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無神論者の聖女紀行  作者: はっぴーせっと
第1幕 無神論者の転職紀行
23/59

第18話

更新遅れまして申し訳ございません!

お待たせいたしました、それでは東方国家への旅路に暫しお付き合いくださいませ。



 シュボーッという音が外からして、列車が動き始めたことを感じる。窓はあるが、開閉は出来ないようだ。それに魔力反応を感知したので少々検分してみたが、どうやら車外からは内部が見えないようになっている。

 乗車した際にも、乗車口を魔術でロックする様子があった。となるとこの列車は封印列車扱いか…。まあ私という機密情報の塊みたいなものを乗せているのだから、閉鎖列車にされても仕方がないといえば仕方ないか。


 隔離されるということに関しては、特段文句はない。それより、早く行き先へ着かないかなあという期待感が強い。

 手渡されたライゼパスをもう一度検分してみる。「大トイトーネ帝国」、表紙には確かにそう刻印されている。まあこれが正式名称なのか分からないが、この際かの国をトイトーネと呼ぼうか。トイトーネは一体どんな国なのだろう。

 自動車や魔動車、そして鉄道網が敷かれている近代国家であることは把握できた。それと、ハルスバントの存在を考えると、魔法の運用方法もロベールなんかと比較できないくらい効率化されていると思われる。あとは、どんな思想の下に統治機構を構築していて、どの程度の組織力があるのか、特にその経済力と軍事力は気になるところだ。



 どのくらい寝台に横になっていただろうか。

 ふとドアをノックする音で意識が浮上する。素早く姿勢を正すと、「どうぞ」とドアに向かって声をかけた。


 「失礼致します。パンデル01であります。食事の用意が整ったことと、少々お話がございましてお声掛けいたしました」


 「ありがとうございます」


 「扉をお開けしても?」


 「どうぞお構いなく」


 ドアが開くと共に、01が中へ入ってくる。

 しかし入室してきたのは彼だけではなかった。


 きっちりとした警備服に身を包んだ男性2人を伴っている。そのうちの一人が前に進み出て、私に話しかけてきた。


 「身分証明書の提示をお願いいたします」


 この時点で気づいたことが一点。私はこの世界で与えられた力によって言葉を自然と理解できたが、この男性は恐らくロベール王国の言葉ではない別の言語で話しかけてきた。

 口元の動きと瞬間的に耳に入ってきた音を分析すれば気が付く。ロベール王国の言葉をロベール語とすると、ロベール語は鼻にかかった発音の単語が多かった。

 一方今発せられた言葉は、巻き舌が特徴的な濁音が強い音。口元の動きも明らかに異なる。だがこの力のせいで、意識していないと自然と聞き流してしまいそうになるな。


 ふと気になって01の方をちらりと見たが、彼は特に口を挟む様子はない。つまり、私が何語であろうと理解できるだろうと予測しているということ。

 随分と「聖女」の生態系について、お調べになられているようだ。きっとロベール王国での行動も、逐一観察されていたに違いない。偶に視線を感じたり、よく噂話を流されたりと聖女って大変だなあとか思っていたが、あれも案外トイトーネのモグラが情報収集のために色々と嗅ぎまわっていたせいかもしれないなあ、なんて今更思ったりする。


 「どうぞ」


 短く答えて、警備兵にライゼパスを提示する。

 警備兵は1頁目に記載してある個人情報に目を通すと、更にページを捲って「ふむ」と呟いた。


 「ヴェラ・ヴィトゲンシュタイン、トイトーネ帝国民。1ヶ月前に帝国ルーシュタット市より西方第1鉄道にて出国、と」


 警備兵はいったんパスを閉じると、表紙を上にして下から小さい懐中電灯のようなものを押し当てた。

 するとパスの上に半透明の国章が浮かび上がった。成程、こうして偽造パスポートを見分けるのか。元の世界のパスポートは電子チップが埋め込まれているが、こっちは専用の器具を当てるとホログラムが浮き出る様子から、専用の魔術式か何かが込められているのかもしれない。…そんな代物を用意できるカルメル氏の伝手とは如何に。


 「彼女の身柄は確かに私が保証するよ」


 パンデル01がそう言いながら、トントンと軽く自分の首元を叩いてみせた。すると警備兵は一つ頷いて、スタンプを押したパスを寄越してくる。


 「確かに確認させていただきましたので、返却いたします。お帰りなさいませ、良い帰路を」


 定文型の文句を述べると、警備兵はさっさと部屋から引き揚げていった。


 「失礼いたしました。国境を超える際には必ず身分確認が必要なものでね。少々うちは出入国に五月蠅いのですよ」


 成程、入国管理局が相応のお仕事なさっているということだ。国境警備がしっかりしているというのは、国家にとって悪いことではない。厳しすぎてもあれだけど。


 「いえいえお構いなく。国境管理をしっかりなさっているというのは、それだけ統制が取れているという証拠でしょう」


 「どうも。さて、そろそろ食事も用意できたようです。ああ、ボーイがやってきましたね、この部屋に運ばせても?」


 「宜しくお願いします」


 運ばれてきたのは、ポタージュスープ、サラダ、マッシュルームにマッシュポテト、豚肉のソテーという組み合わせ。比較的簡素ではあるが美味しそうな温かい香りが部屋に広がっていく。


 「大したものではありませんが、まあ美食は後々のお楽しみとお思いいただければと。次駅のルーシュタットで車両編成がありまして、そこからさらに帝都へと向かいます。帝都までしばしの間ですが、ごゆるりとお寛ぎ下さい」


 「お気遣いありがとうございます」


 01が微笑みながらコンパートメントから退出していくと、早速机の上の料理と対峙する。

 今更ながらお腹が減ってきた。


 試しにスープを一口口に含んでみる。うん、味付けは上々だ。列車のコックは封鎖列車であろうと、きちんと手抜きはせず仕事をこなしてくれているらしい。温かい食事に思わず微笑みがこぼれる。


 「ルーシュタット駅といったか。恐らくそこが西方国境都市なのだろうな」


 ドレッシングのかかったサラダを咀嚼しつつ、先程の警備兵や01の発言を振り返る。

 身分証明を要求されたということは、既にここはトイトーネ帝国の領土内。国境横断鉄道の発着地点がルーシュタット市なのだろう。

 しかし車両編成といったか。「乗り換え」ではないということは、私の乗る車両を別の帝都行き車両へ繋げるのだろうか。そうすると、私はしばらくこの車両に缶詰めかあ…。相当自分が機密扱いされているというのは理解したが、せめて新聞だとか、情報媒体が欲しいところである。

 まあ無理だろう。期待しないほうがいい。向こうは私を会談の場に引きずり込むまでは、用心深く情報制限してくるだろう。私でもそうする。


 こちらとしてもまだ完全には信用していない相手に身柄を預けている状態なので、本当は情報がすごく欲しい。ソフボン大学で資料を漁ってはみたが、彼らは完全にトイトーネを「東方民族」という括りでしか見ていなかった。つまり民族を超えた主権国家たる統治機構である、というところまで思い至っていないのである。魔法運用に関しての技術の高さを伺わせる資料は出てきても、肝心の行政や経済、司法、軍事基盤に関しての調査記録は一切なし。なしのつぶてだ。


 教会府の愚鈍どもめ、内部統制強化を図るのは宜しいが、外の世界も知らなければ意味がないだろうが。もしかすると教会府の中枢あたりは多少なりとも握っているのかもしれないが、それにしては東方の国境警備が杜撰(ずさん)すぎる。もしも東方に強健な高度国家が存在すると上が把握していれば、少なくともディジヨーヌ軍団の運営方法はとうの昔に見直されているはずだ。


 「はあ、現代では情報過多社会の問題性なども論じられていたが、やはり情報が無さすぎる環境というのは、自分が置かれると嫌なものがあるな」


 思わず漏れる独り言。真偽のつかぬありとあらゆる情報たちの奔流の中で、自らに必要なもののみを丁寧に抽出し分析し利用するか。情報が大幅に限られる世界でほんの少しの手がかりを探し出すか。どちらが良いかと言われれば、どちらも同様に面倒であるというのは間違いない。



 食事を終えボーイに皿を片付けさせた後、さてまず何からしようかと考えていると、再びノックの音がした。


 「はい?」


 「失礼、パンデル01であります。只今お時間宜しいでしょうか」


 「もちろんですよ、少々お待ち下さい」


 さっと身の回りのものを確認してから、開錠してドアを開ける。


 「お疲れのところ申し訳ございません。まだ正式に御挨拶申し上げておりませんでしたので、宜しければ改めて挨拶も兼ねまして、私の部屋で少々お話しをと思ったのですが。早めにお休みになられるようでしたら、また翌日にさせていただきますが」


 「お気遣いありがとうございます。大丈夫ですよ、まだ休むには早い時間ですし、私も是非ご挨拶をと考えておりましたので」


 「それは良かった!では別のコンパートメントまでご案内いたします。こちらに」


 そうして廊下を歩いていき、別車両の部屋を訪ねる。そこにはパンデル02の姿もあった。


 「失礼いたします」


 「どうぞどうぞ。狭い室内ですがこちらにお掛け下さい」


 ふとテーブルを見ると、琥珀色の液体の入ったボトルと3つのグラス、氷の入った容器。おお、これは期待してもいいだろうか…!

 私の視線を察したのか、01がにこやかに言葉を添えてくれた。


 「ああ、貴殿がアルコール類を嗜まれると、少々小耳にはさみまして。ささやかながら歓迎の意を込めてご用意させていただきました」


 「これはこれは、嬉しいですねえ!ここまでお気遣いいただけるとは、感謝の限りです」


 「いえいえ、少々の間ご不便をかけるお詫びの品だと思って下さい」


 そう言って着席すると、一つ咳払いをしてから少尉は背筋をぴしりと伸ばす。


 「では改めまして、ヴィトゲンシュタイン殿。この度はお目にかかれましたこと、幸いに思う次第です。改めまして御挨拶を。私、帝国国防省法務局所属、フランク・トゥーマンであります。帝国より少尉を拝命しております」


 きっちりとした敬礼と共に、所属を明らかにした正式な挨拶をされる。続いて02も同様の姿勢をしながら続いた。


 「同じく帝国国防省法務局所属、デニス・ベッカー伍長であります!」


 帝国国防省法務局。軍服を着用していることから軍属だと考えていたが、名称を聞く限り軍隊所属ではなく軍関係部署の所属と思われる。法務局というと、事務官だろうか?


 「これからお世話になります、ヴェラ・ヴィトゲンシュタインです。トゥーマン少尉、ベッカー伍長、宜しくお願い致します」


 「こちらこそ宜しくお願い致します。つきましては早速で申し訳ないのですが、ご留意していただきたいことが一点。本国からの意向により、貴殿は要保護人物という扱いとなります。そのため警備上の都合により、目的地への護送が完了するまで貴殿の途中下車・外部接触は、基本的に制限されることとなります。大変ご不便おかけいたしますが、何かございましたら小官らにお申し付けいただければと」


 要保護人物、とは表現しているが、これは事実上の監視対象扱いだ。

 防諜という点でも、これは妥当な扱いではあるのだろう。私にとっては大変やりづらいことこの上ないが。これから連れていかれる国について何の情報も得られないというのは、流石に辛すぎる。


 「承知いたしました。私から質問することは可能ですか?」


 「はい、ただし返答につきましては小官の職務範囲内で、ということになりますが」


 「結構です。ではまず一点。正式国名は大トイトーネ帝国、私のここでの扱いはトイトーネ国民ということで宜しいでしょうか?」


 「はい、そうであります。我々は通称トイトーネ、もしくはライヒと名乗っております。貴殿は我がライヒの一員という扱いで間違いありません」


 「つまり、トイトーネ帝国民としての主権は、私にも適用されるという認識で宜しいですね?」


 ロベールは主権国家といっても絶対王政だった。是非ともトイトーネでは、国民主権が確立されていることを願いたいのだが…。


 「はい、概ねその認識で間違いありません。貴殿は憲法によって定められた、トイトーネ国民としての基本的人権が認められることとなります。但し、身柄保護の点から目的地到着までは、行動の自由を車両内のみに限定されることをご了承下さい」


 良かった、トイトーネ帝国には人権という概念が存在する。憲法があるということは、少なくとも立憲政治を行っているということ。細かい法律がどこまで整備されているかは分からないが、無法地帯でないと分かっただけましだ。


 「目的地到着後はその限りではないとのことでしょうか?」


 「その点につきましては、小官の権限外となりますので明確なお答えをしかねます」


 「そうですか、失礼いたしました。では二点目。貴殿らの所属が帝国国防省となると、私は国防省、つまり軍部によって身柄を保護されていると考えて宜しいでしょうか?」


 「…国防省は後見機関ではない、とだけお答えいたします。小官から申し上げられるのは、ヴィトゲンシュタイン殿は、本国の然るべき機関によって、最大限の安全と権利を保証されているということです」


 国防省が直接の関与機関ではない?ということは、私の身柄は軍部ではなく、他の国家機関が管理しているということ。

 てっきりカルメル氏は軍関係者、恐らく軍部の諜報関係者ではないかと推察していたのだが、早計すぎただろうか?しかし彼は明らかに民間ではなく、国家機関に属している人間だった。国防省以外の国家機関…外務省?内務省?それとも法務省とか?

 しかしこれ以上少尉にカマをかけても、あまり有益な答えは返ってこなさそうだ。仕方ない、追々確認していくことにしよう。


 「承知しました。次に三点目。今回の護送に関して、貴殿らが所属する組織以外が知るところなのでしょうか?」


 「…はい、いいえ。今回貴殿をロベールにおいて保護し本国へ護送中というのは、貴殿の後見機関のみに開示されている情報です。ですので、貴殿の扱いは第一級機密となり、従って目的地到着までの小官始めとした車内人員以外との接触は、原則控えていただくこととなります」


 ふうん、少なくともトイトーネで私の存在を把握しているのは、その国家機関のみということらしい。

 だからこその第一級機密。しかし後見機関が握った案件ということは、その上位組織は勿論事情を把握しているはず。


 「成程、理解いたしました。しかしいずれかの国家機関の監督下となると、政府官邸の官僚殿はある程度把握されていると考えますが?」


 「はい、小官もそのように伺っております。総統閣下のお耳には入っているかと。しかしそれ以外の総統府大臣以下につきましては、小官の知るところではありません」


 総統府か。この国のトップの役職は総統というようだ。行政権を握る政府が総統府というところだろう。総統のお耳には入れているが、基本的には特定国家機関の機密扱い。正に未開の地から発掘してきた新型兵器というわけだ。

 でもまあ、文句は言うまい。お互いwin-winの関係であればそれで良いだけのこと。しかも完全な兵器扱いではなく、一応人権を認めていただけるというのだから、ロベールよりはましだろう。


 「そうですか。ではこれ以上の詳細のご説明及びこちらからの質問は、目的地に到着してからさせていただきましょうか」


 「ええ、そうしていただけると大変助かります。身柄の安全はしっかりと保証いたしますのでご安心下さい」


 「どうもありがとう」

 

 「さて、一通り挨拶も済んだことですし、ゆっくりと杯を交わそうではありませんか」


 用意された酒を一瞬検分した後、問題はないことを確かめてにっこり笑う。

 さあさあ楽しい酒盛りの時間だ。


 「是非。ご一緒できることを嬉しく思います」


 「こちらこそ。では、この出会いとライヒの繁栄に、乾杯!」


 「乾杯!」


 こうして酒を煽りながら、3人で他愛もない話に興じるのだった。




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