そして巡っていく
「この世界でのシャダーラの殲滅は完了した。我々は元の世界へ帰還する。この世界の者たちの協力、誠に感謝する」
一礼するユーリの周りにエクソシスト達が集まり、セイクリッドに帰る準備を始めた。
側にいた第二部隊部隊長のローディカルテが、ため息交じりに不満を漏らす。
「結局、王族護衛の第一部隊様は来なかったな……。こちらだけ第三部隊のトラブルに付き合わされて参ったものだ」
ローディカルテの発言にシエルカが呆れて返す。
「第二部隊の消極的な応援も大概だったがな。相変わらず愚痴だけは達者だな」
バトルが勃発しそうな空気にまあまあ、とユーリが間に入る。そうしているユーリの元に、泣き腫らした柚子が千賀や小春と共にやって来た。
「柚子……落ち着いたか?」
「ああ、お陰様で。思いっ切り泣いたらスッキリしたよ」
Vサインをする柚子を、千賀がのぞき込む。
「でも柚子が泣いてるとこなんて初めて見たよ〜何があったん?」
「色々あったんだよ、きっと。お別れの邪魔になるから下がっとこう、千賀」
小春はそう言うと、千賀の背中を押して少し離れたところに移動した。
離れていく小春達を見た後、ユーリと柚子はお互いの方を向き直した。
「さて…………君ともここでお別れだな。君には沢山助けてもらって本当に感謝している、ありがとう。しかし、色々無理をさせてしまって悪かったな……」
ユーリの言葉に、柚子は首を横に振る。
「いや、俺は今回エクソシストの手伝いが出来て良かったよ。今回のことがなければ、一生竜来と向き合えずに終わってた……お礼をいうのはこっちの方かもしれない」
柚子とユーリが話していると、シエルカが横から話に入ってきた。
「こちらとしてはエクソシストとしてセイクリッドにスカウトしたいくらいだがな……セイクリッドに来る気はないか?」
「おいシエルカ……!」
困惑するユーリを余所に、柚子は額に手をかざしポーズを決める。
「俺の類まれなる才能はやはりそちらの世界でも必要か……。フッ、神の器とは罪なものだな……」
「誰もそこまでは言ってない」
ユーリが突っ込む中、柚子は「だけど」と言って中二仕草をやめた。そして真っ直ぐな目で二人を見上げた。
「やりたいことが出来たんだ。だから、そっちには行けない」
柚子の意志表明に、ユーリとシエルカは顔を見合わせて小さく笑った。そして、柚子に感化されたユーリもまた、自分の目標を語る。
「私も今までシャダーラを目の敵にして見えていなかったことが今回見えた。精神暴露術も使わなくなり、誰もイニュティルの人間の事情が分からなくなった今だからこそ、王族やエクソシスト達にイニュティルの立場改善を働きかけていこうと思う」
「お互いやることが出来たんだな」
柚子はそう言ってニッと笑った。
セイクリッドとの境界、光の裂け目が出現する。まばゆい光の中に、エクソシスト達が帰ってゆく。
「柚子!」
ユーリが最後に柚子に向かって叫ぶ。
「やりたいこととやら、頑張るんだぞ!」
ユーリの応援に、柚子は大きくニッと笑った。
「ユーリもな‼」
そうしてユーリ達は、元の世界に帰っていった。
シャダーラがいなくなり、藤影市には日常が戻っていった。
ドラゴンシャダーラが現れた二小の上に飛んでいたヘリはテレビ局のもので、あの日の騒動は中継された。しかし原因不明のまま片付けられた騒動は、すぐに人々の話題の中から消えていった。竜来の夜逃げ騒動の時のように……。
そんなある日の昼休み、千賀が柚子に質問をする。
「そういえば柚子のやりたいことってなんなの?」
柚子は少し考えた後、いたずらっぽく笑った。
「いつか必ずやり遂げるから、その時のお楽しみだな」
***
十年後。
ある漫画がアニメ化して、その漫画の作者がサイン会をしていた。
「闇月夜柚子先生〜!」
そこに最後尾で順番が回ってきた、まだ六、七歳の幼い少年がやって来た。
「ぼくね、ユウキが大好きなんだ! 悪いのに優しくて、カッコよくて!」
「そうか。ありがとな、少年!」
ニッと笑った漫画家の闇月夜柚子……もとい五十嵐柚子は、その少年が好きなユウキというキャラとサインをスラスラと書いた。
「ありがとう! 下剋上ヒーローのアニメ、楽しみにしてるね!」
そう、これは下剋上ヒーローのアニメ化記念のサイン会。柚子はあれから漫画家になり、初連載で下剋上ヒーローのセルフリメイクを描き上げた。それが瞬く間にヒットし、アニメ化に至ったのだ。
ニコニコと手を振って少年を見送ったゆずは、空の方向を見上げた。
「竜来、下剋上ヒーローがアニメ化したよ。まさかアニメ化までいけるとは思わなかったけど……」
そう言いながら柚子はフフッと微笑む。このサイン会で、竜来から生まれたユウキに憧れる子供が沢山来た。柚子は竜来が生きた意味を、そうやって遺せた気がしたのだ。
「竜来が生きた証は、ちゃんとここに生き続けているからな」
少年が生きた証は、巡り巡っていく。
それは何処かで苦しんでいる同じ境遇の子を救う、一歩になるのかもしれない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!




