表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
evil tale  作者: 明間アキラ
第四章 「戦争」 ークリ平原の戦い編ー
68/239

第五十話「終戦」



(ありゃなんだ?)


テオはクリの城壁の前でそう思った。


突然、自分の視界の隅に大きなきのこ雲が発生したからだ。


それに気づいてマーガレットもそちらを見る。


「あら、あれ何?」

「知らねえよ」


軽い感じでそう聞くマーガレットだったが

彼女の額には若干汗がにじんでいた。


二人が立つ地面が

とてつもなく熱いということもあるが、

それだけではない。


「大分疲れて来たんじゃねえか?

悪食のマーガレット」


「変なあだ名付けないでよ」


「こんな無理のある行軍して

しかも、その穴埋めもお前がしたんだろう?

森の魔獣を皆殺しにするなんてな。

それで今ここに立ってられるだけで十分化け物だが

もうさすがに限界か?」


彼女の体から尋常ではない量の蒸気が上がり、

顔が赤みを帯び始める。


いくら彼女が特殊な体質と言えど、

疲労はたまるし、体力に限界はある。


「ふぅー、ふぅー

はあー、うるっさいわね

こっちも大変なのよ!!」


マーガレットが再び、

切りかかり、テオが受け止める。


まだ暴れる余力は残されているらしく、

彼らは災害のように戦い続けているが、

周りはそうもいかなかった。



リリーを取り囲む

聖騎士の数は四人だったのだが、

増減を繰り返している。


彼女の周りにはまさに死屍累々という言葉が相応しいだろう。

死者はいないようだが、ほぼ死んでいるようなものだ。


腕や足を切り落とされ、満身創痍で転がる者が数名、

体から血を流して立っているのがやっとの

黒い髪の不気味な女とアリア

そして、彼女の前に立つのはたった一人。


「はぁ、はぁ、はぁ」


あの坊主頭の筋肉質な男が

呼吸を荒くしながらも、彼女と向かい合う。


こっぴどくやられたようで、

肩から腹にかけて、大きな切り傷があり、

そこから大量の血液を垂れ流している。


「君はもう立たない方がいいと思うけど」

「そうも言ってられないんだな、これが!」


リリーの忠告も無視して、

男が指を少し曲げて力を入れ、

リリーに接近する。


独特な構えから

繰り出される手刀が彼女へ迫るが、

それが彼女へ当たることはない。


手刀が近寄った瞬間、

彼女の剣が白い光を纏い、

そして、それが男の腕を通り過ぎた。


男の顔が歪み、

男の丸太のような腕がボトリと地面へ落ちる。


男は切れた腕の断面を、

悲痛な顔で見ることしかできず、。


「ぐっ!」


声を堪えても、

その痛みが治まることはない。


「もう投降して」

そう言ってリリーが右こぶしを握り、

「ぐっ!!」

男は最後の抵抗と言わんばかりに

透明な壁を張りだした。


腹を覆うように出された壁。

その上からリリーは殴りつける。


壁は彼女が触れた瞬間捻じ曲げられ、

簡単に粉砕され、

気づけば、みぞおちに拳がめり込んでいた。


「な、なにあの人」

「・・・・・・」

「死神リリー?」


倒れる大男を見ながら

会話する二人。


どうやらあの薄気味悪い

黒の長髪の女は喋っているようで


アリアは彼女の小さな小さな声を

聞き、その名前を口にした。




死神リリー、

第四地区の人々に

畏敬の念を込めてつけられた

彼女のあだ名。


随分と物騒な名前だが、

荒くれ者の多い第四地区で

彼女が粛清騎士として

打ち立てた業績を聞けば、

そう呼ばれても不思議はない。


圧倒的な強さを持ちながら

ハンターで一攫千金を狙う訳でも

カティア騎士団に入って勝ち組の人生を選ぶわけでなく、

地位も名誉も求めないで、

敬遠されがちな粛清騎士になった変わり者。


その不気味なまでの無欲さと

何人もの高クラスな犯罪者たちを

どこまでも追いかけ、捕らえ、時には殺してきた

彼女を恐れて人々はこう呼んだのだ。


「死神」


ぼそぼそとした

不気味な女の声が発せられた瞬間、

リリーがそちらへ向いた。


「その変な名前で呼ばないで」


彼女の無表情な顔がそちらへ向く。


彼女としてはその名前は好かないらしい。

二人へと刃を向け、

少し威圧的な声を発した。


「君たちも投降してほしいんだけど」


血が滴る彼女らだが、

同時に汗も噴き出しており、

体がとてつもなく重い。


不気味な黒髪女の細長い剣をはさむ指が震え、

今にも剣が地面へ零れ落ちそうだ。


アリアは

片手が焦げ落ちている上に余力も少ない。


そんな二人に彼女の圧が向く。


「数日ご飯もろくに食べられなかった君たちと

三日間食べ歩きしてた私じゃ勝負にならない」


その圧とは対照的な可愛い文言が飛び出したが

それが事実であることは変わらない。


二人は今にも前のめりに倒れてしまいそうだ。


しかし、そんな時、

アリアが不気味な挑発の女の方を向き、

「ごめんね、スーちゃん」

そう言った。


その瞬間、

動揺する女を置き去りに

アリアは飛び立っていく。


それを逃すリリーではないが

一度空に浮いた彼女を跳躍で捕まえるのは

ほぼ不可能に近い。


例え、満身創痍だろうと、

すさまじい勢いで跳びかかってきたリリーを

軽々と躱し、真上へと、

周りに雲を発生させて、音を鳴らしながら、

上空へと飛んでいく。


そうして、彼女は空と宙のはざまに立ち、

杖を上に掲げた。


彼女の体から月明かりのような黄色い靄があふれ出し、

外傷がさらに悪化する。


血が噴き出し、手が震える。

すべて放りだして倒れそうになる。


だが、それを堪えて彼女は

杖を振り下ろした。


指揮棒に導かれた

轟音をかき鳴らす

大きな大きな一人の合唱団が

宙より飛来する。



それは

その戦場を覆い、都市すら覆うような

超巨大隕石だった。



「お、おいなんだあれ!?」

塹壕にいた兵士たちが次々と雲の子を散らすように退散し、

騎士たちも一目散に退散を始める。


聖騎士とハンターたちの戦いも一旦終わりを告げて、

そのまま両陣へと退散していった。


その頃、黒髪の女はリリーと睨みあっていたが、

彼女の意識は空中へと吸い込まれていて、

とても気が気ではないらしい。


そんな彼女の様子を見てリリーは

城壁の方へと戻っていった。


女は少し構えて、警戒しつつも

リリーを追うことはせず、

上のアリアを見続けた。


「お月様には届かなかったな・・・・」

その言葉を最後にアリアがは力を失い、

地上へと落下する。


それを見た、黒髪の女は

彼女に向かって両腕を掲げた。

すると、そのアリアの落下速度が緩やかになっていき、

アリアは女の腕に綺麗に収まる。


アリアを長く垂れた髪の奥にある目で見つめ、

立ち尽くしていた彼女だったが、


「・・・・ん」

まだ胸が動き、息があることを確認した瞬間、

不気味な女は弾かれたように退散していったのだった。



一方、その頃、

マーガレットとテオはまだ

戦いの最中だ。


「おいおい、もう逃げた方がいいじゃねえか?」

「私があの程度で死ぬと思うの?」


そう言って笑いながら剣を振るう

彼女の攻撃を

テオは足を土に沈ませられながら

受け止めていたが、

そこへ何かが近づく。


それを感じ取ったマーガレットは

すぐさま攻撃をやめ、

後ろへ退いた。


それはリリーだ。

あっという間にここまで跳んで来た

リリーはテオの前に立ち、マーガレットと向かい合う。


「逃げるなら追いはしない

戦うなら私が相手する」


リリーが剣を逆手に構えながら

マーガレットを睨み付け、


「・・・・・」


マーガレットもリリーと目を合わせた。


「・・・・・」

二人の間に少しだけ沈黙が流れるが


「・・・・止めとくわ、あなたとは相性最悪みたいね」


そう言うと、そこから凄まじい健脚で

地平線まで駆けていってしまう。


「・・・・これでよかった?」


「仕留めたかったが、まあ仕方ない。

それよりも」


二人が同時に上を見上げる。


「あれどうする?」

「・・・・・わかんない」


空にあるのは都市ごと粉砕できそうな大きさの隕石。


それを見て、

「消し飛ばせないの?」

リリーがそう問うが、


「実を言うと、

マーガレットの相手で限界でな

あれは撃てそうにねえ」



テオは自身の手に

オレンジ色の小さな球を作り

浮かべる。

が、一つしか現れない。

しかも、薄く消えかかっている。

もう彼も限界らしい。


「本当にデカすぎるな・・・・

まだ、細かくすれば行けるか?

・・・・リリー、あれ切れるか?」


少しだけ考えて彼はリリーに

そう問いかけると


「切れるよ。

でも、切ってどうするの?」


彼女はきっぱりとそう答えた。


「切った後

被害を限定して、

都市に降るやつだけ処理する。」


「わかったけど、私一人じゃ」

「ハンターどもも動かせば足りるだろ

・・・・・多分。」


そう言うとテオは懐からトランシーバーを取り出し、

指示を飛ばした。



誰も彼も都市へ逃げ、騎士たちは元来た道を戻っていく。


そんな中、空を見上げる者たちがいた。

大剣を持った黒髪の男、槍を持った茶髪の男、

三角帽に肩の出たドレスを着た女に、テオとリリー。


まず、動いたのは女だった。

茶色の長い髪をかき上げ、

指を隕石の方へ向ける。


すると、隕石の動きがとてつもなく鈍くなった。

「あんまり持たないわよ」


その声がトランシーバー越しに響くと

次に槍を持った男が大剣を持った黒髪の男を

槍の上に乗せ、構える。


「師団長様はどうだった?」

「案外大したことなかったよ」


快活に笑う茶髪の男と

小さく微笑む黒髪の男。


「ハハハ!!!

ほんと、すげえよ、お前は!

さすがはウチの稼ぎ頭だ」


「いちいちうるさいよ。ジブ」


「次は隕石だってよ!!

しっかり頼むぜ、相棒!」


「ああ」


茶髪の男が黒髪の男を

載せた槍を投げる。


「そら!!!」


一直線に隕石へと向かっていく

様子はさながら迎撃ミサイルのようで

凄まじい速度で槍が隕石へ近寄ると、

黒髪の男が動いた。


その槍から

跳び上がった男は

ロケットの切り離しのように

角度を変え、跳び上がると

一気に隕石を通り過ぎた。


そして、その隕石が真っ二つに裂ける。

通り過ぎた男には軽く白い靄がかかり、

肌がさけ血液があふれ出している。


「こっちの方がきついな」


更に振り返って

その巨大な剣に白い靄を纏わせると


「ふん!!」


更に二つに切った。

大剣から発された斬撃、

一気に押し出された風が

更にそれらを二等分した。


「ふぅ」


少し息が上がった彼がゆっくりと落ちる隕石の上に立ち、

トランシーバーに声をかける。


「もういいぞ」


その瞬間、隕石の落下が再開する。

そこから落ち始めた別れた隕石は

二つが戦場、二つが都市へと落ちていく。


「そっち行ったぞ」


テオの声を聴いた

リリーは手を下についていた。


片手で剣を持ち、

クラウチングスタートのように

体をかがめながら

足に力をため、


一気に解き放つ。


城壁を駆けあがり、

白い靄を纏い、

隕石へ一気に迫ると

空中を蹴り、縦横無尽に跳びまわって、

切り刻んでいく。


「はあ、もう無理」


一つ一つが数メートルの岩石になった頃、

テオがリリーの後ろへ現れる。


「ご苦労さん」

そう言って彼女の背中に触り、

彼女は次の瞬間、城壁に立っていた。


「じゃあ」


彼が両腕を広げる。

周囲に小さな光の粒が一瞬にしていきわたり、

数秒の間に全体を覆うと、


パン!

テオが指を鳴らした。


それにつられるように

光の粒が爆発していく。


空を岩が覆ったかと思うと

次の瞬間には光が包み、

そこには何もなくなった。


下へ落ちるのは

石ころのようなものばかりで

当たれば痛いが、


「あっちよりましだろ」


その数秒後、

城壁の外では凄まじい轟音が鳴り、

風が吹き、地面が揺れた。


「はあ」


そうため息を吐く彼はゆっくりと都市へ落ちていき、

建物の屋根を突き破って中に突入する。


「・・・・痛い」


屋根だったものを下敷きにして

動けない彼はそう呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ