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閑話 木工職人の困惑

閑話 木工職人の困惑


あの嬢ちゃんは変だった。


最初はそう思った。


今でもそう思っている。


切り株を持っていた。


そして言った。


「まな板」


意味が分からなかった。


切り株だった。


どう見ても切り株だった。


俺はそう言った。


嬢ちゃんは頷いた。


「未来のまな板」


もっと意味が分からなかった。


削るのかと聞いた。


頷いた。


乾燥はと聞いた。


「してる」


してなかった。


どう見てもしてなかった。


だが本人は納得していた。


さらに。


「根っこ切れば使える」


とも言った。


何でだと聞いた。


「平ら」


確かに平らだった。


だがそういう話ではない。


そして俺は聞いた。


「今何使ってる」


返事はすぐだった。


「鍋蓋」


聞き間違いかと思った。


違った。


鍋だった。


普通に鍋の蓋だった。


魚も切るらしい。


鍋蓋は鍋に蓋をするものだ。


俺は天を仰いだ。


その後だった。


嬢ちゃんが言った。


「持っていく」


俺は止めた。


重かったからだ。


切り株は普通に重い。


だから止めた。


嬢ちゃんは切り株を見た。


少し考えた。


そして言った。


「うん、重い」


理解したらしい。


そう思った。


だが違った。


そのまま持った。


抱えた。


普通に歩いた。


何故持てる!?


俺も持った。


重かった。


普通だった。


だが嬢ちゃんは普通ではなかった。


工房まで付いてきた。


そして言った。


「根っこ」


意味は分かった。


意味は分かったが。


他に言い方があると思った。


俺は鋸を持った。


根を切った。


嬢ちゃんはずっと見ていた。


やけに真剣だった。


やがて切り終わる。


すると今度は。


「貸して」


と言った。


指差した先にはカンナがあった。


俺は聞いた。


「使えるのか」


嬢ちゃんは少し考えた。


そして正直に言った。


「知らない」


俺は天を仰いだ。


嬢ちゃんはカンナを持った。


引いた。


どうやら見たことはあるらしい。


木が削れた。


その瞬間だった。


「おおおお!」


嬢ちゃんは感動していた。


もう一回削った。


また感動していた。


さらに削った。


笑っていた。


そして。


「綺麗」


と言った。


俺は切り株を見た。


確かに綺麗だった。


だが。


俺が知っている完成品とは違った。


嬢ちゃんは満足そうに頷いた。


そして言った。


「まな板」


完成したらしい。



帰り際。


嬢ちゃんは切り株を抱えていた。


いや。


本人に言わせれば。


まな板だったのかもしれない。


俺はしばらく見送った。


そして思った。


変な嬢ちゃんだった。


本当に。


変な嬢ちゃんだった。

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