↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女を作った村  作者: 八雲 海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/12

エピローグ「見送り」

ミラが村を去る朝、ヨーナは、村の外れまで見送りに出た。

 空は晴れていた。荷物をまとめたミラは、旅の身なりに戻っていた。

「もう、行くの」

「ここに、留まる理由は、もうありません」

 ミラの声に、恨みも、安堵も、感じられなかった。ただ、淡々とした事実として、そう言っただけだった。

 ミラは、荷の中から乾いた薬草の束を一つ取り出し、ヨーナに差し出した。

「粉屋の隣の子に。朝と晩、煎じて飲ませてください。三日で熱が引きます」

 ヨーナは、両手でそれを受け取った。

 少しの間迷ってから、口を開いた。

「一つだけ、聞いてもいいですか」

「何です」

「あなたは、本当に魔女なんですか」

 その問いを口にした瞬間、ヨーナは、自分でも驚いた。あれほど村の人々の疑いを退けてきたのに、最後の最後で、自分自身が、同じことを尋ねてしまっている。

 ミラは、少し笑った。

「さあ」

 それだけだった。だが、しばらくして、彼女は続けた。

「私は、自分がそう呼ばれるのを待ったことは、一度もありません」

 ヨーナは、その答えを、しばらく黙って受け止めていた。

 ミラは、背を向け、道の向こうへ歩き出した。振り返ることはなかった。

 その後ろ姿が、木々の間に消えていくのを、ヨーナは、長い間、見送っていた。

 村に戻る道すがら、ヨーナは、六十余年前のことを思った。

 エレナには、名前がつけられた。そして、その名前によって、彼女は死んだ。

 ミラにも、同じ名前が向けられかけた。だが今度は、その名前で、誰も裁かれなかった。

 「魔女」という言葉は、もう、村から消えることはないだろう。祖父の帳面も、エレナの一行も、これからも同じ場所に残り続ける。

 ただ、その先の頁《ページ》には、ヨーナの名が加わっていた。

 ヨーナは、一つのことだけを、確かに知っていた。

 名前があることと、その名前で人を裁くことは、同じではない。

 村の入り口が見えてきた。井戸端では、いつも通り、誰かが何かを話していた。

 ヨーナは、その声に耳を澄ませることはなかった。

 ただ、薬草の束を抱え直し、粉屋の隣の家へ足を向けた。

 途中、診療所の前を通った。

 窓辺に、トーマスが座っていた。

 目が合った。老いた医者は、何も尋ねなかった。ヨーナの抱えた薬草の束に目をやり、それから、小さく頷《うなず》いた。

 ヨーナも、頷き返した。

 足は、止めなかった。

――完――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちは、とうとうエピローグですね、お疲れ様でした。 村を去るミラを見送りしたのはヨーナだけでしたね。 ミラを送ると決めて一人で行ったのは、「村」「長老会」という集団に身を置きながらも、それら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。