してしまう。
そして露天が並ぶ区域にやってきた。
「いらっしゃい!」
近くで謎の魚を焼いてる営業スマイルのおっさんが声を掛けてくる。
美味そうだな。
ここで食べようか? それとももっと安そうな所を探そうか。
コントロ村で稼いだお金は旅費で結構減っている。
この後の宿代を考えると節約したい。
うーん……。
ちょんちょん……
突然俺の服の袖を何かが引っ張った。
「テルト! テルト! これ食べたい!」
振り向くとそこには1人の少女が魚をじっと見つめながら立っていた。
白く長い癖髪に健康的な褐色の肌が栄える可愛い顔。
小学2年生くらいの背丈で白いモフモフした服を着ていた。
ピクピクと長いケモミミを動かしながら長い尻尾をちょろちょろと振る。
えっ? ケモミミ? 尻尾?
よく見ると服どころか手足もモフモフしていた。
「あっ、えっ、何?」
何? というかキミは誰?
いや俺の名前を呼んだ事とその首に付けた見覚えのある首輪から予想は出来る。
……けど、そんなまさか!
「おっ? 兄ちゃん随分良く躾けられた《シャルク》連れてるね!」
やっぱり!
「もしかして、さっきの《シャルク》!?」
「うん!」
「なんだ? 人の姿になったの初めて見たのか?」
「だってそんな事……」
いやありえなくは無いけど。
この世界は結構リアリティが高い、というか間違いなくリアル世界だ。
だから流石に漫画やアニメで良くある様に獣の姿から人間の姿に変身する展開は無いと思っていた。
「まあ人の姿になれる《シャルク》は中々珍しいからな。しかもここまで人に近い姿の《シャルク》は数年ぶりにみたよ」
通り掛かる人も珍しそうに《シャルク》を見ながら通り過ぎて行く。
確かにぱっと見は人の姿だけど手足は元の《シャルク》のままだし、服だと思っていたのも体毛でまったく人と同じ姿じゃ無かった。
「えっと、君の名前は?」
「名前? 名前はシャロン!」
にゅるりと尻尾を鳴らせながら《シャルク》はシャロンと名乗った。
「この《シャルク》、兄ちゃんの知り合いじゃなかったのか?」
「まあ……」
全く知らないって訳じゃないけど。
シャロンがこちらを見ながら目をキラキラとさせて魚をおねだりしている。
仕方ない可愛いし買ってあげようか。
「しかし本当に良く躾けられてるね。知り合いの《シャルク》は俺の焼き魚を見ると瞬く間に……」
「シャァッ!!」
パシッ!
おっさんが話してる隙きにシャロンが串に刺された焼き魚を音速で奪い取りむしゃぶり付く。
「奪って……あっ!」
「ああっ!」
遅れて衝撃波が奔る。
俺もおっさんも一拍置いてギャグ顔で口をあんぐり開けた。
「シャロン!」
「ああーっ! やられた! やっぱ《シャルク》は《シャルク》か!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 今払います!」
元々買ってあげるつもりだったし。
俺はポケットから金袋を出して紐を緩めて銅貨を取り出す。
「はいこれ!」
「まいど。けど早くその《シャルク》どっか連れてった方がが良いよ。なんたって……」
パシッ! ムシャ、ムシャ……
俺が代金を支払うとシャロンはまた焼き魚を奪い取って食べ始めた。
「あっ、こら!」
「《シャルク》の胃袋は底なしだからな」
まっ、まあ2匹くらいなら……。
「はいこれ!」
「まいど」
パシッ! ムシャ、ムシャ……
俺が追加の代金を支払うとシャロンは食べかけの焼き魚を放り出してまた新しい焼き魚を奪い取って食べ始める。
「あっ、こら!」
こっ、こやつもしや……。
「……はい」
「まいど」
パシッ! ムシャ、ムシャ……
俺が再び追加の代金を支払うとシャロンはまた食べかけの焼き魚を放り出してまたまた新しい焼き魚を奪い取った。
……やっぱり!
「こっ、このぉーーっ! 絶対わざとやってるだろ!」
「ふぎゃー!」
俺は怒ってシャロンの首根っこを掴むと、焼き立ての熱い魚に舌を焼かれてもごもごと口を抑える。
猫舌か!
チリンッ
「まいど」
「あっはっはっはっ!」
俺がにんまり笑うおっさんに悔しそうに4回目の支払いをすると、周りでその様子を見ていた人々がどっと笑いだす。
俺は無性に恥ずかしくなってシャロンを引っ張ってその場を後にした。
◇◇◇
俺とシャロンは人影の減った通りを歩く。
隣を見るとシャロンは手の甲をペロペロしていた。
でも人の姿になったって事は、やっぱりシャロンが俺の存在を認めてくれたあの少女なのか?
……とてもそうは思えないな。
喋りは幼いしどうもイメージが重ならない。
とすると。
「シャロンの飼い主? は何処にいるの?」
「シャロンのご主人はテルトだよ!」
いつ俺がご主人様になった。
「そうじゃ無くて、前のご主人様、いたでしょ?」
「前のご主人? うん、いた。死んだよ」
「そっか」
シャロンは少し悲しそうな顔でそう答えた。
亡くなってるならシャロンのご主人様って可能性も無しか。
「どんな人だった?」
「優しかった。美味しいご飯くれた。いっぱいナデナデくれたよ?」
「良いご主人様だったんだね」
「うん」
ご主人様の話を始めるとシャロンの顔も明るくなった。
喜怒哀楽がはっきりしてる子だな。
「シャロンの歳はいくつ?」
「10歳くらい」
見た目は7歳くらいに見えるけどな。
大きいとは言っても元が猫だし体重は変わって無さそうだから仕方ないか。
「シャロン、さっきみたいに勝手に人の物を取ったり食べちゃ駄目だよ?」
「エヘヘッごめんつい!」
一応は俺が今のシャロンのご主人らしいのでしっかり躾けとかないと。
……まあ可愛いから許そう。
そんな会話をしていると目的の建物の前に到着した。
『冒険者組合オロフォン市支部』と書かれた看板がある建物だ。
文字はスキル《自動翻訳筆記》で読めるようになっている。
『異世界に転生しダンジョンを攻略せよ』がこの世界に転生する前に受けた最初のミッションだ。
これが最終的な目的だとすればクリアすると何か報酬があるはずだ。世界最強のスキルとかさ。
期限は設定されていなかっけど、この世界の転生者は俺だけじゃない可能性が高い。早いもの勝ちかも知れない。
それに何より面白そうだし。
ダンジョンと言ったら勇者や冒険者だ。
勇者なんて職業は無いけど冒険者はあった。
バタンッ
分い扉を押して入ると受付カウンターの厳つい男が依頼人らしい男と話しをしていのが目に入る。
他には荷作業をしてる男が1人、昼間だからだろうか閑散としていた。
「そうか、ついにカーミラの店もやられたか」
「ガレオロス盗賊団の仕業だ、あいつらの手口は巧妙だ」
「分かった、冒険者を何人か手配しておく」
「よろしく頼む」
カウンターへ向かう途中、話しを終えて出口へと向かう依頼人とすれ違う。
受付の男が依頼人を見送るように見ていたので、近くの俺にもすぐに気付いて睨みつけてきた。
なんで睨まれるんだろう、怖かったけどビビってられない。
俺は平静を装ってカウンターの前に進んだ。
「すみません、冒険者になりたいんですけど」
「……バカ言ってんじゃねえ」
「えっ?」
受付の男は半目で睨らみながら俺に言い放つ。
予想してた反応の1つだったけど、それでも俺に思わず聞き返してしまった。
「お前ぇ歳はいくつだ?」
「16歳です」
「冒険者の試験は18歳からだ、2年後に来な」
「本当に?」
「本物のバカか? なんで嘘だと思えるんだ」
そう言ってカウンターの受付の男は新聞を手に取り冷めた顔で読み始める。
もう取り合う気がないらしい。
近くで荷作業してた男がこっちを向いて少し苦笑いした後に作業に戻った。
年齢制限に試験まであるのか思ったより面倒そうだな。
まあ『はーい今から君は冒険者でーす』なんてなる方が本当はおかしいんだろうけど。
「はぁ……どうしよ」
組合の建物をしょんぼりしながら出てため息をするとシャロンも真似して肩を落ととした。
「仕事探してんのかい?」
凛とした透き通る女の声が少し高いところから聞こえた。
俺は声の方に顔を向ける。
赤黒い短髪癖毛で顔に少しそばかすが浮かぶボーイッシュな女が柵の上に座って足をブラブラさせながらこっちを見ていた。
年は俺と同じくらいかな?
動きやすそうな服を着てるのも相まってとても活発そうな印象の子だ。
「よっと」
俺と目が合ったのを確認して彼女は柵から飛び降りた。
「冒険者以外の仕事でいいなら紹介するよ。やりたいなら付いて来て」
「あっ、ああ」
女はぶっきらぼうに言い放つ。
俺は一瞬コントロ村のネルミネを思い出した。
まさかこの子も俺を利用しようと何か企んでいるんじゃないか?
でも仕事も欲しいしなぁ、考えすぎても仕方ない付いて行ってみるか!
「そっちの《シャルク》は連れなの? なんて名前?」
「そうだよ、シャロンって言うんだ」
「ふーん、かわいいね」
やっぱり人の姿のシャロンは珍しいのか、チラチラと興味深そうに見る。
「君は?」
「アミーネ」
彼女はアミーネと名乗った。
「俺はテルト」
「そっ」
アミーネは俺の名前には興味無さそうに答える。
「それにしてもその年で冒険者になりたいなんて、そんなに腕に自信があるの?」
「まあね」
「嘘ばっかり」
アミーネは弾けた様に笑うと、シャロンも釣られるように笑った。
「18歳まで冒険者になれない事を知らなかった世間知らずさんが、強いわけがない」
「いや本当、魔法使えるんだ」
「あーそうなの? それが本当だとしても、魔物退治の仕事とかは紹介でき無いよ」
「そっか、腕を見せられなくて残念だ」
何処かトゲのあるアミーネの言い草に俺は思わず捻くれて答える。
「なにそれ」
アミーネは呆れたように眉を傾けて、後ろの俺に顔半分だけ振り返って見せた。
自分の実力が全然なのは分かってる。
スキルも今の所微妙なのしか持ってないし。
だから冒険者になってレベル上げとかして強くなろうと思ってたんだ。
これってゲーム脳かな?
「さっ、中に入って」
さてと、目的地に着いたようだ。




