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三十三話 02 黒い仲間

 偵察を終えた翌日。

 俺達《極昂の虹(きょっこうのにじ)》は再び白壁の迷宮にアタックしていた。


 《ギガントクラス》を何体か倒し、第九階層のフロアボスも倒し、第10階層に入っている。

 今の所第9階層と変わらない白壁のままで特に変化は感じないな。


「ねえテルト、ちょっと寄り道してもいーい?」

「シャロン? そうだな、そんなに急がないし少しくらいなら」


 先導しているシャロンが何かに気付いて寄り道をねだって来た。珍しいな。

 様子からして敵では無さそうだし大丈夫だろう。


「ありがと!」

「シャロンどうしたんでしょう?」


 シャロンが迷宮の奥に駆けていった。


 ……あっ、やばい!

 シャロンは魔物の気配を察知できるけど、魔物以外のトラブルには無力だ。

 心配だな。


「……俺ちょっと付いて行くよ」

「えっ? じゃあ私も!」

「そんじゃあ俺も」

「では私も……」

「どうぞどうぞ……ってダチョ○クラブか!」


 俺は思わず懐かしいネタにツッコミを入れてしまう。


「何を言ってるんですか? テルト」

「たまーに変な事言うよなテルトって」

「……いやなんでも無いよ!」


 多分今のは『ダチョ○クラブ』が変な翻訳になったんだと思う。


 追いついた先で、シャロンはしゃがんで岩陰をじっと見ていた。


「シィーーーーーーーーーッ!」


 岩陰を覗きこむとそこには一匹の黒い《シャルク》が居た。

 全身の毛を逆立てて体を膨らませているけどシャロンより少し小さそうだ。


「あれは……」

「《シャルク》です。野生みたいですね」

「警戒してるみたいだな、なんでこんな所に?」

「低層から迷い込んだんでしょうか、おびえてるみたいです」


 そういえば《シャルク》も元は魔獣で《陽炎の迷宮(ダンジョン)》から生まれたんだった。


 これまでも小さい魔獣をちらほら見かけた事がある。

 襲ってこないのでスルーしてたけど。


 シャロンが物言いたげに俺の方を上目遣いで見つめて来た。


「シャロン……?」

「ねぇテルト、この子助けていい?」

「んー……もちろん良いけど……エナ大丈夫かな? 危なくない?」


 シャロンの仲間だもんな助けたいって思うのは当然だ。


 ……けど、野生なんだよな?

 姿は同じでも凶暴だったりしないかな。


 そもそもこっちが助けたいって思っても、向こうは理解してくれないかも知れない。


「えっと、野生の《シャルク》は凶暴ですけど。時間をかけて慣れれば多分……あまり詳しくないですけど」

「そっか」


 やっぱり時間が必要だよね。

 時間が無駄になるのも嫌だし無理やり連れ帰って檻に入れようか?


 ……なんてな。

 別に《陽炎の迷宮(ダンジョン)》の攻略でアグニスに負けたって良いさ。


 シャロンにはこれまで何度も助けられて来た。

 こんな時くらいゆっくりとシャロンに付き合って上げよう。


「シィーーーーーーーーーッ!」

「どうしたの?」


 シャロンがゆっくりと黒い《シャルク》に近付いて行く。


「……」

「おっ、威嚇を止めたぜ」

「しーっ、静かに」


 やがて威嚇してた何か異変に気付いてシャロンを見つめた。


「言葉分からない? おいで?」

「ミュ…………クンクンッ」


 シャロンが更に近付いて手を差し伸ばした。


 黒い《シャルク》は手の匂いを嗅ぐといつのまにか威嚇が完全に治まっていた。


「仲間だって分かったのかな?」

「よしよしっ」

「ミュニャ」


 見た目は人間の姿だけど匂いで同族だって分かったのかも知れない。

 ついにシャロンは黒い《シャルク》を抱きかかえた。


 びっくりだね。

 もっと時間が掛かると思った。


「やるなぁシャロン」

「でもしばらくはシャロンに任せた方が良いね。人に慣れるのはまだ時間がかかるだろうし」

「名前どうしましょう?」


 エナが俺を見ながら聞いて来た。


 まあ助けようって言ったのはシャロンだし。

 シャロンが決めるか主人であるエナが決めれば良いんじゃないかな?


「テルト決めて!」

「えっ? 俺? そうだなぁ……中々カッコいいな。オスかな?」

「多分そうですね」


 シャロンが俺に決めて欲しいって言うなら考えてやらないとな。


 オスならやっぱカッコいい名前がいいよね?

 黒いから『クロ』『ブラック』とかどうかな。

 ……あとは『ダーク』とかも良いな。


「そうだな……ダークとかどうかな?」

「ダークですか?」

「よろしくねダーク」


 俺の世界の発音的には結構カッコいいと思うんだけど、この世界の発音ではどうなんだろうな。

 でもまあシャロンが気にってくれたみたいだから良いか。


「ミュ……」

「さっ、先を急ごう」


 当のダークの反応は微妙だ。

 まだ自分の名前がダークに決まった事を理解してないだけかも知れないけど。


「ミュニャ!」

「ぬぁっ……こらダーク! 重いって!」


 後ろを向いた途端にダークが俺の肩に飛び乗ってきた。

 《シャルク》は普通に20キログラムくらいある。

 《レベル補正(ほせい)》の筋力は上がってるけど、それでも重いのに変わりは無い。


「テルトを気に入ったみたい」


ガブッ


「……噛まれてるですけど! 割と本気で食べようとしてるんですけど!」


 《シャルク》は気にいってる人間を食べようとするのか?


「テルトの事を食べたいくらいに好きなんだよ!」

「食べられてたまるかぁーーっ!」

「フニャ!」


 俺はダークを無理やり引っ剥がしてシャロンに突き返した。


「ほらシャロン、ダークの面倒しっかり見るんだぞ? 特に俺に噛み付かないようにね」

「うん!」


 ほっぺがヒリヒリする《レベル補正(ほせい)》で皮膚が強化されてなかったら貫通してたな。


「よし、じゃあ行くか」

「かわいいですね」


 プリシナがダークを見ながらボソリと言った。

 どこがだ!


 そんなこんなで俺達は第10層終点の中継キャンプ地に到着した。


「ようやく付いたか《極昂の虹(きょっこうのにじ)》」

「えっと《晴天の御旗(せいてんのみはた)》のホバッツさんでしたね」

「ロイナード達は?」


 先に到着してる筈のロイナード達が見当たらなかった。


 他の《晴天の御旗(せいてんのみはた)》のメンバーは寝ていた。

 リーレレに追加してもらったカードの時計を確認するとまだ正午過ぎだ。

 洞窟の中で体内時計がおかしくなってるんだろうね。


「4時間ほど前に次の階層に行った」

「次ぎの階層? まだ先があるのかよ」


 第12階層まで在ることは《転生者》しか知らない事だ。


「この先だな?」


 第9階層のフロアボスは言わば中ボス。

 この中継地点の先に第10階層のボスがいる筈だ。


「気を付けて下さい、そのフロアは……」


……ボコ……ボコボコッ…………


 ホバッツが何か言おうとしたその時。

 俺達が見つめるボスフロアの空中に塵が浮かび上がり始めた。


「再生が始まったようです」

「ちっ、タイミングが悪ぃな!」


 ロイナード達がここを通過したのは4時間前だ、再生が早すぎる。


 そういえばボスは初めての時は必ず居るけど、二度目以降は居たり居なかったりまちまちだった。

 もしかしたらボスは《未踏破の侵入者》に反応して再生するんじゃないか?

 二度目以降もボスが居る事があるのはその直前に《未踏破の侵入者》の誰かが復活させたから、そう考えれば辻褄が合う。


 そんな考察をしてる間にフロアボスが完全に姿を表した────

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