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軍師日記 ~異世界知識で大陸統一~  作者: 楼那
異世界転移

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第四話 奇妙な客人と無遠慮な宰相

 海興王国長港郡王宮


 太陽暦1304年6月終旬 高白麗


 報告の山にうんざりした我は、仮の寝台に腰を掛けて瞑想という名の現実逃避に浸っていた。

 あの机に積み上げられた報告の大半は、恵楽郡で生じた我が国の損益である。しかし悲しき話であるのが、益というものはほとんど存在しない。大部分が損のことばかり。

 いくら田畑が焼けた。どれほどの兵が死んだ。民の不安が高まっている。橋が落とされた。土地が荒らされ、家が燃やされた。

 先日、登角には言った言葉。何度も何度もしつこく我が王国の領地を荒らす燕国への侵攻を仄めかす言葉。

 あれを冗談だと登角は受け取ったようであるが、そろそろ本気で考えねばならぬ時期に来ていると我は思う。でなければ、次の世代にまで引き継がねばならなくなるゆえに。

 そんなことを考えていた時、部屋の外に誰かが立ったことに気が付いた。なかなか入ってこぬのは、中の様子を窺っているのであろう。そしてそんなことをする者は、我が側近の中で数人しかいない。


「入って構わぬ」

「は、ははっ!失礼いたします、我が主様」


 そう言って慌てて部屋に入ってきたのは、尚書令であり登角の倅でもある呂伏龍であった。手には随分と多くの紙の束を抱えており、またなのかと思わずうんざりする。

 しかし第一声はこれまでとは異なるものであった。


「主様、宰相が里帰りよりお戻りになられました。急ぎ主様にお目通り願いたいと申しておられます」

「わざわざに尚書令へ許可を求めたのか?あの陸宰相がか?」

「私も驚いております。いつもであれば帰宮後であっても、旅装束のまま主様の執務室に入室されるような御方であるにもかかわらず。ゆえに部下たちもどういう風の吹き回しなのかと非常に混乱…。いえ、今の言葉はどうか聞かなかったことにしていただければ」


 かつての弟子として、言ってはならぬ言葉であると口が慌てて閉ざされた。ほとんど全て出た後ではあったが。

 まぁそれはよい。失言云々は我の問題ではなく、伏龍と陸宰相の間で解決すべきことであるゆえに。


「して、陸宰相はいずこにおる」

「正門前にて待機しておられます。それと仔細についてはよくわかっておらぬのでございますが、何やら帰路の最中に拾い物をしたと申しておられました」

「結局無礼なのは変わりないではないか。我に正門まで出向けと申しているのであろう?」

「…その通りでございます」


 ずっと浮かない表情であったのはそれが原因か。思わず漏れた失言も、おそらくこれが原因。

 間違いなく気が重かったのであろう伏龍の言葉尻は徐々に小さくなっていった。


「まぁ良い。陸宰相は我がお願いしてその地位についてもらった唯一の存在である。多少の無礼は認めると任官の際に伝えてしまったゆえに」

「ですが限度がございます。ときには厳しく言うていただいた方が。主様の品格にも影響が出かねません」

「よいのだ。王国位があるだけで、我が身の格はある程度保証されているようなもの。王国は自称できるものではないゆえにな」


 我が笑ったものの、終始伏龍の表情は沈んでおった。本気で我が身、我が品格の低下を案じておるのであろう。しかし先にも言うたとおりである。

 王国位というものは、大陸帝家より称することが認められて初めて使用することが出来るもの。条件としては帝家より一定の存在感・影響力・実力が認められており、加えて帝族の縁者を降嫁させられた国家に限って認められる。一応国位は継承が認められており、剥奪される条件としては帝家の血が流れていない者が国家を継承するか、あるいは単に実力が伴っていないと判断された場合。後者は判断基準が無いゆえに、政治的配慮に悪用されることも多々あるのが現状における問題点と度々話題になっていた。

 国位の最上位は帝国位であり、これは先の条件に加えて国力が一定以上あり、なおかつ現帝の血を引く御方を妃として迎え入れる必要がある。現在の大陸にこれを称する国家は存在せず、王国位が最上位とされているわけなのだ。ゆえにそう簡単に我が品格は落ちぬし、落とそうとすることすら許されぬ。それにそういった行いを我が妃である朱陽は認めぬであろうでな。なんせ陸宰相に対しても度々抗議をするくらいには気が強い。なかなか敵わぬようではあるが。


「とにもかくにも出迎えてやれねば陸宰相がまた拗ねてしまう。正門に向かうゆえに、支度を」

「…かしこまりました。主様、まこと我が師が申し訳ございませぬ」

「何を今さら。むしろ正門の内側にいるだけマシというものであろう。かつて宰相就任当時は、我に王宮内を案内させておったではないか」

「それは…。先輩方より語り継がれている、宰相の悪行の一つでございます。私も耳を疑いました」


 伏龍の申す通り、あれにはさすがに王宮がざわめいたものであった。陸宰相の言い分によると、「馬鹿を連れて歩くと疲れる」というものであったのだが、自らが頭を下げた人材に実力が認められている一方で、やはり曲者であると扱いに気を付けようと肝に銘じた事件でもあった。

 以降はさすがにまるで従者のような扱いを受けることは無かったものの、それでも王としてというよりも年の近い友として接せられているという自覚はある。その辺り、伏龍には当然ながら理解が出来ない感覚なのであろう。我も慣れるまでは苦労した。


「そういえばまことに何も聞いておらぬのか、拾い物やらについて」

「少しばかり聞いた話によりますと、なんでも怪しげな男が龍邪封印之祠近くにおったとか。ですがそれ以上については何も」

「どちらのことだ?」

「宰相の帰路から考えますに、おそらく祠跡地の方ではないかと。新造させた祠は王宮の南に位置しており、道中決してよらぬ場所となりますゆえに」

「ふむ。ともなると我が高家の領地内ということになるな。それゆえ我を呼び出したのか。王宮の中には入れられぬゆえに、直接目で見て判断せよと」

「一応手は縛り、怪しげな武器等隠し持っていないことも確認しているとのこと。あまり近づかなければ、目で見える場所までは出ていただいても構わぬと申しておられましたが」

「ふむ」


 支度を終えた我は、伏龍を連れて部屋を出た。

 外にはすでに大勢の家臣らが待機しており、皆が揃って我に頭を下げる。そんな中、唯一ブスりとした表情のまま微動だにせん者がおった。


「白轟、おぬしも来ておったのか。珍しいではないか、軍部より出てくるなんぞ」

「陸宰相が戻ったと聞きましたので。それも何やら怪しげな手土産を引っ提げて」

「それよ。我もこれからその土産を確認に向かおうと思うておったのだ」


 一歩踏み出したところで、またも白轟より声をかけられた。


「兄上。まことに出迎えに向かわれるのでございますか。その程度の役目であれば、現龍尾県の領主である私にお任せいただいても」

「いいや。陸宰相が直接我に顔を出せと申したのだ。つまりそれだけ慎重にならねばならぬ案件であるということにほかならぬ」

「それはただの好奇心ではないのでございますか」

「多少はある。それよりも向かおうぞ。我が一人で向かえば品格がどうこうだと言われかねぬが、お前たちを引き連れていれば多少は格好がつくであろう。ほら、皆も付いてまいれ」


 声を上げながら笑い、そして目的の正門へと向かう。背後の者たちは誰も釣られて笑ってなどいなかったがな。

今投稿も最後までお付き合いしていただきありがとうございます。

次回投稿は未定です。更新をお待ちくださいm(_ _"m)

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