プチラモラは広がった
相田は「反ゲモの会」の人たちに至急携帯電話でメールを打った。
「ゲモゲモ・プチラモラがついに暴走、人々が我を忘れて踊りまくっている、気を付けよ、桂駅前にて待っている。」
藤上学はたまたま牧中菜穂子とばったり会った時にそのメールを二人で見た。桂駅は歩いて数分だ。急いで彼らは向かった。
琉田龍子はそのメールを見た時、何が起きたかを察した。集団としてそれが発生した今はこちらも一人ではいられない。琉田は急いで電車に向かったが間に合わず、次の電車に乗った。
その彼女の乗り過ごした電車内でメールを見た様田曽根次郎は最初意味が分からず相田とやり取りする内に分かってきた。幸い現在乗っている電車は桂駅に向かっている。様田は怯えながら窓の外の景色を眺めた。
様田の背後からズダダンと携帯の着信のドラムの電子音が聞こえた。なんだよ、マナーモードにしろよと様田が思った時、次に流れてきた旋律に彼は凍えた。
「ゲッモッゲモッ、プーチラモラァ…」
携帯の持ち主は突然踊り出した。様田は焦った。
「あなたも一緒にプチラモラー!」
どんどん持ち主の彼の周りから踊り始める。歌に影響された者は皆その“狂気”に冒され、それに負ける。様田は思わずドアをぼんぼん叩いて「出してくれ!出してくれ!」と叫んだが電車は依然走り続ける。
「プーチラモラ、プーチラモラ」
とうとう様田を除いて皆狭い車内で踊り出していた。体をぐいぐい押しつけられ、そして様田の脳内にも危機が迫っていた。プチラモラへの誘惑は彼を狂気にせずはいられない程強力だったが、彼は必死に抵抗し、堪えた。だが勝手に口が呟き出した。
「…プチプチ言っちゃうよー、プチプチ言っちゃうよー、…」
“冒”された人々は様田を見つめながら無言で踊っていた。そのリズムに合わせて様田は呟かされた。足腰や背中が痙攣し勝手に踊りだそうとしているが、様田は最後の抵抗を目論んだものの、やがて踊りだした。電車は桂駅に向かっていた。
その桂駅で相田は藤上と牧中と再会した。
「無事だったか二人とも。」
「大丈夫。あれ?琉田と様田は?」
「琉田ちゃんは電車に乗り遅れたって。様田は確かこの駅の次の電車で来るはず。」
「そうか。じゃあすぐじゃん。」
牧中がそう言ったが、その通りで、「1番線電車が停まります」のアナウンスが流れ、その後電車は停まった。
「様田くん着いたね。」
そしてドアが開いた。すっかり洗脳された乗客が「プーチラモラ、プーチラモラ、」と連呼しながら行進して接近した。
「ぎゃあ!」
「逃げよう!」
「何やってるの!牧中!」
牧中は横に広がった人々の行進の真前でつっ立っていた。そしてうわごとのように「プーチラモラ、」と呟いていた。それを見た藤上は、
「牧中!」
と叫んで彼女を抱えて相田の方に戻った。彼女も正気に戻ったらしく、「わたし…何をやってたの…」とわなないていた。
「愚図愚図している場合じゃない。早く逃げよう。」
桂駅行きの電車に乗り遅れた琉田は再び次の電車に乗った。だがしばらく後に相田からメールが来た。
「桂駅付近がやられた。早く逃げろ。」
琉田は血相を変えて急いで降り、逆方向に必死に逃げ出した。よく見ると、すでにここにも侵略が始まっている。
「ねえお母さん、ゲーム買いたい。」
「だめよ、だめ、だ……ッモッゲモッ、プーチラモラァ!」
「お母さん?」
「わたしもみんなも繋がるー!」
「お母さんどうしたの!こわいよ!お母さん!」
「ゲッモッゲモッ、プーチラモラァ!」
「お母さん!戻って!おかあああああああああゲッモッゲモッ…」
「え~この方程式を解くわけなんですが、真田くん、どんな式を使えばいいかわかるかな?」
「はい、先生、それはゲッモッゲモッ、」
「真田くん、ふざけ…プチラモラー!」
「おはようございます。」
「おはようござゲッモッゲモッ!」
「プーチラモラ!」
琉田はそれら一つ一つを見て悲鳴をあげながら、なるべくゲモゲモ・プチラモラの事を考えないようにして逃げ続けていた。




