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ゾンビになったと追放された俺は人類を救えるかもしれないけど人類は救いようがない  作者: しゃぼてん
6章 終焉前夜の無法地帯

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64 殺意の伝播

 俺は地下のゾンビ少女達をエレベーターに詰めこみ、2階につれて行った。

 外に開放しても、自衛兵団に殺される可能性がある。だったら、この建物内にいた方がまだ安全だから、建物内で移動することにしたのだ。

 階段やエスカレーターは、防火シャッターで塞いだ。

 ほとんどのゾンビはドアを開けるなんて面倒くさいことをしないから、これで隔離できるだろう。


 2階にはフードコートがあったから、しばらくは食べ物の心配もない。

 俺が水やジュースや食べ物をテーブルの上に出しておいた。

 ちなみに、フードコートには初めから居座って食べ続けている、お相撲さん並みのメタボゾンビが1人いたんだけど、そいつはゴルフコーナーに移動しておいた。あのまま食べ続けたらメタボ爆発しそうだったし。


 俺には誘拐された少女と好きでここにいた少女の区別はつかないから、少女は全員上の階に連れて行くことにした。「不純異性交遊は認めません」と言いながら、俺はビリヤードルームにいた少女にも近くに落ちていた誰かのジャケットを着せて上に連れて行った。少女も下僕の大男も別に抵抗はしなかった。

 緑髪ゾンビに抱き着いていた紫髪のギャルゾンビだけは、移動させようとしたら俺を威嚇してきた。獲物を横取りされかけた肉食動物みたいに。緑髪ゾンビを取られたくないらしい。

 仕方がないので、俺は二人まとめて屋上につれて行った。

 エレベーターで移動している間も、緑髪ゾンビはゾンビのくせに「もう死にたい」って言いそうな鬱々とした顔だった。


 少女達の移動と食糧運びを終えた後、俺は1階に戻って、パラダイスワンの外に出ることにした。

 外に向かおうと廊下を歩いていると、俺はふと殺意を感じた。

 ……変だ。

 殺意って、ふと感じるようなものじゃない。

 しかも、今の俺には殺してやりたい相手がいない。

 意味が不明だ。 

 なのに、俺の頭の中には声が響いている。


(……殺してやる。……殺してやる)


 俺は気配を感じて、ボウリングコーナーの入り口の方へ振り返った。

 そこには、寧音に首を刀で突かれて死んだはずの蛇タトゥー金髪男がいた。

 蛇タトゥー男の喉には、しっかりと穴があいていて血が流れ続けていた。

 普通なら死んでいる状態だ。

 蛇タトゥー男は、だらりとさがった手に拳銃を掴み、ゆらゆらと揺れる銃口を俺に向けようとしていた。

 俺はあわてて逃げようとしながら、頭の中で考えた。

 

(この状態で生きている……ってことは、こいつ、感染者だったのか?)

 

 だから、こいつは非感染者を連れてこの建物に戻ってきたのかもしれない。他の人達を感染させるために。


 俺が銃口から逃げるために走り出しかけたその時、蛇タトゥー男が、バタリと前のめりに倒れ込んだ。

 蛇タトゥー男の足の下には、お掃除をがんばるお掃除ロボットのルンルンがいた。

 立つのもふらふらだった蛇タトゥー男は、足にまとわりつくようにお掃除をしていたルンルンに躓いて転んだらしい。


 俺は即座に方向転換、今度は蛇タトゥー男にむかってダッシュした。そして、蛇タトゥー男が転んだ拍子に落とした拳銃にとびつき、拳銃を取り上げた。 

 喉から血をどぼどぼと落としながら、蛇タトゥー男は唸り声をあげ、拳銃を取り返そうと手を伸ばした。だけど、その手は俺の白衣に少し触れただけで空を切った。俺はバックステップで距離をとった。


 喉笛を切られているので、蛇タトゥー男は声を出せない。だけど、殺意が俺の頭の中に直接叩き込まれるように響いていた。


(殺してやる! 殺してやる!)


 憎悪に満ちた目を見ればわかる。俺の頭の中で響くこの殺意は、この蛇タトゥー男のものだ。

 地下と階上からもゾンビ達の唸り声が響いてきた。殺意に満ちた唸り声が。

 そして、なぜか呼応するように、拳銃をもつ俺の手が無意識のうちに動きだした。

 俺のものではない殺意が、俺の手を動かしていた。

 床を這いつくばる蛇タトゥー男の金髪頭に俺の持つ銃の銃口が向いていく。


(殺してやる! 殺してやる!)


 俺の全身が激しい殺意に支配されていた。

 俺の意思と無関係に、俺の指が引き金を引こうとしていた。

 その時。


「文亮。お前の友達を見つけたぞ」


 突然、通話中状態のままだったスマホから中林先生の声が聞こえ、俺は我に返った。


(結生が見つかった!?)


 結生のことを思い出したとたんに俺の中の殺意が消えた。

 でも、地下と階上から響いているゾンビの唸り声はまだ静まっていない。

 俺は混乱しながら、這い寄ろうとする蛇タトゥーゾンビからさらに数歩距離を取り、中林先生に言った。


「先生、変なんです。なぜか、このゾンビの殺意が俺の頭の中に響いてきて、他のゾンビも……」


 中林先生は特に驚きもせずあっさりと、むしろ嬉しそうに言った。


「ゾンビの感応現象か? 観察できてよかった。後で録画をチェックしよう」


「カンノー現象?」


 俺が聞き返すと、中林先生は感心したように言った。


「ゾンビは普通の人間よりも共感力が高いらしいのだ。さすが、ゾンビだな」


「共感力? どういうことですか?」


 俺は今、共感力で人を殺そうとしていたってことか? 

 なんだかよくわからない。

 中林先生は少し詳しく説明してくれた。


「少し前に、ゾンビの間では強い意志や感情が個体を超えて伝播する、と主張する研究があった。ゾンビ達はテレパシーのようなもので繋がっているというのだ。ゾンビは人類が集合精神へ進化する一歩手前の存在なのかもしれない」


「テレパシー? テレパシーなんて存在するんですか?」


 中林先生は淡々と答えた。


「さぁな。ゾンビのテレパシー説を唱えた研究者たちは、そんなことはありえない、と主張する研究者たちと論争になっていた。どちらの説の支持者も全員ゾンビになったせいで、その研究も論争も進まず終わってしまった。だから、わからん。だが、ゾンビの感応現象自体はあちこちで確認されているようだ」


 テレパシーなんてありえない……と言いたいところだけど。俺はたしかに、2度、それに近いことを経験していた。

 今回と、最初に避難ゲートにいたゾンビ兵士を見た時。

 2回とも、俺のものではない感情が流れこんできた。

 それに、いつか俺がラグビー部員ゾンビ達と一緒に台車を押した時も。なぜか周囲のゾンビ達が俺と一緒にワンチームになって台車を押していた……。


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