第一話 見知らぬ地
超絶不定期投稿です。
頑張って継続投稿いたしますので、もしよろしければブックマークしていただけると嬉しいです…。
鬱蒼と茂る見たことも無い木々、鼻孔を撫でる何かを燃やしたような臭い、耳に響く動物らしき叫び声。
「いや、ここどこだよぉぉ!!!」
俺の名は高柳泉。高校の卒業式を終えたばかりの平凡でちょっと歴史好きの高校生である。
卒業式が終わり、いったん帰宅してそこからクラスメイトで集まって打ち上げに行く予定だったのだが、あまりにも雪がひどかったために家の近所にある『竜頭神社』で一休みしていたところうたた寝をしてしまったらしい。そして目が覚めた時にはこの見慣れない場所にへたり込んでいた。
背後にはどこか竜頭神社を彷彿とさせる、しかし完全に朽ち果てて藻に覆われた建物らしきものがあるものの、それが竜頭神社であるはずもない。
しばらく考えてみたのだが、たぶんこれは夢である。むしろ夢以外に何があるというのか。
「と思ってたんだけどな。頬を抓っても、夢だと念じてみてもいっこうに目が覚める気配が無い。本当にどうなってんだこれ?」
ワンチャン寝ぼけてどこか知らない場所に迷い込んだのかとも思ったが、そもそもかろうじて所持していたスマホも電波が届かずマップも開けない。これでは迷子である可能性すら模索できない。
そして何よりも不思議なことに、この朽ち果てた建物の傍からいっこうに離れられないのだ。
雑木林から出ることさえできれば、自分が今どこに立っているのかくらいはわかるかもしれないというのに。
「…悪夢だな。もう一眠りしてみるか?誰か探しに来てくれるかもしれないし」
もはや現実逃避気味に目が覚めた場所に座り直した。なんとなく廃墟の方を見てみると、そこには『龍邪封印之祠』と書いてあるように見える。
龍邪なんて言葉は聞いたことも無いし、そんな伝承お爺らすら話しているところを見たことが無い。
こんなでかい建物があったのなら、誰かしら秘密基地にでもしていそうなものだけど…。
そんなことを考えつつ、突如襲い掛かって来た睡魔に、卒業式ハイと探索疲れの俺は無抵抗で意識を手放した。
再び目が覚めた。眠る直前の記憶が脳裏によぎり、あれは悪夢だったのだと確信をもって目を開く。目を開けば見慣れた景色が広がっていると。
だが驚いたことに、俺の目の前には見たことも無い格好の人々が顔を覗き込むようにして立っていただけだ。
「うわぁぁぁぁ!?」
「「「うぉぉぉ!?」」」
俺の叫びに驚いたのか、ほとんど同時にその人々も叫び声を上げた。そして即座に腰のものに手を伸ばし、スッと引き抜く。…引き抜く?
きらりと光る刀身、見た感じから分かる明らかな刃物感。それが同時に俺に向けられたのだ。
背中から思いっきり反対側へとひっくり返り、経験も無いのに武道の構えっぽいものだけが出る。
「変わった格好の者よ、このような場所で何をしておった!」
「か、代わった格好!?それはこっちのセリフだ!」
「我々が変わった格好とな?いったいどこの山の中から出てきたのだ」
警戒心たっぷりに。しかしさも俺が間違っているかのような反応をされてさらに混乱する。
構えは決して解かず、でも話を聞いてみないとこの不思議な状況が解決しないと思えた。果たして彼らがそれに応じてくれるかはわからないが。
「俺は竜頭村の高柳って者だ。あんたらはどこの村の」
しかしそう言いかけて、先ほど抱いた違和感を思い出す。彼らはそう。日本に住んでいたらまずありえないものを腰に携えているのだ。
あのような長さの刃物を携帯すること。すなわち銃刀法違反である。
だが彼らは堂々と隠すつもりもなく、さらには俺に抜いて剣先を向けてきたのだ。こうなってくるとまた新たな可能性が出てくるわけで。
「…今は何年でしょう」
どこかお馴染みの問いである。まさかタイムスリップ以外の可能性で使うことになるとは思わなかったが。
「何を突然。今は太陽暦1304年であろう」
「太陽暦?」
聞き馴染みのない言葉が脳内を駆け巡る。どこか別の国でそのような暦があるのか。
しかし俺は外国語を話していないから、ここは海外ではないことも確か。やはりこれは…。
「太陽暦も知らんとは。もしやおぬし、大陸の外の人間か?それならば太陽暦になじみがなくとも当り前。その見慣れぬ格好も余所者特有のものであるならば納得であるな。世界共通の暦、創世暦で言えば…。おい、今年は何年だったか」
「創世暦は俺たちのような身分の者たちが使うものではないからな。当然ワシも覚えてはおらん」
「そうか。悪いがあんたが理解できる答えは出せそうにない」
「大陸…。ちなみにですがこの大陸の名前は」
ついに確信できる質問が出来た気がする。ここまでのやり取りでずっと頭の中にある一つの可能性。あるわけがないと思いつつも、これでようやく確信することが出来る。
これは悪い夢なのだと。
「ここは朱雀大陸。太陽帝家が治める、世界で最も新しい大陸だ、無知の旅人よ」
無知。いや、たしかに無知ではある。
こんな創作世界に迷い込んでいる夢を見ているのだから。しかしそうなると本当にいい加減目が覚めてくれないものか。
いい加減目を覚まさないと、本体が冷たい雪の中で凍死してしまう。
そんな時だった。俺が当初この場を離れようと歩いていた唯一の道から多数の人が姿を現したのは。
「角令、賊の始末をするのに何をそんなに手こずっているのかしら」
「これは宰相様、賊の始末は終わったのですが妙な旅人を見つけまして」
「旅人?旅人とはそこの奇怪な格好の男のことかしら?」
「えぇ、はい。その通りでございます」
ずっと俺を田舎者、余所者だと見下していた男が突如として汗をダラダラかきながら受け答えを始めた。
相手は自身の母親と同じくらいの女性であるのだが、さいしょうと呼ばれており、このさいしょうが宰相であるならばかなりのお偉いさんであると理解が出来る。まぁ理解も何も夢であるわけだが。
「そこの旅人、名を何と申す」
「あ、えっと、俺、いや私の名前は」
「サッと話せ」
威圧感が凄まじい。思わず涙が零れそうになるのを我慢して俺は言葉を続けた。
「私の名前は高柳泉と申します。日本という地からやってきました」
「日本?まるで聞いたことのない地名ね。大陸の外にそんな地が存在するなんて話も聞いたことが無いわ。このわらわに対して嘘を吐く人間が善人であることはあり得ないわ。即座に捕らえなさい」
「しかしよろしいのでございますか」
「わらわの命令が聞こえなかったのかしら。その男は怪しいから捕らえなさい。それに龍尾の郷で怪しげな男がいたにもかかわらず、それを放置して王都には戻れないでしょう」
俺を抜きでどんどん物騒な話が進んでいく。捕らえる?俺を?どうして?
そう思った瞬間、俺の足は動いていた。唯一外へ通じているあの道からこの女がやってきたということは、今ならば逃げることが出来るはずだ。
かつて爺さんの剣道指導から逃げ回っていた俺の逃げ足を舐めるなよ!とりあえず後のことは後で考えればいい!
男たちの隙を見て包囲を抜け出し、女の脇を抜けて一気に道へ走る。走る。走る。
そして視界がぐるりと空から地面へと移り変わった。「ヘブゥ!?」とまるで聞いたことのない音が自分の口から発される。
「わらわから逃げようなどとは思わぬことね。少なくともこの王国内において、わらわの目が行き届かぬ場所はないのだから。しかし逃げようとした努力だけは認めてやろう。角令、後ろ手に縄を」
「どうされるのでございますか」
「わらわの馬車の荷台に積むがよい。話だけでも聞いてやらんことも無い。主様にも報告せねばならぬからな」
「…ですがそれはあまりにも危険では」
「わらわ程度で制圧できる者が危険であるものか。しかし何も持っていないかくらいはそなたらが確認するのだ。わらわに危害が加えられたとき、果たして誰が責任を取ることになるのか。しかと理解したうえで出立の支度をせよ」
グイッと手首をひねられ、思わず悲鳴が漏れる。しかし上から見下ろされるその目には明らかに喜色が浮かんでいる。
その瞬間に理解した。この女は根っからのサディスティックなのだと。
最後までお付き合いしていただきありがとうございます。
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