第42話 さらば!メリケンサック!
『ジーザス──万事休すだなッ!』
走るスピードを維持しながら、背後で儚く血った愛猫たちへ、スティーブンは指を十字に動かした。
『しゃべってる、はぁはぁ! 余裕がよくっ、はぁはぁ! ありますねっ?!』
ぜえぜえと息切れの中で絞り出す怒声と全力疾走で不足する体中の酸素。
悲鳴を上げる足をがむしゃらに動かし、アーサーは地を蹴り続けた。
『ジョーズを行かせたのは失敗だったか。神はどうやら我々を見放したようだ』
『はい──?! って、え──っ?』
突然スティーブンに彼は腕を摑まれる。
『ちょっと! 何してんですか!?』
『我々と、そう言ったのだよ博士。いいか、私の合図で奴の股下前方へ、全力で飛び込め──今っ!』
両者が宙を舞ったのは、ほぼ同時だった。
それぞれ双方は下に行くものと、上へ行くもので分けられた。
ド゛ガ゛ン゛ッ──!!
『だから必死に────生存だ』
金属同士のぶつかり合い音が響き渡る。
同時に本体のオルカはバウンドした状態で勢いを殺し切れず、後方T字路手前まで吹き飛び煙が漂った。
ドンドンドンドン──ッ!
そこへ容赦なく叩き込まれる銃声音が、連続して響いた。
カランカランカランカラン──ッと、空の薬莢が排出され床を跳ね転がる。
『────間一髪ってところかしら……?』
SG銃身を左手で握り、銃床部分を首元に当て近寄って来た密閉型マスクを被る1人の少女。
右手の指の関節には、メリケンサックがはめられ、ビビ割れたとアーサーが思うのも束の間。
次の瞬間には跡形もなく木っ端微塵となった。
『き……肝がっ。冷え、冷えましたよ……』
『助かったジョーズ』
褐色小女は、指先でくるくると毛先を巻いて、のんびりと歩いて来る。
『やーなっちゃう、ほーんっと。もっとスムーズに装填したいわっ。浮上後の弾操作ってさ。指先が不安定で、グリップ力ガタ落ちなのよねぇーっ。ほらっ、あたいって手が……小さいでしょ?』
サメっ娘は、身振り手振りを交えてのオーバーリアクションして見せた。
サックの替えは効くのか、特段気にせず自身にとって、目下の課題に話を変えて場を和ませる。
『そう言うと思い、持って来ていた──受け取れっ』
『ほっ! ……これは……グローブ?』
投げられた物を靭やかな太しっぽで危なげなく摑む。
『付けてみろ』
言われるがまま、彼女は両手にハーフフィンガータクティカルグローブを装着した。
『うーん、この感じ……悪くない。部屋出る前に渡してくれても良かったんじゃない、ボス?』
『実戦でビフォーアフターを体験できる、良い機会と思ったまでだ』
『……最っ高に。狂してるわボス。あたいのこと、よく理解ってる。ジャストフィット──いいえ、シンデレラフィットかしら?』
ジョーズ唇の端からは、喜びが溢れ出ていた。
『────オルカァー、オルカァー。どこオルカァー?』
こちらに接近する人物がいた──トーマスだ。
地を這う装甲小女は身体を震わせる。
トーマスの声に対してか。はたまた駄洒落に反応を示したのか。
ガシャン、ダンダンダンダン──ッ!
オルカは引力で手繰り寄せられるように、トーマスの元へと駆け出した。
『ま、待ちなさいっ! ボスたちはここに居て』
それだけ言い残し、小麦肌のサメっ娘は急ぎ彼女の後を追った。




