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急襲

「やっと模擬戦の時間か……ここまで長かったぜ」


 座学の時間を終え、模擬戦のカリキュラムに移行した。そのため今度は椅子から立ち上がって模擬戦を行う場所……演習場へと向かう。

 

「ルーク……。お前はずっと寝てただけじゃないか」


 サイが呆れたように言う。


「馬鹿だな……。寝るだけでも体力使うっつのっ!!

 ……と、着いたみてえだな」


演習場に着くと射的用の的、剣を当てる為の木人形など様々な物が置かれていた。


「へぇ、結構揃ってんだな」


 俺はその設備に目を見張った。


「そりゃ軍の施設なんだから設備が整ってるのは当たり前だろ」


 俺はサイの言葉を他所に改めて演習場を見渡す。

 壁際に剣や銃、槍や銃、矢まで置かれていた。


「へぇ、結構武器も種類豊富だな……」

 

「当然だ……」


 野太い声が聞こえてそちらに目を向けると中年特有のポッコリお腹の黒い軍服を身に纏ったオッサンがいた。


「……オッサン誰?」


「オッ……ンンッ、私はこの模擬戦の教官を担当するロイ・ブースターだ」


「……イタッ」


 誰かに脇腹を思い切り突かれる。

 突かれた方へ目を向けると顔色を青くしているサイがいた。


「おい、マズイって謝っとけよっ!!」


 俺の耳元に顔を寄せ小声でそう伝えてくる。


「あっ、もう耳弱いんだからやめて〜っ、お前……前から思ってたけどコッチなのか」


 俺はそう言って片手を広げ手の甲をサイに向けながら俺の口元に寄せる。


「んなこと言ってる場合かっ!! とっとと教官に謝れってのっ!?」


 俺は仁王立ちになり腕を胸の前で組んで一言宣言する。


「やだっ!!」


 と。


「そんな事を堂々と言うなっての!! お前馬鹿なんですかっ!!」


 まくし立てるように言うサイの言葉に俺は頷く。


「我が大親友サイ・ブラントよ。俺がこういう人間だという事をこの中で1番理解してるはずだが?」


「あぁそうだったなっ。今思い出したよっ!! 周りの人間に平気で迷惑掛けるような奴だってっ!!」


 サイが頭を抱えながら言う。すると


「私を無視して勝手に漫才を始めるなっ!!」


 オニのような形相で叫ぶロイ。


「どうしたんですかロ(・)ブ(・)ス(・)タ(・)ー(・)教官」


 俺のジョークにその場にいた全員が吹き出す。

 お、今の結構自信あったから嬉しいな。


「ロイ・ブースターだっ!! ……良いだろう。模擬戦の相手第一号に任命してやる」


 ロイが俺に指を指しながら得意げに言う。


「だってさ、サイ頑張れよ」


 サイの肩を軽く叩いて俺は去ろうと歩き出す。


「おまえだっ、ルーク・ヴァンスっ!!」


 俺は去ろうとしていた足を止め踵を返しロイを見つめる。


「ん……アンタ俺の事知ってんのか?」


「あぁ知ってるとも」


 ロイはそう言うと腕を組んでニタニタと厭らしい笑みを浮かべる。


「ヴァンス孤児院の出でなお且つ、魔力を一切持たない男だとなっ」


 ロイの言葉に生徒達の間でどよめきが起きる。

 サイは知っていたから顔色1つ変えない。お前の存在は本当ありがたいね。


「そこまで知られてるとは……。俺って意外と人気者だったんだな、アハハッ」


「馬鹿にされてるのが分からないのかっ!?」


 ロイの言葉に俺は笑うのをやめ真顔で真っすぐに見据える。

 

「オッサン。良いぜ、相手してやるよ」


 俺はそう言って、右手の甲をオッサンに見せ指を上下に動かして手招きする。それを見たロイは顔を怒りで真っ赤にする。


「貴様っ……後悔しても知らんぞっ!!」


 そう言い放つと同時にロイの足元に紫色の幾何学模様の陣が展開される。


「雷の精霊よ……我を雷と等しき存在になるよう力を与え給え。……雷化(ライジング)っ!!」


 瞬間ロイの身体全体が紫色の光で包まれる。時折ビリッと弾けるような音が聞こえる。


「あ〜。属性武装か?」


 魔法使いには2種類の魔法使いが存在する。

 1つはアリア・ホークのような魔獣と契約をし魔法を放つ魔法使い。そしてもう1つは、目の前にいるロイがやった精霊に力を借りて魔法を放つ魔法使い。どっちが実用的かというと、ロイの使う精霊から力を借りる手法が一般的だ。力の効率でいうのなら魔獣と契約した方が良いのだがその分デメリットが存在する。

 そのデメリットとは契約をする時に代償をなにか支払わなくてはならない。それも高位の魔獣に行けば行くほど、払う代償は大きく跳ね上がる。それこそ命に関わるほどの物を支払うことになる。アリア・ホークは多分、あの魔獣を呼び出す度に大事な物を失っているという事だ。


「ルーク・ヴァンスッ!! 武器を取れ。負けた時に丸腰だったのだから負けて当然だなどと言われても困るのでなっ!!」


 俺はその言葉に吹き出す。


「アハハハッ……。大丈夫。俺素手でも負ける気ねえから。……来いよっ!!」


「良かろう。では……推して参るっ!!」


 そう言うとロイがその場から消える。

 

「これで終わりだっ!!」


 俺は姿勢を低くして背後から放たれた手刀を避ける。


「……フッ」


 そして俺はその場で地面に手を付き、右足を後ろに高く突きあげる。


「グッ……」


 低い姿勢から放った蹴りがロイの顎に入る。

 呻き声を上げたロイは一旦俺から距離を取る。


「馬鹿なっ!? 魔力の有る無い関わず同じ条件下でもない奴に避けられる筈がないっ」


 ロイは驚愕に満ちた表情を俺に向ける。


「確かに……普通の人間なら避けられねぇ。普(・)通(・)の(・)人(・)間(・)ならな」


 俺が不敵な笑みを浮かべながら言うとロイは肩をガタガタと震わせる。

 

「ふわ~あっ、どうする? 俺は引き分けにして終わりにする事を勧めるけど」

   

 俺がニヤニヤ笑って言ったのが気に食わなかったのだろう。ロイは俺の言葉に目を剥く。


「情けなど無用だっ!! それにまだ負けた訳では無いっ!!」


「あ〜、そうですか。でも1つ訂正する箇所があるぜ」


 俺が喋っている最中だというのに目の前にロイの姿は見えなくなっていた。


「これが……お前の最後だっ!!」


 上空を見ると無数の雷を滞空させているロイの姿。


「死ねエエェェェッッッ!!!」


 その声と同時に滞空していた無数の雷が俺の元へ真っすぐ向かってくる。


「ルークっ!!」


 サイの叫び声を耳で聞き留めながら俺はその場から走り出す。

 雷撃魔法はスピードで言うならどの魔法よりずば抜けている。

 だがその分弱点が存在する。それは真っすぐにしか放てないという事。だから俺は走る事で相手を撹乱し、雷撃の無駄玉を誘う。


「チィッ、ちょこまかとっ!!」


「どうしたー? このノーコンッ!!」


 俺はワザとロイを挑発する為に悪態をつく。


「ヌウゥッ、貴様アアァァーーッッ!!」


 思った通り逆上して辺り構わず残りの雷を放ってくる。

 暫く避け続けていると雷撃が止む。


「クゥッ!!」


 痺れを切らしたロイが上空から姿を消し俺の前方に瞬間移動する。

 いや違うな。この場合高速移動と言った方が正しいか。

 ロイは拳を俺目掛けて放つ。


「この時を……待ってたぜぇっ!!」


 俺はその拳を擦れ擦れの所で躱しロイに肉薄する。

 そして左手を強く握りしめ


「……ブフォッ!!」


 その拳をロイの顔面に叩きつけてやった。

 ロイは殴られた事により後方にブッ飛ぶ。


「聞こえてねえだろうけど、訂正箇所を言っとく。負けてないとアンタは言ったが……。アンタは俺に挑んだ時点で負けてたんだよ」


 俺はそう言うと目を閉じる。やっと終わったか。


「「「「「オオォォォ〜〜〜ッッッ!!!」」」」」


 いきなりの歓声に驚き目を開け周りを見ると、新入隊員全員が俺に向けて拍手と歓声を送っていた。


「……は、これどゆこと?」


 あまりの事に呆然とする俺の肩を誰かが叩いてくる。

 目を向けるとサイがニッコリと気持ち悪い笑みを浮かべていた。


「やったなルークっ!!」


 そう言って抱きつこうとしてくるサイの顔を俺は片手で止める。


「気持ち悪い気持ち悪いっ。ていうか、この歓声はなんだよ?」


 俺は再び周りに目を向ける。

 隊員全員歓喜に震えたような同じ表情をしていた。


「当たり前だろ。魔力も無い奴が教官クラスの人間に勝ったんだからよっ!!」


 あ~、だからか。

 俺はサイを押しやってからその場で腕を組み目を瞑る。

 いや、こんなふうに注目されるのは嫌ではありませんよ。だけどできれば俺は静か〜にマッタリと過ごしたいんだが、果たしてどうしたものか。そんな事を考えていたら……。


「……っ。なんだっ!!」


 近くでバカでかい爆音と閃光が起こる。

 俺は即座に目を瞑り腕で目を庇う。


「ぐはっ」


「キャッ」


「ウアァッ」


 目を瞑っている間に周りから悲鳴が聞こえる。

 チッ……。やっぱりこれは閃光弾か。光の大精霊の光を玉に押し込めた代物で地面に投げ付ける事により、玉に入っている光が外へ出る仕組みになっている。閃光の仕組みは分かったが爆音はなんだっ? 

 光を感じなくなり俺は目を開けると、顔を布で覆った男が俺の元へ剣を掲げて迫ってくる。


「チィッ!!」


 俺は袈裟斬りに振るってきた剣を避けて、男の懐に飛び込み


「グオっ」


 鳩尾にブローを叩き込む。そして痛みで固まった瞬間に真横に回り込み、男の右頬目掛けて左ストレートを打ち込む。すると男は見事に吹き飛び地面に倒れるとピクリとも動かなくなる。


「ルークっ!!」


 声が聞こえた方へ目を向けると剣を片手に敵と対峙しているサイの姿があった。


「サイっ!! 1度合流したほうがいいっ!!」


「了解っ!!」


 そう言って俺とサイはお互い走り出す。向かい合った状態で走ってるので合流するのに10秒も掛からなかった。

 俺達は合流すると互いに背中合わせになる。


「フッ、バカめっ!! これでは周りに囲まれて良い的に自分達からなっただけじゃないかっ!!」


 敵の内の1人が笑いながら言う。


「さて、それはどうかな?」


 サイは微笑を浮かべながら言う。


「あぁ、こっから見せてやるよっ……俺達の本気をなあっ!!」


 俺はそう高々に宣言して拳を構える。この場を切り抜けるために――。

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