第19章-力の差、技の差-
「始めッ!!」
アレスの声が刹那的速さで自分の耳に伝わった瞬間、氷の刃をラードに飛ばす。
するとラードも即座に反応して、飛んできた無数のその刃にむけて水の刃を飛ばし相殺する。
「水・・・だと?」
「えぇ、私の能力は水。侮ってもらってはいけませんよ?」
「ならば凍らすのみ・・・!」
矛人は内心その能力に下を巻いた。
なぜなら、水を自由自在に操る神と言えば誰しもがわかるであろう。
そう、ネプチューンやポセイドンである。
(これはちょっとばかり厄介だな・・・)
矛人はそう思い、こめかみに冷や汗を垂らした。
そしてラードが飛ばす水の刃の量に矛人の氷の刃の生産が追いつかないため、自然と守る体制に入った。
なぜならば、氷は一旦蒸気となるものを冷やし凍らせる必要があるが水は違う。水は大気中に存在しその物であるため、飽和状態である蒸気から常に集めれるのだ。
よって、過程の多さでわずか0.8秒の差が、刃の数に反映してくるのだ。
現在押しているのがラード、押されているのが矛人である。
「あの矛人さんが押されるなんて・・・」
「彼は能力として強いが、能力の使い方が強い訳では無い。まだ、宝の持ち腐れという感じだな」
アテナが呟いた言葉に、アレスは彼の評価を述べる。
その評価にアテナは納得した。なぜならアテナ自身そう思っていたからだ。
ここは聖騎士を育成する場所、特に能力の使い方を教えるところだ、それも戦いの神直々にだ。
「くっ、これまた厄介な相手だな・・・!」
「そっくりその言葉返しますよ・・・っ!」
守りに切り替えた矛人は、無数の水の刃を次々と凍らせる。
そして凍らせれた水の刃は勢いを失い、重力に逆らう。まるで葉から滴る雫のように。
パリーンと氷が砕かれる音を無数に響かせる中、ラードはこの攻撃方法が通じないと悟り別の攻撃方法へと転じる。
「なかなかやりますね、ですがこれはどうです・・・!!!」
ラードは右手を突き出すとその先端から一直線に矛人へ高出力の水が噴出される。
「知ってますか?水ってダイアモンドも切る最強の武器なんですよ?」
「やば・・・ッ!?」
矛人はその高出力の水をなんとか凍らせようとするが、ダイアモンドも切るそれは第1宇宙速度で迫り来る。
「これでチェックメイトですね!」
「ありゃ、もう終わりだな。こうなったら矛人やらの負けだ」
「何言ってるんですか?ここからですよ?矛人さんは」
アレスが矛人が勝つことを諦めているが、アテナはこの現状を冷静に「この時点での敗北はない」と信じていた。
アテナはコアトリクエとの戦いを見ていたからだ。
そして、その勇姿に惹かれた・・・。
だからこそ信じる、だからこそわかる。
「矛人さん、頑張って・・・!」
気づいたらアテナは胸に拳を握り呟いていた。
「だったらこうやるまで!」
右手で凍らせていたのを今度は左手に変え、目の前に灼熱の炎を発生させた。
「なっ・・・!?二つ目の能力だと!?」
「どうやら、神の力らしいんでね・・・!」
凍らせる力を失い水の勢いが完全に戻った瞬間、矛人に迫る水は蒸発していく。
「馬鹿な・・・高出力で噴出された速度の水を瞬時に蒸発だなんて・・・!?1体何度なんだ!」
「ざっと6000度くらいかな?」
「太陽の表面温度だと!?」
「まっ、俺が今踏み込めるのは表面温度まででこれ以上はむりだ。流石神と言ったところか・・・」
ラードが驚くのも無理じゃない。炎を極めし神なんて太陽神位しかいない中、その太陽神の一歩手前まで来ているのだ。
ラードはこの状況を楽しんでいた。
(かつて無いこの熱いバトルは今までであっただろうか・・・)
ラードは聖騎士育成場では負け無しであった。抜群の成績を収め、聖騎士の中ではトップの実力まで上り詰めた。
そんなラードが今、負け無しのレッテルを剥がされそうになっているという事に心が燃えていた。
そしてまた矛人も楽しんでいた。
ここまで自分の能力を自在に操れる技量、そして繊細さ。どれも自分にないものばかりである。
(やっべ・・・、楽しくなってきた!)
二人にうっすらと口元にニヤケが生まれる。
「ここからが本番だぜ・・・!」
「ここからが本場ですよ・・・!」
「神の炎とな」
「矛人さんにあんな隠し玉が・・・!?」
「なに、知らなかったのか?」
「大丈夫はわかってたのですがまさか神の炎まで出すとは・・・」
アレスは驚いた、それも顔には出さないが心でだ。
神の炎と言うのは、本来太陽神などを意味している。
そして彼は今6000度と言う太陽の表面温度を出したということは、太陽神のそれに近づいてきているということだ。
太陽と言うのは常に地球を照らし、宇宙に光を放つ素晴らしい恩恵を持った力なのである。
炎、すなわちすべてを照らす光。絶望の淵に光を照らすその炎は、今現在彼に導かれている。
もし太陽がなかったら、地球やその惑星などは一瞬で凍らせてしまうほどの絶望。
そして彼の能力は全てを照らす希望の炎、すべてを覆い尽くす絶望へと導く氷。
すなわち、彼の能力は光と闇。この二つを操る能力者など見たことない、そうアレスは驚いていた。
「育てがいがあるな」
気づいたらそう呟いていた、そう無意識に。
アテナはこの呟きを逃さず、その言葉を聞いた途端ニヤリと笑みを浮かべる。
そして、ドヤっとした顔でアレスに言うのだ。
「なんて言ったって、私の夫ですからっ!」
矛人は内心悔いていた。そう、今の現状どう頑張っても太陽の表面にしかたどり着けないことに。
もっと言えば一瞬しか発動できないこと。
そして力の差に思い知らされる。
-常に神は偉大だと-
ラードもまた悔いていた。
自分の最大攻撃力である、高出力の水を神の炎で一瞬にして蒸発させられたことに。
そして悔いているだけじゃなくまた、楽しんでもあった。
さらに、一つの思考が頭によぎる。
-人間の可能性は無限大だと-
そして矛人とラードは互いに認めあった。
「「こいつは絶対的ライバル・・・ッ!」」
と。
矛人は思いっきり飛んだ。
上空約100m。
そして両手を思いっきり広げ叫ぶ。
「こんなに楽しいのは初めてだぜ・・・!」
「あぁ、僕もだよ!」
「だけど、これは耐えれるといいな!俺の武器は、この大気なんだぜ?」
「なら、僕もこの大気全体が武器さっ!」
「いいね、いいねぇ!」
クハハと笑うと矛人は上空に大きな氷塊を作る。そう、ゼウスに莫大な痛手を与えたあれだ。
だが、ラードは恐れてはいなかった。ゼウスですら一瞬驚いたこれを見て
(まあ、このくらいはやるだろうな)
そう思っていた。
このバトルで互いにライバルと認め、さらに実力を信用しあっている。
力の差では矛人、技量ではラード。
互いに欠けているを持っていると実感するこのバトルは、今までにない高揚感を抱かせていた。
「なら、僕も本気を出させていただきますよ・・・!」
するとラードの背後には、ものすごい量の水が生成されていた。
まるで氾濫した川を見ているような、そんな大きさだ。
そして、その水を1点に集中させ発射する。
「行っけぇぇぇ!!!!」
「はぁぁぁぁぁあっ!!!」
互いに叫びながら能力をぶつける。
-ドンッ-
上空約50mから同心円状に衝撃波が、衝撃音が、周囲に響き渡る。
アテナもアレスあまりにもデカすぎる衝撃に、足を思いきり踏ん張る。
だが50mで互角に競り合っていたのはわずか約1.5秒であった。
氷塊が砕け散り、破片が周囲に散らばる中、アレスは叫ぶ。
「そこまでっ!」
と。
1点に集中させた水は矛人の目の前でピタリと止まった。




