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56 ゲート前

 俺が避難ゲートに到着した時、ゲートの前には自動小銃を持った国防軍ゾンビが1人だけ立っていた。左腕と太ももから血を流しているけど、ゾンビだから痛そうな様子もない。

 ゾンビは「ウアー! ウアー!」と興奮した様子でしきりに銃を撃っていた。

 といっても、実際には撃てていない。すでに銃弾が尽きている。


 ゲートに続く広い道路の少し離れた場所には、制服姿の男子高校生が倒れていた。

 うちの学校の制服で、自衛兵団の赤い腕章をつけていた。

 一目で死んでいるとわかる。無数の銃弾で全身を撃ち抜かれていた。

 

 他には誰もいない。

 結生はいない。


 結生との通話は、ここに来る途中で切れてしまった。

 結生の行方は見当がつかない。

 辺りにはゾンビ兵士の叫び声だけが響いている。


 俺はゲートの様子を観察した。

 ゾンビ兵士のすぐ後ろに通行人用の出入り口がある。そのドアの下が赤い。

 ゾンビ兵士は空撃ちを続けていたけど、俺は無視して近づいていった。


「ウー!」


 横を通り過ぎようとすると、ゾンビ兵士が俺に銃を向けた。弾切れだとしても小銃で殴られたら困る。

 俺はとっさに敬礼をした。


「ウッ」


 ゾンビ兵士もとっさに右手で敬礼を返してきた。

 すると、さっきまで興奮状態だったゾンビ兵士は、何をやっていたのか忘れてしまったような様子になった。

 頭からっぽな様子でぼーっと立ち尽くしていたかと思うと、ゾンビ兵士は小銃をぐるぐる回したり、頭上に投げては受け取ったりしはじめた。

 たしか、ライフルドリルとかファンシードリルと呼ばれているものだ。

 とても上手で俺は思わず拍手をしてしまったけど、見ている暇はないので、俺はゲートの方に注意を向けた。


 ゲートの出入口の地面に血だまりができていた。

 血はゲートの向こう側から流れてきたようだ。

 俺はゲートの向こうの様子をうかがった。

 物音は聞こえない。

 人の気配はない。


 俺は出入口を押し開けようとした。だけど、何かに引っかかってドアが簡単には開かなかった。

 俺は全力で押した。

 開けると、すぐ傍に死体があった。

 ドアに引っかかっていたのは、この死体だった。

 俺は周囲を見渡した。他にも死体がいくつかあった。

 結生達ではない。

 みんな警察の制服を着ている。

 たぶん、ここを担当していた警官達が、あのゾンビになった軍人達に殺されたのだろう。

 たぶん、国防軍兵士たちは感染して自暴自棄になって脱走したあげく、こんな暴挙に出たんだろうけど……国防軍の中で感染が拡がっているのだろうか?


 少し離れたところに、のんびり寝そべって、たまにゴロゴロ転がっている、まるでパンダのようにリラックスした迷彩服姿のゾンビが一人いた。

 あのゾンビ兵士の他に、ゲートの外に生きている人はいない。

 パトロールがありそうな気配もない。もしパトロールがあるなら、あのゾンビがゲートの外でのんびり生きているはずがない。

 もうここに監視する人はいないのだろう。

 たった一日で、この封鎖地区の状況は大きく変わったようだ。

 今なら俺でもゲートの外に出られそうだ。

 だけど、今は外に出ても仕方がない。結生を探さないと。


 俺はゲートの内側に戻った。

 ゲートのゾンビ兵士は、まだ自慢げにファンシードリルを続けていた。

 片手でライフルをぐるぐる回しているゾンビ兵士の横で、俺は考えこんだ。たまにゾンビ兵士が、「すごいっしょ?」って感じのニカッて顔で俺を見てくるけど、俺は無視した。


 このゾンビ兵士が立っている位置、ドアの外の死体等の状態から考えると、結生達はゲートの外には出ていない。

 俺は血痕の残るゲート前の道路を見た。

 路上の血痕はほぼ一か所に集中していた。

 筆で描いたかのように、死体を引きずったような血の跡がべったりとアスファルトについている。

 そして、その血の跡は狭い路地へと続いていた。

 誰かがあの路地へ死体を引きずって行ったのだろうか?

 それとも、大量の血液を流しながら何かが這って進んだのだろうか?

 俺は血の跡を辿り、狭い路地の入口へと向かった。


 俺は暗い路地をのぞきこんだ。路地の地面は血で染まっている。

 路地の真ん中あたりに何かがあった。

 グッグッという低い呻き声のようなものが聞こえる。

 血で染まった迷彩服が狭い路地の中で蠢いていた。

 這うように動こうとしているけど、ほとんど前には進んでいない。

 その周辺をしきりに鼠が走り回っていた。


 血染めの塊は、ゾンビになった国防軍の兵士だ。

 ゲート前に立っていた兵士と違い、重傷を負っている。

 ゾンビじゃなかったら、とっくに死んでいただろう。ゾンビであっても、あの状態でいつまで生きているかはわからないけど。……というより、俺だったら、この薄汚い路地で鼠に噛まれながらずっと瀕死の状態でいるぐらいなら、むしろ即死したい。

 軍人ゾンビは何かを追いかけるように路地を這って進もうとしていた。


 たぶん、結生達がこの路地の先に逃げていったのだ。

   

 俺は暗い路地の先に見える明るい道路を確認すると、ゾンビのいない別の道を通り、あの路地の先に向かった。


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