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第5話

「ボクの新しい家を建てられるかもって──本当なのかい!?」


「正しくはアパートを、だが。もし気に入ってくれて住民になってくれるなら、家賃ってものを払って欲しいけどな。あー家賃っていうのはな、家に住むための対価と言えばまだ伝わるか?」


「もちろんお金はしっかり払わせて欲しいよ! 命を救ってもらって新しい家まで建ててもらえるんだもの!」


「俺、そんな大したことはしてないんだけどな」 


 思ってもいなかっただろう俺の提案に対し、サーニャは乗り気のようだ。ここで変な疑念を抱かれたりしても説明が大変なので、彼女が純粋で助かった。


 苦笑しながら俺は目の前に映るウィンドウに目をうつす。なるほどウィンドウの指示に従ってボタンを押せば、一瞬でアパートの出来上がりってことか。


 元の土地あった物体。ここでいうサーニャ家の残骸を押しつぶして建造するため、ガレキの撤去なんかも不要みたいだ。


「でもさエニシ君 アパートのことは分からないけど、シロウトのボクだって家を建てる大変さは分かるよ! 見たところキミは道具も持ってないみたいだし、大工さん何人分の力を持っているようにも見えない!」


「サーニャ。さっき俺は『遠い場所から来た』と自己紹介をしたが、あれは嘘だ。本当はこことは違う異世界から来たんだ。そしてこの地上に降りる前に女神にレベル999にされ、不思議な力を与えられたんだ。その力が、これだ!」


『人々の安息所<<アパート>>を作りますか?』


『YES<<創造>>orNO<<いいえ>>』


 俺はウィンドウに表示された『YES』の文字を押した。


 そこから先は一瞬だった。夜闇を照らす圧倒的な光が周囲を包んだかと思い、目をつぶる。次に目を開けた時には、


「すごいよエニシ君! 本当にお家が立っているよ!」


「できるか不安だったが、恥をかかずに済んだみたいだな」


 目の前に日本的なアパートが立っているのが見えた。


 木造二階建て、部屋数は六。部屋それぞれに洗濯機が外置きされていて日当たりは良好。うん、上京したばっかりの学生が住むような典型的な安アパートって感じだ。


『おめでとうございます。完成したアパートの詳細を見ますか?』


『YESorNO』


 俺は迷わず『YES』を選択。


「えーっとなになに、広さは四畳半。ワンルームのフローリングで、調理スペース有りコンロは一口。ふむふむ、エアコン冷蔵庫備え付け、収納有りで郵便受けは……あードアに備え付けって感じか。肝心の風呂トイレは……ぎゃー同じって事はユニットバスじゃねえか! あ、でも水と電気は際限なく使えるのは良いな」


「エニシ君が謎の呪文を唱え始めた……」


「よし。一通り理解できたから、とりあえず中を見てみるとしよう。サーニャに設備の使い方を教えてやる」


「う、うん」


 アパートという未知の存在を前に、頭の上で緊張気味のサーニャに告げ、俺は一階の角部屋である一〇一号室へと入室する。


「すっっっっごーい! なんなんだいこの部屋、見たことがないもので一杯だよー!」


 中に入るとさっきまでの緊張が嘘だったかのように、サーニャがぶんぶんと部屋の中を飛び回る。


「アパートって言うのは一軒家と違って、一つの建物に複数の人間で住むことが出来る建物なんだ。他の部屋も同じような間取りなんだが、一軒家に住んでたサーニャからすると狭く感じるか?」


「まさか! 前の家は普通の人向きの広さだったから、むしろこっちの方がボクにとってはちょうどいい広さだよぉ!」


 どうやら気に入ってもらえたらしい。部屋のスイッチを押したり、冷蔵庫を開けている様子を見た限り、彼女一人で過ごすことになったとしても問題なく暮らせそうだ。


「エニシ君エニシ君! 本当にこんな素敵なお部屋にボクも住んで良いのかい!?」


「さっきもいっただろ? 何をそんなに気にしてるんだ?」


「だってボクまだ恩返し一つ出来てないのに……」


「そんなことはない。それに家賃だって今後払ってくれるんだから、むしろ俺にとってはプラスだ」


 納得しない様子のサーニャに向け、俺ははっきりと告げる。

 

「とにかく今日はお互い大変だったし、休もう。何か困ったことがあれば、教えた通りインターホンを押してくれ。部屋はそうだな……この上の部屋、二〇一号室を使ってくれ」


「分かったよ。でもボクこの恩は近い内に絶対に返すからね!」


 そう言い残し、郵便受けから器用に部屋を出ていくサーニャ。よし、部屋の備品を確認してからさっそくシャワーを浴びるか。


「なんか……疲れたな。風呂でも入るか」


 こういう時に身体を洗うのは実に面倒だ。


 バスタブの中で暖かなシャワーを浴びつつも、それだけでは精神的な疲れはとれない。


「身体洗うのも面倒だな……。誰か代りに身体洗ってくれたりしないかなー。なんちゃって」


「その程度のおねがいなら、お安い御用さエニシ君!」


「良かった。じゃあ頼もうか──ってこの声はサーニャ!?」


 声のしたすぐ横に目を向けると、至近距離にさっき別れたはずのサーニャの姿があった。それも普通の人間と同じ身長で。その上、


「おま、おまおまおまおま……裸じゃねえか!」


「そりゃあお風呂だから、服を脱ぐに決まってるだろう?」


「いやそうだけど……つうかでっか! なんでそんなでっかくなってるんだよ! さっきまでこーんなちっちゃかったはずだろうが!」


 アパートで出して良い声量じゃなかったが思わず突っ込んでしまった。他に住民がいない状態で良かった。


「ふっふーん。妖精族の女はね、自分の身体のサイズをある程度自由に変える事が出来るのさ。ちょっと気合を入れないといけないから、あんまり連続では変えていられないけどね。──ってあれ、なにを怒ってるのかなエニシ君。代わりに身体を洗ってほしいんだろう? なら……」


「でてけー!」


 俺はレベル999の力で出せる最高速のスピードでサーニャをバスルームから追い出し、身体を拭いてやり、(針の穴を通す繊細な動きでバスタオルとサーニャの素肌の間に僅かな空間を作ってるので、水滴だけを綺麗に拭き取り彼女の身体には一切触れていない)俺も身体を拭いて寝巻に着替えた。

俺も身体を拭いて寝巻に着替えた。

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