6話 選択
※グロ要素あり
俺は目を覚ますともう夜の七時だった。今日も奏の親は見なかった。娘が入院したと聞いたら見舞いには来ると思った。まぁ俺が寝ているときに来たのかもしれないし、今のところでは何とも言えないな。そろそろお暇しようと立ち上がった時またもやあの頭痛が襲ってきた。今日はもう二回目だぞと思いながらも必死に目を開ける。
今度は真っ暗だな。夜みたいだ。場所は河川敷で人気はない。病院の近くにあった河川敷かもしれない。そして、思いもしなかった人物が俺の視界に入った。瑞山結菜、奏の友達だ。走っている。もしかすると、奏が病院に搬送されたことを知って、見舞いに来ようとしているのかもしれない。さらに不可解なことにどうしてあいつが居るんだ。白いローブを着たあいつが……。奏はおそらく病院の方へ一直線に走っている。その方角には、白ローブもいる。白ローブの横をちょうどすれ違った時だ。瑞山は全く動かなくなった。
何で?どうして止まった。速く走れ。白ローブは右のポケットから注射器のようなものを取り出して全く動かず、それどころか一切抵抗する様子を見せない奏の腕に刺すような仕草をする。奏はその場に倒れこみ白ローブは姿を消した。俺の未来予知は終了した。この未来予知の時刻はおそらく今日の今、つまり七時から八時の間だ。病院の面会時間は八時までだから容易に推測出来た。ただ問題はそこではない。もし今俺が動かなかったら瑞山は間違いなく殺される。逆に俺が行ったとして瑞山を助けられなかったら俺までも殺されるかもしれない。そんなハイリスクを負ってまで行くべきなのか。俺は死にたくない。だから、行きたくない、関わりたくない、絶対に……。
奏なら行くのかな……。優しいし、人の目を気にせずに行動に移すような人だ。おそらく行くだろうな。だからと言って、俺と奏は違う。何を考えてるんだ、俺は。もしここで俺が動かなかったら瑞山は殺されて奏はどう思うのだろう。悲しむのは勿論だろうけど、自分のせいにして一人で責任を負おうとするかもしれない。奏の入院を知った瑞山が夜中に一人で病院に向かっている途中に通り魔に殺されたなんて噂が広まったら奏は間違いなく自分のせいにするだろう。この世界は卑怯だ。最初から選択は決まっている。俺は行かなくてはならないのだろう。奏のためだ、命を懸けて瑞山を救う。作戦なんて考えている時間なんてない。急げ、俺の未来を大きく左右させないためにも、例の河川敷に。
周りはもう真っ暗でかなり不気味だ。白ローブが現れることを知っているからなおさらだ。河川敷に向かう途中である程度作戦を考えていた。最悪な状態に陥った時の悪あがき用に足元に転がっていた石ころを拾ってポケットに入れた。
作戦だが瑞山が白ローブの横をすれ違う瞬間を狙って俺も横をすれ違うように歩く。そうすることで、白ローブの視界に俺の姿が入り、人目があることに気付かせる。白ローブは下手に行動に移せなくなるはずだ。しかし仮にも白ローブが行動に移せば、俺はすぐに警察に連絡出来るようにポケットに入れてあるスマホをつかんでいた。さぁ白ローブどう行動に移す。瑞山を殺すことが出来てもリスクが高いのは承知のはずだ。このまま何も行動に移さないでほしいと願っていたが、そう上手くはいかなかった。
何か変な気分になってきた。頭がふらふらする。ぼーっとしてきた。なんかすごく甘い香りが漂っている。前にもこんな甘い香りが漂っていた気がする。白ローブは右ポケットから注射器を取り出した。全く抵抗する様子のない瑞山に注射器を向けていた。俺は気を失いそうになり倒れそうになる。そのまま体に身を任せ、倒れこんだ。俺は今この状態で出来るだけの力を振り絞り地面を拳で殴った。痛みが全身に響いた。この奇妙な催眠術の酔いを醒ますために。拳からは少しだが出血していた。その代わりまだ少しはふらつくが確実に正気に戻っている。万が一にも白ローブが行動に移し、前回のように体の制御が利かなくなる状態に陥った対策として考えていた一つの作戦だ。白ローブは俺の酔い醒めに驚いているのか、注射器を持った手は完全に停止していた。
ここからが本番だ。
俺は瑞山の腕を掴みその場から離れる。瑞山も酔いが醒めたみたいだ。
「なんで、こんな所に水谷君がいるの?」瑞山が驚いた風に言っているが今は相手にしている場合ではない。
「今は静かにしてくれ。」
白ローブは動く様子を見せない。すると、白ローブは左ポケットからナイフを取り出しこちらに投げてきた。しかし、ナイフはかするどころか俺たちの一メートル程上を飛んで行った。どこに投げているんだと、俺はナイフに視線を向け背後を向いた瞬間、白ローブはこっちに向かって走ってきた。ナイフは俺の視線を逸らさせる罠だった。この一瞬で白ローブは俺たちとの間合いをかなり詰めてきた。一か八か俺は覚悟を決めた。ポケットに入れてあった石を白ローブの右腕を狙って投げた。上手いこと命中した。白ローブは腕を抑えつつこの場を離れた。そして、瑞山は現状が理解できないまま自分の目的を思い出し、病院まで走って行った。またさっきみたいなことがあったら嫌なわけで俺も瑞山を一人で帰らせたくなかったから、送ってやると言う目的でもう一度病院に向かった。
俺たちは何とか命を落とさず幕を閉じた。
病院に着いたとき瑞山が話しかけてきた。
「あの白いローブ着てた人誰なの?」
「俺は知らない、逆に瑞山さんと知り合いの人ではないの?」
「私こそ知らないよ。」だとしたら、一体何のために白ローブは瑞山を狙ったんだろうか。以前俺を襲ったときは金目のものかとも思ったが、夜中走っている女子高生を金目目当てで襲うだろうか。夜中走っている軽装な女子高生が高価なものを持っているなんて到底考えられない。やはり何か目的がある気がする。だが、思い当たることは特にない。
「ねぇ何で病院まで着いてきたの?」瑞山が興味深そうに聞いてきた。
「瑞山を家の近くまで送ってやろうと思っただけだ。」
「そっか。なら奏のことは知らないんだね……。」
「二宮さんのこと?入院していること?」
「奏のこと知ってるの?」
「二宮さんなら一週間程入院するみたいだよ。」
「入院…奏の様子見てくる。」
「あぁ。」俺は瑞山を一人で行かせた。俺が居ると、駄目なような気がしたからだ。二人だけの方がいいだろうと気を使って瑞山が帰ってくるのを待った。
十分程経ち八時前には瑞山が帰ってきた。俺は瑞山を送るために家の近くまで一緒に同行した。その帰り道奏の状態のことや白ローブの話を少しした。白ローブ、あいつが襲ってきた理由は二人で考えていたが結局何も分からなかった。瑞山の家の近くまで送った後、俺はそのまま自分の家に帰ろうとしたがふと思い出したことがあった。
急いで病院近くの河川敷に向かった。白ローブが投げたナイフは何処を探しても見つからなかった。ということは、俺と瑞山がこの場を離れていたついさっきまでの間に白ローブがまたこの場にやって来てナイフを回収したと推測できる。さらに言えば、俺たちが居なくなるまで近くに居てずっと俺たちが居なくなるのを待っていたという風にも推測できる。
俺は背筋に悪寒が走る。
白ローブはあの時ナイフを投げた。
ほんとに俺の気を逸らすだけの罠だったのだろうか。絶対に有り得ない。あいつは本気で俺たちを殺しに来ていた。白ローブは俺たちがいつかナイフを取りくる可能性をずっと待っていたとしたら……。
ナイフを投げた行為自体は今この時のために意味を成しているんじゃないかと思えた。
俺は慌てて周りを見回す。人気は勿論白色の物すら視認することはない。未来予知の兆候も見られない。俺は安堵し、深く深呼吸した。帰ろうとした瞬間、後ろから『あの女には近付かない方がいい。』と、男の低めの声音が聞こえた。俺は咄嗟に後ろを向いていたが、誰も居なかった。この言葉の意味を考えてみたが、あの女というのは瑞山しか当てはまらなかった。やはり瑞山には何かあるとしか思えなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




