第33話 責任の行方
翌朝、灰の谷は騒がしかった。
怒号が飛ぶわけではない。
だが、空気が張りつめている。
俺が治療所を出ると、二つの集団が視界に入った。
一方は王国の使者。
もう一方は、魔族の代表。
――同時、か。
(示し合わせたわけじゃないな)
だが、結果として象徴的だった。
「治療師レン」
王国側の男が、硬い声で言う。
「正式な要請だ。
王都は、現状を問題視している」
隣で、魔族の代表が静かに頷く。
「こちらも同様だ」
逃げ場はない。
「話は、順番に聞く」
俺は、短く告げた。
だが、彼らは首を振る。
「同時でいい」
「むしろ、その方が分かりやすい」
王国側が、口を開く。
「緩衝地帯に人が集まりすぎている」
「兵が、戻っていない」
「結果として、戦線が歪んでいる」
魔族側が、続ける。
「戦えなくなった個体が増えている」
「処理できない者が、滞留している」
言葉は違えど、意味は同じだ。
――あなたのせいだ。
俺は、深く息を吸った。
「否定はしない」
即答に、二人とも言葉を失う。
「俺が、この場所を作った」
「治療をした」
「戻らない選択肢を、示した」
一つずつ、確認するように言う。
「だから、結果も引き受ける」
王国の使者が、眉をひそめる。
「ならば――」
「だが」
俺は、遮った。
「俺は、国家の指示には従わない」
空気が、冷える。
「魔族の命令にも、従わない」
魔族の代表が、目を細める。
「では、誰の責任だ」
核心だった。
俺は、視線を逸らさない。
「俺の責任だ」
静かな声。
「だから、俺が決める」
王国の使者が、低く言う。
「……独断だな」
「そうだ」
否定しない。
「だが、この場所は、
最初から独断で成り立っている」
沈黙。
焚き火の向こうで、人々がこちらを見ている。
期待と、不安と、責め。
すべてが、刺さる。
魔族の代表が、ゆっくりと言った。
「条件を、示せ」
それは、交渉の言葉だった。
「この場所を、どうする」
俺は、少し考えた。
――正しさでは足りない。
続けられる形が、必要だ。
「今は、答えない」
正直な答えだった。
「だが」
一拍置く。
「放置はしない」
王国側が、短く頷く。
「猶予は、長く取れない」
「分かってる」
魔族の代表も、踵を返す。
「次に会う時は、
答えを持って来い」
二つの背中が、別々の方向へ去っていく。
残されたのは、俺と――人々。
リリアが、そっと隣に来た。
「……重いですね」
「ああ」
正直すぎるほどの言葉。
俺は、焚き火を見る。
火は、燃え続けている。
だが、燃料は有限だ。
(……選ぶしかない)
誰かが決めなければ、
ここは壊れる。
そして、その「誰か」は――
俺しかいない。
責任の行方は、
もう、明確だった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




