シュガーの勘違い
「そういえば、名前聞いてなかった!」
少し前を歩く少女がそう言ってコチラへと振り返る。
2つ結びの髪がピョコンと可愛らしく揺れる。
「『アキラ』のアヤト。よろしく。」
「……アヤトね。私はシュガー。『第二果樹園』で働いてるよ。」
「第二、ということは第一もあるのか?」
「そりゃあるよ。ないのに第二なんて名乗ってたらお父さんおかしい人じゃん。」
シュガーは笑いながら歩き始めたのでまたついていく。
「お父さんがいるってことはコッチ生まれなんだな。」
「キミはそうやって色々聞いてくるのはールーキーなんだな!?」
急に道を戻ってきたシュガーにそんなことを言われる。それが優しい注意だとすぐに気づき「ゴメン、失礼だったな。」と軽く謝罪した。
「いいよ別に。そうやって色々考えたり興味持ったりするからゴートなんてあだ名で呼ばれてるんでしょ?塔に登る人たちには必要な素質だと思うよ。」
「……俺の事知ってたのか?」
さっき知ったばかりのあだ名だが存外、認知されてるらしく思わずあきれてしまう。
バフォメット由来のあだ名なんて嬉しくない。
「さぁついたよ。ここがウチ!おいでませ第二果樹園。」
シュガーはわざとらしくお辞儀をした。
思ったより近かったな。なんか運ぶまでもなかったというか……。
「必要なのはポポウだよね?今持って来るから待ってて!ちなみにドンコはウチじゃなくて魚屋さん行けば有るから!」
そう言ってシュガーは俺の持っていたカゴを受け取り駆けて行った。
「下手したらシイナより足腰強いかもな。」
……待ってる間することもないし辺りを見渡す。
「完全に普通の農場だ。」
何もなかったはずの砂漠に魔法石という圧倒的な技術力が加わったとはいえ、ここまでの施設を作った人々の逞しさに感動さえ覚える。
今、当たり前にココの世界で享受している全てが先人たちの歩んできた道なのだということに今更ながらに感嘆してしまう。
「なーい!……ごめーん!」
遠くからシュガーが叫びながら手を振りコチラへ駆けてきた。
そうか、ポポウはなかったのか。
残念だが仕方ない……。
……はぁはぁ。
「ごめん!あると思ってたんだけど出荷してたみたい!本当ごめん!」
「いや、そんな謝るなよ。別にジェフリーんとこに届けるのは今日じゃなくても――」
「よし!じゃあ取りに行こうか!」
……?
「何を言ってるのかわからないんだが?」
「ポポウは一階層で取れるからサクッと採って帰ってくればオッケー!ドンコは魚屋さんに頼みに行こー!」
コチラの話を一切聞かないという強い意志を感じる。とか考えてる間にグングン進んでいくので慌ててついていく。
「まってくれ!本当に行くのか?俺手ぶらだし、いくら一階層とはいえ塔の中は危険だぞ!」
「大丈夫大丈夫。そうは言ってもバフォメットより強い相手は出ないでしょ?」
「待てって!それは勘違い!つーか誤解なんだよ!バフォメットは倒してない!ボコボコにされながらギリギリで撃退しただけなんだって!」
……ようやく立ち止まった。
「でも撃退はしたんだよね?」
「ちくしょう。マジで話が成り立ってねぇ!」
シュガーは大通りに出ると魚屋へとさっさと行ってしまった。
「あっ」と思わず一人、声を出してしまう。
目の前をノツダが通りかかったからだ。
「ノツダ!ノツダ!!」
声をかけると振り返ったが何やら買い食い中だったようで頬を膨らませながら「おうああおあええあ」と発した。たぶん「よう、アヤトじゃねーか」だと思う。
俺は簡潔に今の状況を説明してノツダに同行してもらうことにした。
ノツダはウチのパーティで最も好戦的(次点でノエル)なので快く受け入れてくれる。
「ノツダってランニング中もちゃんと槍持ってんのな」と言うと「本番を想定してトレーニングしてるんだよ。」と自慢げに答えた。普段はワガママで子どもっぽいわりにこういう真面目な部分もあるのがノツダの良いところだ。
シュガーが魚屋に話を通してきてくれたらしく夕方まで取り置きしてもらえる運びとなった。
ノツダとシュガーは互いに軽く自己紹介し、三人で塔へと向かう。
「二人はこういう即席パーティ組んで行くの慣れてるの?」とシュガーに訊かれるが二人で首を横に振った。「まだルーキー上がりたてだからな。」と答え、コチラから質問をする。
「一応訊くけどシュガーは塔へ入るのは何回目なんだ?戦闘は避けるとはいえ、もしも時のポジションとかスキルとか色々打ち合わせしておこう。」と初歩的な話から始める。
即席パーティを組むのに慣れてないからどんな事を事前打ち合わせするべきかまだわからないのでドンドン訊いていこうと思った。
「オレもアヤトも近接しかない前衛タイプだから遠距離が出来ると有難いなー……ってあれ?シュガー武器持ってなくね?」
「そりゃそうだよ!武器なんて持ってないよ。塔に入るのだって初めてだもん?」
「……」ノツダと俺は口をあんぐりと開けたまま立ち止まってしまった。
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