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狼と虎

「姫様……こちらです」


 アランはそう言って私に手を差し出す。 


「……ありがとう」


 私は少し照れくさいと感じながらアランの差し出された手を取る。

 アランは昔から無意識に女の子に下心もなしに触れてくる事がある。そのせいで1度メイド達が誰がアランに気に入られているかというどうでもいい論争から喧嘩に勃発した事件がある程だ。


「辺りの人間はどうやら大体カタが着いてるみたいですね」

 

 アランは周りの死体……、この国の兵隊を見ながら少し冷たさを感じる声音で告げる。私もそれを見て改めて実感する。

 ここは戦場だ。私にとっては初めての初陣でもある場所だ。目の前に広がっている光景……、無惨に倒れ肩や腹から赤褐色の血が飛び出て地面を濡らしているがこれが常の景色なのだ。

 私は改めて気を引き締め直す。私が動揺していては従者であるアランに示しが着かない。そう思っていると……。


「グワアッ!!」


 奥から悲鳴が聞こえた。

 私とアランは顔を見合わせて頷き合い奥へと進む。なるべく気配を殺して。声のした方へ進む度にカキンッと剣と剣の打ち合う音が連続で聞こえてくる。しかもその音だけではない。ドゴッ、バゴッ、という音までここまで響いてくる。


「姫様、気を付けてください」

 

 アランが1度立ち止まりこちらを向いて小声でささやく。私はその言葉に頷き先を急ぐ。

 少し開けた場所に出て私達は遂に音の出所となる場所に出くわす。

 

「……これはいったいどういうこと?」


 私は目の前の光景に目を疑った。


「まさかこんな事がっ?」


 アランは驚愕のあまり口を手で覆う。

 私は目の前で大立ち回りを演じている2人の兵士を見つめる。

 1人は亜麻色の短髪の少年。片手に剣を持ち戦っている。驚くべきはその剣を振るう力強さだ。彼より体格のでかい男が彼と鍔迫り合いになっても力で押し負けている。さらに力強いだけではなく1度剣を振り出せば、そこから何通りにも連撃が繰り出され止む事を知らない。男達は亜麻色の短髪の少年の連撃に耐え切れず尽く斬り捨てられていく。

 そしてもう1人の黒髪で短髪の少年。彼は驚いた事に素手で男達と対峙していた。素手だというのに退けをとらず果敢に攻め込んでいる。相手が剣を振れば擦れ擦れの所で回避し、そのまま肉薄して一撃を叩き込む。見ていて感心させられる。


「まるで剣を持ってるほうが虎で拳で闘ってる方が狼のようだ」


 無意識にアランがそう口にする。

 私は確かに言い得て妙だと得心する。

 亜麻色の髪の少年が力強い虎だと言うなら、相手の出方を伺って隙を見せた瞬間に一撃を叩き込む黒髪の少年は狼そのものだ。


「……っ。アラン行くわよ」


 2人の少年の戦う姿に見惚れている場合じゃない。

 仲間が危険に晒されているのだ。それなのに助けようとしないのはザズ帝国の王女としても、騎士としても恥ずべき事だ。


「ひ、姫様っ」


 呼び止めるアランの声を無視して私は駆け出す。走っている途中で被っていた外套が頭からスルリと落ちていく。

 私は黒髪の少年の方へ走り寄り背後から一閃……。


「……っ!!」


 が、少年は私の斬撃を予期していたかのようにわ姿勢を少し横にずらすだけで避けこちらへ顔を向ける。

 

「……えっ!!」


「……なっ!!」


 私は黒髪の少年の顔を見て驚きの声を上げる。それは黒髪の少年も同じだった。私と黒髪の少年は暫し見つめ合って固まる。まるで私と彼だけ時間が止まっているかのようだ。


「姫様っ!!」


 アランの声で我に帰るのと同時にアランが黒髪の少年目掛けて持っていた剣で突きを放つ。


「……っ」


 黒髪の少年はその突きを躱すと詰め寄るのではなく、大きく後方に飛んでアランとの距離を取る。


「どうやら少しは出来るようだな……。私の名前はアラン……。アラン・ジラルド!! 貴様の名を聞こうっ」


 黒髪の少年は不敵な笑みを浮かべる。


「アハハッ、いいねぇ〜っ!! 初めての戦いがこんな礼儀正しい奴だとはな。俺の名前はルーク……。ルーク・ヴァンスだっ!!」


 私はその名前を聞いて頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じた。

 ルーク・ヴァンス……。

 間違いない。10年前に知り合った少年の名前だ。

 私はグラつく視界の中で再度ルーク・ヴァンスと名乗る少年を見る。短い黒髪にそこから覗く紫色の瞳……。10年前に見たルークそのままだ。

 私がルーク・ヴァンスの姿をじっと眺めていると……。


「……もらったああぁぁーーっっ!!」


 もう1人の亜麻色の髪の少年がこちらへ剣を振り上げる。


「っ……フレイ様っ!!」


 アランの声が聞こえた。でもそれはすごい遠くから叫んでいるように聞こえる。私は振り下ろされる剣を眺める。何故かゆっくりに見えた。ひどくゆっくりに。

 あぁそうか。死ぬ時というのはこういう物なのかもしれない。

 走馬灯と言う言葉があるがなるほど……。これだけゆっくりなら16年の記憶を振り返るには十分だ。でも私が真っ先に思い出したのは……。


『約束……。俺は君を守るよ。たとえ、国を裏切る事になっても』


 真っ先に思い浮かんだのは10年前のルークと約束をした時の事だった。

 やっと10年ぶりにルークと再会できたのに。敵として再開してしまったけど、このまま私は終わるの? 嫌だっ。私は目を強く瞑る。


――死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないっ!!


 私は心の中でずっとただ、『死にたくない』と言い続けた。


「……?」


 おかしい。

 いつまで経っても予期していた箇所に痛みが走らない。

 まだ走馬灯の中に入ってるの? 私は確かめるために目を開けて驚く。


「どういうつもりだ……ルーク」


 だって敵である筈のルークが私を庇っていたから――。

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