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evil tale  作者: 明間アキラ
最終章「台無し」ー第五地区編ー
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第百八十五話「闘争の果て:後編」

敵意、悪意、害意を

化け物が見逃すはずはない。


魔王は今、化け物を化け物として見た。人でなしとしてみた。


自分とは違う別の所にいる、いないべきものとして捉えた。


それは、化け物が中に抱えたもの

魔王に見せたもの、今から再び見せようとしたもの


それと全く同じ害意であった。


熱線が発射されるのと同時に化け物が動く。


まるでそうされるのを予知していたかのように

化け物はそれを避けた。


大地を砕き、蹴り、跳び、躱す。


わかっていたかのように、動いた。


すると、当然、熱線は化け物の身体のほんの数ミリ先を

虚空と大地を焼いて、ただただ虚しく通り過ぎて行ってしまう。


「あ・・・」


避けながら、化け物は両手を広げ、

両の掌を敵たちに向ける。


そして、次の瞬間、あの音が響いた。


「しこきろねえすくろず」


不気味な音

いくつもの音が重なり合ったような不協和音


これがなんなのか、二度食らって

まだ僅かに理性を残すことができたテオにはわかった。


これは、悲鳴だ、怒りだ、嘆きだ、悲しみだ


どうしようもないものから

自分勝手なものまで


ありとあらゆる嘆きが合わさっているのだ。


負の感情の塊が音というものを通して

敵に強制的に、負の感情を呼び起こして来るのだ。


自分が無力で、矮小で、醜くて、孤立無縁、


生きていたって良いことなんて何一つない、


そんな風に誰かの気持ちを追体験させられる


何回も何回も何回も


その時の自分は自分でなく、それを体験した誰かで


弱いのも、矮小なのも、醜いのも

そういう人の記憶なのだから変えられない、変われない


強くなろうとも、強くあれない

強くなれない


「あ・・・あ・・・」


体が縮こまる

何も聞きたくない、見たくない


ただでさえ閃光のような絶望が身を貫いた後なのだから

テオもその闇に落ちかけてしまう。


そんな時間が、少し続いた。




「・・・・・・・・」


一体、どれだけの悲しみを感じただろうか


体に力が入らない。


ただ、そんな中、暖かさが彼を包んでいた。


覚えのある暖かさだ。


温もりだ。


それに気づくのに彼は十秒ほどかかった。


いつもならすぐにわかるのに


「・・・み・・あ・・」


(ミア・・・・・)


ミアだ。ゼノではない。



(ゼノは、もっと熱い・・・恥ずかしがってるから・・・)


「テ・・・く・・・ん・・・」


(ミアは自分に素直だから)


「テー・・・く・・・・ん」


(いっつも・・・・こうやって・・・・)


「だ・・・け・・は・・・」



途切れ途切れの声に突如


「ーーーーーーー!!!!!!!!!」


咆哮が混じる。



生暖かく、鉄臭いものが


(み・・・あ・・・・)


頬に流れ落ちる。


暖かさから力が消える。


暖かさすらなくなってくる。


ただ、それと同時にテオの中に力が流れ込んできた。


魔力が、最後の温もりが

最後に一人だけ残った彼へ向けて


「・・・・・・・・・・・・・・・」


固まるテオ、


彼の耳には、荒い息で黒い翼を貪り食う租借音が響き、


彼の目には、薄く開いた虚ろな目が彼の方を見つめ返して来る光景が映る。


鼻に充満するのは、嗅ぎ慣れた香りの混じる鉄臭さ



触れる者は、もう何もない。


瞬間、テオが消える。


千切った黒い羽を両手で掴み、

ぐしゃぐしゃと夢中で食べ漁っていた化け物も


流石に食事をやめ、

その行く先を目で追った


「はぁ・・・あ?」


魔王は空にいた。


同じ地表にいることをやめた。


彼は今、悪という同じ目線の大地から飛び上がり、

空にいる。


正にいる。


彼は今、正という高みから、化け物を


イーヴィルを見下ろしていた。


「・・・・・・」


ただ化け物を無言で見つめる魔王



彼の周囲を、球が回りはじめる。


一つ


二つ


三つ


四つ


五つ


六つ


手の平から現れたソレらは回る。


違った円軌道で、ただし同じ球上を


全体で、球を描くように、高速で



それを見て、感じて


化け物は


「カカカカカカカ!!!!!」


笑った。


楽しそうに笑った。


それが今までにないほどの魔法だと言うことを直感したからだろうか


いや、それは違う。


「そんなの撃ったら、この星貫いちまうんじゃねえか?!」


「いいのかよ!おい!なあ!こういうのは立場が逆じゃねえのかよ!!!!」


心底嬉しそうに、そう声をかける化け物は感じたのだ。


魔王から向けられる、今までにないほどの害意を


同情も、憐憫も、同じ地平にいるという感覚すら消し飛んだ敵意を


相手を違うところにいる不要な存在を断じ、ただただ排除しようとする殺意を


そこになんの躊躇いのない、むしろ、それが正しいと思える正義を


憎しみを、恨みを。



化け物にとって

それらは見慣れたものだ。


頭に渦巻くものの、ほとんどがそれだ。


そして、餌だ。


それをぶつけられるたび、


それを食らうたび、


化け物は学ぶ。


化け物は強くなる。


化け物は


その殺意を、それをかなえる手段を真似て、超えて、敵を屠る。


(アレを受けたら・・・俺は・・・)


「はははははははははは」



化け物は深くしゃがみ込み、


魔王の方を見据えて、足に力を込め、


「ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


跳んだ。



「・・・・発射」


それを魔王の淡々とした声と

指先から放たれた光球が迎えた。


光球は、他の球が重なり合うのと同時にぶつかり、全てが弾け、


真っ白な熱線が放たれる。


「ーーーーー!!!!!!!」


その熱線に向かって化け物は拳を振る。


当然、拳は瞬時に溶け始め、消滅しそうになるが


(下げる!守る!)



それを防ぐのに最適な形を化け物は探し始めた。


どうすればいい。


これを抑えるにはどうすればいい。


抵抗力を強め、

さっき食らった肉の味を思い出しながら

回復したばかりのなけなしの魔力を払い、


考え続ける。


これを受け切るにはどうすればいい。


自分を守るきるにはどうすればいい。


そうだ


全て遮断するんだ


自分から離す


単純な話だ


熱が届かないようにすればいい


周りの一切から自分を引きはがす


(俺は俺だ)


彼の周りが黒くなり始める。


(俺は俺を守る)

(何をしているんだ?)


世界から断絶されたような黒


(あの時の怒りはこんなものじゃない)

(怒りってなんだ?)


真っ暗な世界に開いた穴みたいな黒

彼自身のような黒


(あの時の怒りを証明できるのは自分だけだ)

(そんなに大事か?)


それが彼の意志によって展開されていく。


「・・・・・・・・」


テオはそれを

開き切った瞳孔で静かに見つめていた。


機械仕掛けの人形かと思うほど冷たく、

ただし、

その奥には、この星すら貫くこの熱線よりも激しく熱いものを滾らせて


敵の姿を目に映しづづけ、

その目からも光線が飛び出すのではないかと思うほど

破壊を、殺害をただひたすらに実行しようと

睨み続けている。


「知るか!!!!!!!!!そんなこと!!!!!!!!!」


そんなテオの目を見ているようで

イーヴィルは見れていない


何かが頭から離れない。


(もう戻れない!)

(戻れないだけ・・・)


それから耳を塞ぐように

黒は盾のように広がる。


(今楽しい!)

(本当に?)


化け物を取り囲むように広がる。


(俺はいずれあの気味の悪い、鬱陶しいカミまで届いてみせる!)

(届いてどうするの?)


そいつは光線を受け止めた。


(それで十分だ、もうそうと決めた。)

(・・・・・)


全てを寄せ付けず、跳ね返す。


熱も、光も、風も、力も、何もかも


(俺はイーヴィルだ)


黒は受け止めてしまう。


その黒で化け物の世界は染まった。


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