守るは盾 砦は大和 ~Defend shield Fort Yamato~
「これより砲撃を開始する!『時雨』『紫電』は砲門を開け!」
『了解!『時雨』『紫電』は直ちに装填!右舷30度、距離およそ2500m。砲角25度。』
『標準完了!第1、第2、第3門異常なし!システムオールグリーン!』
ドレークの砲撃命名により艦内が慌ただしくなる。甲板では弾薬や装備を整え、前後へ移動するものが見られる。
艦橋の前に搭載されている2基の45口径46cm3連装砲塔『時雨』と『紫電』が上空から見て右舷30にその雄々しい砲身を差し向ける。
大和の剣ともいえる大和 改の最大砲身である45口径46cm3連装砲塔はドラム缶並の大きさの砲弾を撃つことの出来るバケモノみたいな砲塔だ。
各々の砲身は皆同じ方向の敵船の密集している箇所を着弾目標としている。
『右舷30、距離2500、砲角25、全て完了!』
キリキリと砲塔が回転し終わるとそのことを聞いたドレークは、
「はなてぇー!」
自らの指揮で戦いの火蓋を切る。
ドォン!ドォン!ドォン!
3門の3連装砲塔の筒が火を吹く。花火が連続して爆発するかのような轟音が甲板から艦内の至るところまで鳴り響き、凄まじい衝撃を生み出した。
砲弾は外れたが海面へ着弾と同時にと高い水柱を立ちあげ、その際に造られた津波が周りの船を転覆させてゆく。
なかには着弾するものもあり、爆炎と黒煙に包まれた船は木っ端微塵にされてしまった。今はもう見る影もない。粉々に崩れて海の藻屑と化した。
「第1、第2護衛艦は接近中の敵船の処理を!第3、第4護衛艦は援護射撃を!」
『了解!』
向こうの敵船はこちらへと近付いてくる。大砲の射程圏内を狙っているのだろう。
だが射程距離に大きな差があるため、射程圏内する前に阻止するために54口径127mm単装連射砲 オート・メラーラや高性能20mm機関砲ファランクスで制圧射撃を行使する。
127mm弾と20×102mm徹甲弾は豪雨の如く弾幕を張り、敵船は蜂の巣と変わり果てる、
「はなてぇー!」
45口径46cm3連装砲塔を断続的に砲射させるが大型軍艦はバリアによって塞がれる。何発撃っても全てがバリアによって減速して海へと消えていく。
すると甲板に1弾の影が通り過ぎる。
「!?。ベルグか!」
空を飛行するは竜の1種のベルグ。公国への爆撃にも使われた帝国の航空戦力だ。
敵船から飛び立ったのか、何百匹のベルグは青天の空を埋めていき襲いかかる。
空にも敵がいるぞ!高射砲だ!
舷側の13mm連装機銃や25mm3連装機銃が母艦を守るために牙を剥ける。
イージス艦も同様に54口径127mm単装連射砲 オート・メラーラと高性能20mm機関砲ファランクスが大和の機銃に続いてベルグを貫いていく。
ガガガガガガガガガガ!!
ベルグは花弁が散り逝くように赤い液体を撒き散らして墜ちて行く。海に浮かべばその姿はより一層妖しげな雰囲気を漂わせる。
敵船の大軍にベルグによる援護。さらにバリアによって守られてる軍艦。
これではあの軍勢をどうすることも出来ないまま領海への侵入を許してしまう。
「ドレーク提督!あの軍艦はいかがなさいますか?」
「なかなかしぶといな。特にあのバリアは厄介だな・・・」
眉間にシワを寄せてそう吐き捨てる。双眼鏡で相手の軍艦を監察してはどう手を打つかなど試案するが、どうにも定まらない。
「ほかの小型軍艦は対処仕切れます。ですがあの大型軍艦だけは・・・」
「ふむ・・・厄介な代物だな。一先ず今は小型軍艦を排除しよう。小型が圧倒的に多い。下手して囲まれたらお陀仏だからな」
「はっ!」
「さて、どうするかな・・・」
艦橋の最上階の一室であの黒塗りの軍艦を双眼鏡で覗き見ながら思案するドレークであった。
/※/
「来たぞ!」
「撃て!」
第1イージス護衛艦の甲板上の兵士たちは迫り来る小型軍艦との海を挟んでの撃ち合いをしていた。
イージス艦より小柄だが負けず劣らず大砲をぶちかましてくる小型軍艦は側面がぶつかる程度まで急接近してくる。
「総員!衝撃に備え・・・」
ゴォン!
一人の兵士が言い切る前に互いの船が接触した。その衝撃で帝国の軍艦は大破してしまい、そこからは艦内の荷物や人員が落ちていく。
鉄製と木製だ。どちらが強度がしっかりしてるか一目瞭然だろう。大破している向こうと比べてこちらは傷程度。どれだけ軍艦の装甲に大差なのか分かるだろう。
「今だ!奴等に砲射を!」
高性能20mm機関砲ファランクスが牙を尖らす。
ガトリング型の連装部分が勢いよく回転して弾丸の流星群を大破しつつある軍艦へとぶつける。
うわぁぁぁぁーー!!
助けてくれー!!
敵船から僅かに敵兵士の断末魔がこだまする。
20×102mm徹甲弾は側面の木甲を破壊して艦内へ侵入し、やがて反対の木甲を突き破り艦そのものを貫いていく。その破壊力にはなす術がなく、ただ沈没するのを待っていた。
やがて戦艦の心臓部となる龍骨が破壊されたのか、メキメキと悲鳴をあげて崩れ落ちていく。
「次はあの艦だ!潜航魚雷準備!」
甲板にいる兵士がMk36短魚雷を発射菅から射出させる。水泳選手が海に飛び込んだように鮮やかな着水を魅せて潜航していく。
やがて潜航による波紋は少しずつ見えなくなり、一隻の軍艦の左舷が大爆発を起こす。
船首は爆炎により火災が発生し、煙は天高く昇り白き雲に混ざりつつある。
「火を消せ!すぐに立て直すんだ!」
「む、無理です!火の勢いが・・・」
「ええい!そんなことはどうでもいい!あの蛮族どもに見にものを言わせてやる!」
敵は火災により艦内が混乱し始める。上官の命令さえも耳に入らない。
極炎を水で消すもの。
あまりの熱気に逃げるもの。
皆、目的はそれぞれだがどの行為も意味はなく木造の軍艦は火の手に飲まれて消し炭と化していった。
/※/
『右舷前方、敵船3。こちらに大砲を向けています!』
『狼狽えるな!あんなちゃちな大砲などはなから脅威などではない!』
『次弾装填!右舷45。距離およそ1200。砲角15。システムオールグリーン!』
こちらもあまりの数の戦艦に混乱しつつある。訓練を思いだし、適格な作業スピードで敵を迎え撃つために熱心に手を動かす。
「はなてぇー!」
ドォン!ドォン!ドォン!
45口径46cm3連装砲塔『時雨』が3連発。3発の砲弾は全て敵船を貫通し、甚大な被害をもたらしていく。
長きに渡る戦闘で美しく清らかな海は船の破片と死体で墓場のような光景と変わり果てる。あまりの死臭に鼻を抑える者もいた。
「第2波、はなてぇー!」
今度は『紫電』が大型軍艦へ砲撃するがやはりバリアによって無駄弾となった。
「ダメか・・・」
「ほかの軍艦は大半が沈みましたがあの軍艦は・・・」
主力軍艦に太刀打ち出来ないことに悔やむ。しかし一番悔しいはずなドレークはなにやら考え事をしていた。
「ふむ・・・なあ、海兵隊は?」
「海兵隊ですか?。砲撃の手伝いをしてますが」
「ならすぐに呼び寄せろ。作戦を伝える」
「は、はい!」
なにかを決意したかのようにその場を立ち去っていくドレーク。
その後ろ姿はスペインの無敵艦隊を撃破して付いたあだ名、悪魔の化身を意味する『ドラコ』だった。
/※/
「これからある作戦を試したい。そのために皆を呼んだんだ。」
大和 改の艦内の一角の部屋にドレークを初め井上大佐などが集められた。激しい轟音と衝撃が艦内にも響くなか、机に載られた大型軍艦の写真を見て息を飲む。
「知っての通り、奴等はこの軍艦に魔法を扶助することで結界かバリアを張ったんだろう。これのせいでミサイル1発どころが機銃さえも無効だ。」
「短魚雷も水中で塞き止められました。これで360度は完全無欠となりました。」
井上大佐の台詞を最後に室内は黙りとした空気となった。
そこには相変わらず響く砲撃の轟音と衝撃という後遺しか残らなかった。
「しかし、この作戦ならイケるかもしれない。」
突如、ドレークはそんな意味深な言葉を吐いた。
「それで作戦とは?」
「上陸奇襲作戦だ。」
「!?」
今いる兵士たちが驚愕の表情を見せる。それに反してか、話を続けていく。
「このバリアは外部からの攻撃を完全に防ぐ。ミサイル、機銃、魚雷、全て無効。だが内部からなら」
「そうか!」
誰かが納得したようだ。
ドレークの作戦はこうだ。
バリアを突破するのではなく、内部に潜入し敵を殲滅しつつ艦内の至るところに爆弾を仕掛けて起爆。危険な賭だがこれなら確実ともいえる攻撃だ。
しかし艦内にはとれぐらいの敵がいるかわからない。ゴムボートの数も考えてみれば一隻に数十人しか送れない。これでは逆に返り討ちされる危険性もあるのだ。
「さすがに危険だがこれが唯一の手だ。成功を祈る!」
はっ!
海兵隊の兵士が部屋を出ていく。
後に残ったのは祈るように手を合わせるドレークの姿だった
/※/
時刻はすでに夕方。辺りは薄暗くなってきており、日が沈みかけてる。
「総員、準備を済ましたな?」
海兵隊隊長 ヘレン少佐は隊員に再確認をする。ゴムボートに乗った18人は一斉に頷く。
「よし、ならボートを降ろすぞ。しっかり掴まってろ」
クレーンでゴムボートがゆっくりと降ろされていき、着水した。
今回の奇襲作戦は彼女ら、海兵隊内特殊作戦部隊に任されることとなった。特殊作戦執行部『ネスト部隊』とは専門が違う。分かりやすくいえば陸か海かの違いだ。
『ネスト部隊』は陸戦を得意とする。地上部隊の影の支援から爆弾処理、落下傘でのヘイロー降下、暗殺など普通の兵士より上の事を主要とする部隊だ。
一方で海兵隊内特殊作戦部隊、通称『ガイオス部隊』。船などの制圧、海上での救助活動などの海での作戦を執行する部隊だ。いわば海上自衛隊のような組織だ。
ちなみに名前は海の神ポセイドンの別名であるエノシガイオスからとった名前だ。
そんな海上に特化した部隊はゴムボートでの急襲にかかる。
ドレークの計らいでしばらくの間、砲撃は止めてくれる。直撃したらヤバイからな。なんとか機銃だけで耐えてくれてる。
「敵はまだ気づいてないな。」
「薄暗いので視界が利かないのでしょう。私たちにとっては好都合です」
大破して海の藻屑と化した船の残骸を滑らかに潜り抜けて目標の大型軍艦の真横に密着する。
「見ろ!あそこに梯子があるぞ!」
ヘレン少佐の指差す先、軍艦の後方の舷側にはむき出しになった梯子が設置されてる
一人ずつ梯子を昇り、甲板へ足を踏む。
敵は大砲に注目して彼女らのことなど視界にすら入っていない。今がチャンスだろう。
「撃て!」
ヘレン少佐の一声で各々が握る84式小銃を発砲する。大砲に気をとられ、目線が疎かになった敵兵士はなにが起こったのかわからないまま散っていく。
「オールクリア。」
「よし、次は艦内だ。いいか、いつ敵が襲ってくるかわからない。気を抜くなよ」
念を押すかのように注意を施すヘレン少佐。初任務の彼女らはぎこちない首肯で返答していき、艦内へと潜入するのであった。




