◆高校一年・梅雨その五◆
俺が制服姿になると、「似合ってる似合ってる」と頷いていたが、カバンから腕章を出すと首を傾げた。
「何それ?」
「昨日、ジョウタにハメられて面倒くさいことになってな……」
俺は昨日起こった事をウララに説明した。
クラスメイトの相良丈太は、よく言えば誰にでも分け隔てなく話しかけてられる屈託のない笑顔をするやつだ。
悪く言えば、チャラくて女好きでいけ好かない野郎なんだけどな。
それで、そのジョウタが放課後さっさと帰宅しようとしている俺を呼び止めて、どうでもいい世間話をしてくるわけだ。
俺は面倒だったから放って置いて帰ろうとしたが、立ちはだかり縋り付き、最後は足にまとわり付いて帰宅を妨害してきたんだ。
そこに現れたのが生徒会長だ。
名前は思い出せないが、黒髪ロングの三つ編みでフレームなしのメガネをかけていて、いかにもな人だった。
ジョウタは生徒会長が現れると、「シオちゃんめんご」と言って生徒会長の横に並び立ちやがった。
軽く殺意を覚えたね。
生徒会長に通称ボランティア部に加入するように言われ、制服で行動する時は必ずこの腕章をつけることを義務付けられた。
腕章にはしっかりとした文字で、高校名と地域福祉実行委員と書かれている。
遅刻常習犯な上に、中間テストで赤点が五つ、さらに補修も再テストもバックレていたので、高校一年生が始まったばかりだというのに、確実にダブると脅されたのだ。
ただ、これを言うとウララが怒るので別の理由を告げる。
「こないだヨシダさんを家まで送ったろ、それを何故か生徒会長が知っててな」
先週も同じようにウララがやってきて、グータラしている俺を無理やり外へ連れ出したのだ。
大通りの歩道橋で、大きい手荷物を持ったおじいさんがいたんだが、案の定ウララの目に止まり、あとはあれよあれよと言った感じで、おぶって家まで送ったのだ。
そのおじいさんがヨシダさんだ。
「生徒会長が強く勧めるもんだから断れなくてな」
実はほぼ強制だったけどな。
「よかったね!」
全然よくない。この腕章すげー恥ずかしいんだぞ。
ちなみに、腕章常時着用義務の他、ボランティア部を総動員してのゴミ拾いやら介護施設の手伝いやら、児童館や地域イベントなどに駆り出されるらしい。
恩恵は、特別特典として各教師への謝罪と再テスト実施だ。勉強はジョウタが教えてくれるらしい。
忌々しいことに、ジョウタは学年でも三本の指に入るほどの秀才なのだ。
「じゃあ今日は小学校の方に行ってみよっか」
そう言って家を出た。
雨が降っていたのか地面が濡れていた。最短距離で小学校まで行くわけではなくブラブラと歩き、近所の公園で俺たちは足を止めた。
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