プチラモラの襲撃
しばらくの沈黙の後、相田が話し出した。
「まああれの話はひとまず置いて、楽しい話をしようよ。」
「たとえば?」
「うーん…たとえば…しりとり?」
そうして始まって、次に牧中、藤上、そして相田という順番になった。
「り…りす」
「す…すいか」
「か…かめ」
「め…めだま」
「ま…マロン」
「あ、『ん』言った!」
「藤上の負けー!」
「うそ?あ、あああ、やられた。」
「おまえ何しょっぱなから言っちゃってるんだよ。」
「だって、言っちゃったもんは仕方ないじゃないか。」
「言っちゃったもんって(笑)言っちゃったもんって…言っちゃった、言っちゃう……言っちゃう………」
突然牧中が笑うのをやめて無表情で呟き始めたため、二人は彼女を注視した。彼女は呟き続けていた。
「言っちゃう………言っちゃう…………プチプチ言っちゃうよー、プチプチ言っちゃうよー、」
突然彼女が歌いだしたため、二人は一気に凍りついた。
「牧ちゃん!だめだ!」
「正気に戻れ!」
藤上は彼女を助けようと必死に揺さ振った。彼女の目は麻酔されたかのように焦点が合わなかった。
「牧ちゃん!」
その時彼女は呟くのを止め、普段のように話しかけた。
「ああ…二人とも大丈夫?ごめん、もう、私を置いていった方が…」
「いや、だめだよ。そんな事はできない…」
「そうだよ!今は大丈夫だろ?」
「そう・・だね・・・」
「よかった・・・・ん?」
ふと藤上が黙りだした。
「どうした?藤上。」
「……やばい…牧中のがこっちに移った、やばい!わああ、やめろ!くんな!プチプチ言っちゃう…だめだ!やめろ!」
「それを意識から追い出せ!」
「追い出そうとしてるよ!でもどんどん強くなってきてる、うわっ!」
突然藤上はステップを踏んで激しく踊りだした。踊りながら彼は歯を食い縛って叫んだ。
「早く逃げろ!」
相田と牧中は逃げ出した。藤上は踊りながら耐えるように苦悶の表情をしていたが、やがてその表情は弱まって無表情になり、「プチプチ言っちゃうよー、プチプチ言っちゃうよー、」と連呼しながら二人の方にガニマタ歩きで近づいた。牧中は悲鳴をあげた。さっきまでは優しい青年だった藤上は今や我を忘れてひたすら歌い踊り続けているのだ。
「ゲッモッゲモッ、プーチラモラァ!あなたも一緒に」
「伏せろ!」
相田は叫んだが牧中が伏せる前に藤上が両腕で「プチラモラー!」と洗脳波動を発射した。牧中に命中し、彼女は呼び止められたかのように立ち止まった。そして程なく「ゲッモッゲモッ!」と藤上と一緒に踊り出した。相田はそこから力の限り逃げ出した。大通りに出たその時。
ずんずんずんずん。
規則正しい足音が背後から聞こえて来た。相田は不安に襲われた。振り向くと何十人いや何百人もの人々がいっせいに相田に向かって「プチラモラー、プチラモラー、」と連呼しながらガニマタ歩きで行進して来た。相田は悲鳴をあげて逃げ出した。だが気が付けば目の前にも大群が歌いながら相田を追い詰めた。
「あなたも一緒に」「プチラモラー!」
相田が後ろを振り返ると後ろからも歌いながら彼を追い詰めた。
「世界と繋ごう」「プチラモラー!」
「偉大な神の名唱えよさあ!」「イル・ナンケストラ・ウラ・ウー、イル・ナンケストラ・ウラ・ウー、イル・ナンケストラ・ウラ…」
「イル・ナンケストラ…うわ!」
いつのまにか呟いているのに驚いた相田は必死に逃げ道を探した。逃げ道は彼らの間に建つ塔しかなかった。彼はそこに逃げ込んだ。
塔の階段を上った。歌声が響く。前後左右が無理なら上しかない、とにかく上ろうと彼は歩き続けた。
階段の先には部屋に繋がっていた。だがその扉には見知らぬ、たくましい髭もじゃの中年の男が待ち構えていた。彼はバットを握っていた。そして言った。
「止まれ。」
相田は止まった。なにやら嫌な予感がした。恐れを感じた。
男は言った。
「お前は『反ゲモの会』のリーダー、相田小見郎か?」
相田は気付いた。そうか、街中が洗脳された今、僕は反逆者として処分されるのだ。死を覚悟して相田は言った。
「そうです。」
すると男はにやりと笑ってドアを開けた。おや、どういう事だろう、と相田は疑念を抱いた。
部屋に入ると、一人の女性が「あ、相田くん!生きてたんだ!」と嬉しそうに彼を迎えた。
彼女は琉田龍子であった。




