第一幕 繰り返し 第1話「よそ者」
その年の夏、熱病が村を襲った。
最初に倒れたのは、粉屋の孫だった。次に、鍛冶屋の下の子。三日のうちに、村の子どもの半数近くが、高熱と発疹に苦しむことになった。
医師トーマスは、既に七十を超えていた。手は震え、目もかすんでいる。往診のたびに、若い頃のようには動けない自分を、苦々しく思い知らされていた。
「先生、もう休んでください」
弟子にそう言われても、トーマスは往診をやめなかった。だが、一人で診られる数には、限りがあった。
そこへ現れたのが、ミラだった。
南の方から流れてきたという、二十代半ばの女だった。旅の荷物の中に、乾いた薬草の束をいくつも持っていた。
「手伝わせてください。薬草には、多少心得があります」
トーマスは、彼女の手つきを見て、すぐに分かった。素人ではない。布の替え方、水の飲ませ方、迷いのない動き――どこかで、きちんと仕込まれた技術だった。
「どこで、これを覚えた」
「いろんなところで」
それ以上は、何も言わなかった。トーマスは、それ以上は尋ねなかった。だが、その答えの短さが、かえって彼の中に小さな引っかかりを残した。
ミラは三日三晩、ほとんど眠らずに看病を続けた。柳の樹皮を煎じ、発疹には別の軟膏を使い分けた。彼女が診た子どもの多くは、峠を越えて回復していった。
村の中に、安堵の声が広がった。
「あの旅の女のおかげで、うちの子が助かった」
だが、全員が助かったわけではなかった。
鍛冶屋の末の子は、ミラが手を尽くしても、四日目の朝に息を引き取った。
鍛冶屋の女房は、泣きながら、こう漏らした。
「うちの子だけ、なぜ」
その言葉は、村の中で、ゆっくりと形を変え始めた。
「隣の家は治って、うちは駄目だった」
「あの女、治す子と、治さない子を、選んでいるんじゃないか」
誰かが、それに応えるように呟いた。
「あの女、詳しすぎやしないか」
その一言を、井戸端の片隅で聞いていた女がいた。
ヨーナ、四十二歳。村の長老会に名を連ねる、実務を取り仕切る立場の女だった。
彼女は、その言葉に、覚えのある寒気を感じた。
自分でもまだ、その理由がはっきりとは分からなかった。
ただ、頭の奥で、何かが小さく音を立てた気がした。
第1話 完




