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evil tale  作者: 明間アキラ
第四章 「戦争」 ークリ平原の戦い編ー
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第四十一話「優しさが人を傷つける」

列車は滞りなく、凄まじい速度で

森林、渓谷、山々を潜り抜け、

中継地点に止まることも一切なく、突き進む。


そして、テオが待つ第一地区へと着いた。


彼のいる町について早々、列車が止まった。


駅にサラが下りていき、

「もういいっすよ」


その言葉と共に、

ルーカスとリリーも列車の上から降りて

駅構内へと立つ。


その足で三人は事務所に帰り、

その扉を開けると

机に腰掛けるテオの姿があった。


「よお」


手を挙げてこちらに挨拶するテオ。

挨拶にしては随分ぶっきらぼうだ。


「ただいま、帰りました。テオ兄様」


一方で、畏まったようすで返事をするサラ。

二人は軽く頭を下げた。


「ああ、ご苦労さん」

「どうかしたんすか?」

「この書類を届けに来るついでに、

優秀な部下たちの功績でも讃えようと思って」


グリップで止められた数枚の書類をゆらゆらとなびかせ、

冗談めかしながら喋るテオ。


「そうっすか。わざわざありがとうございます。」


「そう畏まんなよ。

お前らもよくやった。

ありがとな。

礼と言っては何だが」


彼は背に置いていた

服を掴み、二人へ見せた。


「これをリリー、ルーカス。

お前らに与える。好きに使ってくれ」


その服はサラが着ている服と同じようなものだ。


黒い、大きなポケットの付いているダボっとしたズボンと黒いインナー

普通の服とは何か違う材質のそれには赤い線が走っている。


それを持ったままルーカスとリリーの前へ

瞬間移動して配り、

今度は椅子の上に座った。


「サラに与えてたのと似た服だが

これはクラス4用だ。

出力向上はあんまりしないが、

燃費に関しては、大分ましになる。

上手く使ってくれ」


そして、視線が二人からサラへと移る。


「ああ、後、サラ

腕はどうだ?動きそうか?」


「はい」


サラは矯正中の腕を無理やり動かそうとして

顔を歪める。

それを見て、テオが制止した。


「やめろ、やめろ

無理すんな」


そう言いながら彼はサラの元へ近寄る。


「い、いえ、そんな手間は」


サラは貼り付けたような笑顔を浮かべて、

やんわりと断ろうとする。

そんな必要がどこにあるのかわからないが、彼女はそうした。


「そう言うなよ。

お前らには万全でいてもらわないと困るんだ」


そう言って、テオは彼女の制止を振り切り

優しく腕の折れた部分を触り、目をつぶった。


「・・・あら?サラ、お前、治癒使えたっけ?」

「・・・・かけてもらいました」

「それは運がよかったな。しかも結構なところまでやってくれてる」


そう言うと

緑色の光が彼女の腕から出始める。


「ほ、本当に大丈夫です!

片手でもなんとかできますから」


「いいから、俺にまかせろ」


割り込もうとするサラを

テオをが制してしまうと

サラは何か言いたげな顔のまま

下を向き、

「わかりました。」

とだけ言った。


そして、その光が数十秒、

出されると、サラの腕は治った。

完全に治った。腕は元通り痣もなく、痛みもない。


「いやあ、親切な奴もいたんだな

ここまでやってくれる奴はなかなかいない。

俺もだいぶ楽だった」


汗一つかいていない笑顔で

そうテオが最後にサラへ声をかける。


サラは、

治してもらったにしては随分と強張って、

沈んだ顔で治った腕を動かして、

その感触を確かめていた。


「これでいいな、じゃあ」


リリーとルーカスにも微笑みかけると


「俺は別の用事があるから

サラの事よろしくな」


そう言って、手を振った後、消えていった。


机には書類だけが残され、

彼がいた痕跡は綺麗さっぱり消えていて、

数舜前までそこにいたとは思えない。


「・・・」


サラは机に近寄って、その書類を手に取ると、

そのまま読み始めた。


「・・・・・え!?」

驚きながら、目を上から下に動かして

その文面を追う。


「何が書いてあるんだ?」

「・・・本当に戦うんすね・・・」

「え?」

「カティア騎士団がこちらに進軍してるそうです。」


彼女やゴーギャンが言っていた

カティア騎士団とは

中央政府直属であり、この国唯一の軍隊である。


地続きな場所に隣国がないこの国もかつては分裂し、

互いに相争い合っていたが、今はその国の面影も

第一から第五までの各地区にわずかに残るばかりで軍隊も解体された。


人の間に争いは尽きないが、どうじに人と魔獣の争いもまた終わりは見えず、

そちらに兵力が割かれる中、

カティア騎士団はれっきとした軍隊である。


しかも、彼らは粛清騎士以外で唯一、人と戦うことを想定している軍隊なのだ。


兵士は皆、クラス3以上、総勢5万人


(教科書でも出て来たな、

なれれば一家の誇りとか、周りから家ごと讃えられるとか

あのクソ野郎もよく言ってたか)


特に第五地区の富裕層、貴族層が

子供に金をかけるのは最終的にはこのカティア騎士団に入れるため、

皆に讃えられる存在とさせるため、

そのために学院に通わせ、必死に教育を施す。


その親の教育と周りからの圧によって鍛錬を積んだ者の中から

更にふるいにかけられた選りすぐりのものだけが入ることを許されるエリート中のエリート。


その軍隊が今、ルーカスたちがいる第一地区に迫ってきているのだ。


「カティア騎士団が、中央都市から派兵されて

今こっちに近づいているそうっす。」


「へえ、それで?

俺らはどうすんだ?」


「ひとまず、私とルーカスさんは一緒にいてください。

リリーはライムさんの所、多分元鉄道局にいると思うんでそこに行ってください。

多分向こうで説明してもらえると思うっす。」


「・・・・誰だっけ」


「テオ兄様の横にいる眼鏡かけた人っすよ!」

「・・・・・ああ、あの人、わかった」


そう言って出ていこうとするリリーをサラは襟をつかんで止めた。


「まだ、その服着てから行ってください」

「ええ」

「何が嫌なんすか」

「・・・・この服の方が好き」

「スーツは戦いが終わってから着てください」

「・・・・・わかった」


「ルーカスさんもそれに着替えてください」


「・・・・ここで?」

「更衣室なんてありませんよ

さっさと着替えてください」


さらに言われるがまま二人は互いに違う壁の方向を見て

その服へと着替える。


「・・・・針」

「痛くないっすから」


リリーが不満げにズボンの腰周りにずらりと並ぶ針を指さす。


ルーカスは観念して腰に差し込みながら履くと

その針は痛みもなく体へ溶け込み、痛みはなく

ズボンは腰へ吸い付くように張り付いた。


上着の方には首周りへ向けられた針があり、

それも差し込んでいくと同じように体へ溶けていき

服は張り付いた。


「おお」

その瞬間、ルーカスの体に自然と力がみなぎり始めた。


「体が軽い」


それを聞くとリリーもしぶしぶその服を着る。

針が刺さるときは目をつぶっていたが、

あまりの痛みの無さに驚いていた。


「ほんとだ」

「よかったす。なら今から行ってください」

「わかった。」


リリーは部屋から出て、鉄道局へと歩いていく。


部屋にはルーカスとサラだけが残った。


「それで、俺はどうしたらいいんだ?」

「私たちは斥候っす。そんで、今から出ます」

「い、今から?」

「今からっす。」

「休まなくてもいいのか?」

「気にしないでください。私は大丈夫っす。」


そう自分に言い聞かせるように言葉をかけるサラ。


「ユキザクラさんと・・・あの人のおかげで・・・・」

「・・・・・」


暗い雰囲気に包まれたまま、二人は部屋を出る。

そして、列車へと乗り込み、第一地区の最東端へと

一番先に出ていったのだった。


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