第八話:平原にて決闘
東エリアは主に人形達が働く企業が立ち並ぶ、ビル街である。その先は舗装されてない平原が続いている。
その先は岬。突き出た地面からは広大な青空と海が見渡せる。絵梨佳達はタクシーを停め降りる。
「ここが東の岬です……」
陸子が伊瑠香に説明するように語る。
絵梨佳は岬を見つめる。そこには白のカラーガードを着こんだ赤髪の少女が立っていた。
燃えるような赤のショートヘアーと鋭い眼は熱い闘志を抱かせる。腰のホルスターにはデザートイーグルを装着しており、こちらを睨み付けていた。
「あいつね」
恋々が花札を構える。
それを合図に赤髪の少女が近寄る。
「来たな、誘拐犯達よ!」
よく通るハスキーボイスが絵梨佳達の耳に入る。
「舞……」
後ろに控えていた伊瑠香がつぶやく。どうやら彼女の名前みたいだ。
「我が主を連れてきたということは観念したみたいだな!」
拳銃を抜き、構える。
「全く……。どいつもこいつも早とちりが多すぎるわ。私は依頼を受けて伊瑠香の帽子を探してるだけよ」
絵梨佳は伊瑠香を抱き寄せる。
「ふざけるな!貴様らは私の仲間に手をだしたではないか!」
「正当防衛って知ってる?」
「黙れ!さあ伊瑠香様を返せ!返さなければ……」
拳銃を絵梨佳に向ける。
「再起不能にしてやる」
「ねぇ伊瑠香。どうしてあなたの仲間って話を聞かないのかしら?」
「――みんな私の事になると、見境なくなるの」
「そ、そう。愛されてるのね」
絵梨佳は前に出る。
「恋々は伊瑠香を守って」
「絵梨佳さん!」
後方に控えていた陸子が拳銃を放り投げる。絵梨佳は陸子に背を向けたままキャッチし、構える。手にしたのはグロック。
「ねぇ、その銃の弾、模擬弾よね?」
「当たり前だ!そこら辺の空賊団と一緒にするな!」
ズガンと鈍い音と共に弾が発射された。威嚇なのか狙いは足下の地面。
「お前を倒し、伊瑠香様をお救いする!待っててください伊瑠香様、すぐに私がお救いいたします!」
その言葉に絵梨佳も銃を構える。対峙する二人。それはまるで決闘を挑むガンマンかのよう。
「伊瑠香、悪いけどあんたの従者を傷つけるかもしれないけど、構わないかしら?」
敵が目の前というのに後ろを振り向く絵梨佳。
「――あまり痛いのダメ」
「そう、傷つけて欲しくないのね。了解」
そして再び向き合う。
「てなわけで銃は使えなくなくなったわ」
銃をその場に捨てる。
「――ほう、馬鹿にしてるのか?」
舞が怒りのあまり震える。拳銃の狙いは頭に向けられてる。
「どうやら沸点が低いようね従者さん」
その瞬間、絵梨佳が動いていた。銃弾の音と共に。一瞬で距離を詰め、絵梨佳は舞の手を蹴り上げ、銃を手放させる。
「くっ!」
「武装解除完了」
そしてすぐさま、スタンガンを取り出し首筋に突きつけた。
「がっ!」
「安心なさい。最低出力にしてるから気絶はしないわ」
そのまま舞はゆっくりと絵梨佳に抱きつくように倒れる。絵梨佳は舞を抱きとめ、地に寝かせる。伊瑠香達はそれを合図に絵梨佳に駆け寄る。
「くっ、私を…どうするのだ?」
必死に体を動かすが、全身が麻痺してるのか動かない。
「聞きたい事があってね。本当の帽子はどこなの?」
「――舞」
「申し訳ありません伊瑠香様。私達も帽子の行方は……知らないのです……」
「えっ!」
「ちょ、ちょっと!どういうことなの?」
「――誘拐されたと情報を聞きつけた私は、お嬢様の命により帽子を森の見つかりやすい場所に設置しました」
「なぜそんな事を?」
「もちろん……誘拐犯をおびき寄せるためです…。そして来たところを殺してでも、伊瑠香様を取り返すつもりでした」
「殺すって……物騒ね」
「何を言っている……。どうせ貴様らも伊瑠香様を狙う『正義の使者』の一員なのだろ!」
「は、何言ってるの?」
彼女から出た言葉、『正義の使者』は悪の組織を許さない過激な組織で主に空賊を討伐する政府非公認組織。綺麗な世の中を作るために日夜空賊の行動に眼を光らせている。特に政府公認の空賊に納得いかないのか、執拗に追っている。
「貴様の服装、特徴ある服。どうみてもあいつらの一員だ」
どうやら絵梨佳は誤解されてるようだ。
「そんなわけないでしょ。私はこの学園の委員長よ!あんな奴らと一緒にしないで!」
絵梨佳は『正義の使者』が嫌いである。正義のために政府に変わって人形を討伐する姿勢が気にくわないのである。
「私は……奴らからお嬢様達を護るために生まれた護衛人形だ。だが無様にもこうなってしまった。伊瑠香様、お許しください」
「あ、あのね……舞」
「伊瑠香様。何も言わなくていいです。伊瑠香様は優しいから、でもこいつらは私達の敵です。逃げてください……」
「話を聞けこの馬鹿人形!あーもう!いいかげんにしなさいよ!」
「話……?」
「ええ、伊瑠香。こうなったら全部きちんと自分で話しなさい」
ぐいっと伊瑠香を前に出させる。
「伊瑠香様……」
「え、えっとね舞。実は……」
絵梨佳にうながされて、伊瑠香はこれまでの事を初めて自分の仲間に話したのであった。