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秘密会議パート2

 夕食後のひと時。

 また幻影魔法を施し、6人は談話室に集まる。


 擬態シノビが撮影した映像に、看過できないものがあったのだ。

 録画データをメンバーにも共有して、見てもらった。


「テンプレすぎてどこから突っ込んでいいか分からないわね」

 祥子が放った第一声に、うなずくしかない仲間たち。


 この部屋に監視カメラ的な魔道具が設置されていた。

 プリシラ(アンジェラ)は前回の召喚(30年前?)からあの姿らしい。

 若さを保つために行われる秘術とは?

 戦士として役に立たなければ何をされるか分からない。

 魂を縛る契約書なるものの存在。


 契約書の映像をずっと眺めていた光希が口を開く。

「この契約書、こっちの言語で書かれている文言は真っ当なんだけど、縁取り部分に散りばめられた妖精文字のはやばいね」


【勇者は召喚主の命令に逆らってはならない。もし逆らえば全身に激痛が走るであろう。

 勇者は脱走してはならない。もし脱走すれば足がしびれ歩けなくなるであろう。

 勇者は召喚主に攻撃してはならない。もし攻撃の意思を持てば呼吸ができなくなるであろう】


「――ということが書いてある。契約書にサインすると、これらにも同意したとみなされるみたい」

 あまりの内容に動揺が走る。


「どうする? 今のうちに逃げちゃう?」と、祥子。

「こんなえげつない契約書を用意する王国なんて、悪者に決まってるよ。まずは脱出して安全の確保だね」と智也。


 魅了や洗脳ならば、状態異常完全無効のアミュレットが防いでくれるだろう。

 しかし、「魂を縛る契約書」の効力については未知数だ。


(私たちの最終目標は元の世界に戻ること。そのためには召喚術の知識が必要だわ。今のところ召喚術を使えると分かっているのは、この王国だけ。お城を脱出して、追手から逃げながら衣食住も確保して、それができるかしら)

 朝香は考えながらモニターに表示されている契約書を眺める。

 朝香の目には縁取り部分はただの装飾的なものにしか映らない。

 こちらの言語で書かれた文言に対してだけ日本語の訳が付されている。


1.ファズマ王国は召喚した勇者が満足しうる衣食住を提供する。

2.ファズマ王国は勇者が強くなるための助力を惜しまない。

3.ファズマ王国は勇者が引退した後もその生活を保障する。

4.勇者は邪妖族を撃退し、魔王を討伐するために尽力する。


 朝香はふと思った。

(私たちが書く文字って、こちらの人たちにはどんな風に見えるのかしら)

 お互いに自国語で話していても、会話は成り立っていた。それは召喚者に「同時通訳」のスキルが付与されているからだ。

 召喚主の言葉の後に日本語に変換された音声が聞こえ、朝香たちが発した言葉の後に現地の言葉に変換されたものが流れていた。


 では自分たちが書いた日本語は、こちらの言葉に変換された文字が添えられるのではないだろうか。


 朝香は自分の思い付きを説明した上で、仲間たちに提案した。

「契約書の署名を、読みが同じになる別の漢字で書いたらどうかしら」

 メンバーから「おお!」という感嘆の声が上がる。


「日本語がどのように見えるか、怪しまれないように確認がとれたらいいのだが」


 メンバーが考え込む中、祥子が「あ!」と声をあげる。

「実は私、皆の普段着を作ってもらうために、デザイン画を描くつもりだったの。それに私たちのネームを誤字ったほうで入れたらどうかしら。ユニフォームだと思えば平気でしょ?」


「あ、いいね! 普段から偽名の文字を目にしていたら、僕たち自身がうっかり本当の名前を書いてしまう事故を防げそう」

「賢者キャラがそういうこと言わない」

 祥子がすかさず裏拳ツッコミを入れた。


 まずはそれぞれの氏名を、どう変えるか考えてみた。


 佐野朝香 → 左野浅香

 滝沢智也 → 多木沢友也

 長澤祥子 → 永澤幸子

 阿部凛太郎 → 阿倍凛太朗

 市川舞 → 一川麻衣

 石田光希 → 石多充希


 ファズマ王国の人間からすれば、どちらも同じ読みになるから区別はつかないはず。

 一方で朝香たちにとっては、文字が違うことから、本人を表していないことになる。契約書に記した同音異字名には、本人を拘束する力はないはずだ。


 祥子はデザイン帳に長袖のポロシャツを描き、左胸に小さく、背中の上部に大きく同音異字の氏名を書いた。

「じゃあメイドさん呼ぶから、幻影魔法解除してね」

 光希はオッケーと返し、術を解く。


 魔道具の鈴を振ると、軽やかな音が響く。

 ほどなくしてメイドが一人現れた。


「私たちの服を仕立ててもらえるって聞いて、デザイン画を描いてみたの。シャツのえりとズボンの色を各自のイメージカラーにして、名前も入れてみたわ。周りの人たちに覚えてもらいやすいようにね。どうかしら、これ私の世界の文字だけど、読めるかしら」

 と、祥子は自分の名前を入れたデザイン画を示す。


 メイドはじっとデザイン画を見つめ、うなずいた。

「『ナガサワ サチコ』と読めます」

 祥子は両手を合わせ、にっこりと笑う。

「良かったあ。こちらの世界の文字を一から習わないといけないかと心配していたの」

 朝香たちも安心したように微笑んだりうなずいたりしている。


 それから祥子は使用する布地の希望を述べたてる。

 伸縮性があるほうがいい。薄っぺらい生地では駄目。UVカット機能も欲しい。イメージカラーは正確に再現したいから、色見本があれば見せてほしい。急ぎじゃないから丁寧に仕上げてほしい。等々。

 デザイン画を見せるフリして日本語の文字がどのように見えるか確認する作戦は、本気のデザイン発注に変わっていた。

読んでくださって、ありがとうございます。

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