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ゾンビになったと追放された俺は人類を救えるかもしれないけど人類は救いようがない  作者: しゃぼてん
6章 終焉前夜の無法地帯

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63 HELL

 寧音が立ち去った後、俺は結生を探した。

 結生はボウリング場にはいなかった。

 俺は中林先生にお願いした。


「先生、今度こそ、俺の友達を探してください。年齢は15才くらい、身長150センチくらいで、白い杖を持っていて、優しい雰囲気で、服の色は白系です。さっきいた怖い女と実は姉妹だけど、ちっとも似ていません」


「うーむ。その建物の地下には少女が沢山いる。が、わからん。その年頃の少女は見分けがつかん」


 中林先生はすでにアイドルグループのメンバーが全員同じに見えるお年頃のようだ。でも、俺はそもそも顔の説明はしていない。体のサイズの違いくらいはわかりそうなものだけど。

 ともかく、少女が沢山いると言うのは、気になる情報だ。


「地下に少女がたくさん?」


「ああ。少なくとも一部の少女は監禁されていたようだ」


 そこに結生が連れこまれたのだろうか?

 いや、そうだとしたら、寧音はそっちに向かうはずだ。


「先生、さっきの怖い女はどこに行きましたか?」


「正面出口から出ていった」


 ということは、たぶん結生はここにはいない。

 でも、実は寧音も結生の居場所を知らなかったという可能性が僅かに残っている。

 念のため、確認するべきか……。


「地下にチンピラはいますか?」


「地下にいるのは全員ゾンビだ。少女達ふくめて」


 地下は俺にとって危険はなさそうだ。結生がいるかどうか、すぐに確認できるだろう。

 結生が地下でゾンビになっている、なんてことは確認したくないけど。ここにいないということを確認しないと。


「先生、町の中の監視カメラで俺の友達を探してください。俺は地下を探してきます」


「承知した」


 俺はマルパンマンのお面をはずし、停止しているエスカレーターの上から地下を見渡した。エスカレーターのふもとにテーブルや色んな物でバリケードが作られている。

 俺は視線を移動し、この階のエレベーターを確認した。エレベーターは扉に障害物が挟まってドアが開いたままになっていた。たぶん、誰かがエレベーターを停めるために障害物を挟んだのだろう。

 俺はエレベーターの障害物を取り除いてから、エレベーターには乗らずエスカレーターを歩いて降りた。

 バリケード手前でエスカレーターの手すりにあがり、俺は下のフロアに滑り落ちるように降りた。


 血の臭いと蠅の羽音がひどい。

 すぐ足元に、死人の手足があった。

 俺は気にせず、ゆっくりと辺りを見渡した。

 どうせ、死体は無害だ。気味は悪いけど。俺はだんだんと死体に慣れてきてしまった。


 この周辺にいるゾンビの数は意外と少ない。ゾンビは俺に反応しないから、見えないところにいるのかもしれないけど。

 すぐ近くにビリヤードルームがあった。

 俺はビリヤードルームに向かった。

 

 ビリヤード台の上にはビリヤードキューを持った清楚な黒髪少女が全裸で足を組んでぼーっと座っていた。

 もちろん、ゾンビだ。

 ゾンビ少女は絵画のモデルでもしているかのような堂々とした態度で座っている。

 黒髪ゾンビ少女の足元には、首の後ろに骸骨リンゴのタトゥーが入った、いかつい大男ゾンビがいた。

 大男は犯罪者集団のボスっぽい風格だ。

 だけど、今は四つん這いになって下僕のように少女の足の裏をなめながら、つきだした尻を少女ゾンビにキューで叩かれている。


(どういう状況だ? これ?)


 ゾンビになって、少女と大男の力関係が逆転したのか? いや、ゾンビは大抵感染前の習慣を継続するから、元からこんな感じだったのか。


 よく見ると、ビリヤードルームには、他にも数人ゾンビ男がいた。

 ビリヤード台の下に寝っ転がって口にビリヤードのボールをいれたり、鼻にキューを突っ込んでごろごろしたりしている。

 ビリヤードルームに他に少女はいそうになかった。

 俺はスマホを手に取り、中林先生と話すために神取さんに通話をかけた。


 「先生、文亮君です」という神取さんの声が聞こえた。俺はそのまま中林先生にたずねた。


「先生。俺は今、ビリヤードコーナーにいるんですけど。少女は一人しかいません。先生が言ってた少女達はどこにいますか?」


「カラオケルームだ。そういえば、過去の映像をざっと確認したが、ウイルスは数日前に連れてこられた少女が持ち込んだようだ。これは一種の自爆攻撃だな。自ら感染した少女もいるようだ」


 中林先生は過去の映像からわかったことをざっと説明してくれた。


「少女達から感染が誘拐犯達に拡大。感染者を殺すかどうかで殺し合いが起こり、一部の者はそこを出ていった。元々、積極的に犯罪行為に走る者とそうでない者たちで内部分裂が起きていたようだ。元はただの行き場のない少年少女のたまり場だったからな。最低限の良心くらいは持ち合わせている奴らもいたようだ。ゾンビを守り残った者達は地下にバリケードを築いたが、最終的には残った者達も避難するかゾンビになった。そして、パラダイスワンに非感染者は誰もいなくなった。すべてたった2日で起きた話だ」


 それを聞いて俺は疑問に思った。


「それじゃ、ここはゾンビ以外に誰もいない状態だったんですか? さっきボウリングコーナーにいた奴らは?」


「あのモヒカンやパンチパーマは、感染爆発が起きた時には、ここにはいなかったはずだ。だが、金髪男はここでゾンビの殺戮を主導していた。一度出た後、わざわざ戻ってきたようだ」


 何かがひっかかるけど。

 俺は監禁された少女達を探しに、カラオケコーナーへと移動した。

 カラオケの個室には外付けの鍵がかけられている部屋がいくつかあった。

 俺は鍵のかかっている部屋はとりあえず放置して、鍵のかかっていない部屋をあけていった。

 いくつかの部屋のソファにはチンピラゾンビが寝そべっていた。

 その後で開いた部屋では、派手めの服装の少女ゾンビが数人、寝転がったりマイクを咥えたりしていた。

 けっこうエンジョイしている雰囲気のゾンビ少女を見ながら、俺は思った。

 すべての少女が監禁されていたわけではないのかもしれない。たぶん、元からチンピラ達と知り合いだったり、他に行く場所がなくてここにいた少女もいるのだろう。


 さらに先に進んでしばらく行くと、鍵のかかっていないパーティールームがあった。テーブルの上に覆いかぶさるようにチンピラゾンビが倒れていて、流れ出た血でテーブルが染め上げられていた。俺はそのチンピラゾンビのポケットから小さな鍵が何本もついたキーホルダーがのぞいていることに気が付いた。

 俺は近づき、チンピラゾンビのポケットから鍵をそっと取り出した。チンピラゾンビは「うー」と言っただけで、動こうとはしなかった。

 俺は鍵のかかっていた個室へ戻り、試しに鍵を開けようとしてみた。鍵の大きさはあっている。2本目でカギは開いた。


 鍵がかかった部屋の中には、ゾンビ少女達がいた。

 拘束はされていることも、されていないこともあった。服はちゃんと着ていることも、一部しか着ていないこともあった。

 ソファに寝ているゾンビ少女もいれば、抱き合っている少女ゾンビ達もいる。

 中学生くらいから20代くらいまで、色んな人がいた。

 ゾンビになる前は、みんな綺麗で、可愛かったんだろう。

 今は……。ゾンビは皮膚が気色悪い色になっているうえに、目の焦点があってなくて、口が開いたまま涎ダラダラ、舌まで出てたりするから、俺はちょっと魅力を感じがたい。


 俺はカラオケコーナーのすべての部屋を確認した。

 結生はいなかった。

 俺はほっとしながら中林先生に報告した。


「ここに俺の友達はいません。先生、外はどうですか?」


「見つからん。今、監視カメラに映る範囲にはいない。過去の映像を探す」


「お願いします」


 先生に調べてもらっている間、俺は少女達を上の階に移動することにした。

 ここに放置するのは、なんとなく可哀そうだから。

 俺はカラオケコーナーを出て、エレベーターの方へ歩いて行った。


 エレベーター前のスペースには、スプレー缶を持った緑色のツンツンヘアのゾンビが虚ろな目で床に寝そべっていた。

 紫色の髪のギャルっぽい少女ゾンビが満足げな顔でその緑髪ゾンビに抱きついて寝ていた。

 エレベーター前の壁にはスプレーで、「HELL」と「END of PARADISE」と描かれている。傍にはいくつかスプレー缶が落ちている。この建物内のスプレーアートの文字はこの緑髪ゾンビが描いていたようだ。

 死体が転がり、死臭と蠅で満ちたこの地下はたしかに地獄だ。

 だけどこうなる前に、すでにパラダイスが終わって地獄になっていたのかもしれないけど。

 少なくとも、誘拐されてきた少女達にとっては地獄だったのだから。


 パンクロッカーみたいな服装の緑髪のゾンビはヤンキーのくせに純粋そうな、あどけない顔をしている。だけど、絶望して気力をなくしているような表情だ。緑髪ゾンビの虚ろな目を見ながら、俺は思った。

 ひょっとしたら、このゾンビはずっと何も知らずにここをパラダイスだと思っていたのかも。監禁された少女達が受けてきた仕打ちを知って絶望して、ここにある文字を描いたのかも。それとも、仲間の殺し合いに絶望したのだろうか。自分が感染したことを知って絶望したのだろうか。

 今となっては何もわからない。今ここにあるのは、俺の虚しい空想だけだ。

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