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evil tale  作者: 明間アキラ
第二章 「変身」 ー第二地区襲撃編ー
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第十五話「帰還:後編」

三人はそう言われて、応接間に来ると

木の机に固い椅子が四つあった。


サラが一番奥に行き、リリーがその隣、

ルーカスがリリーの向かいに座る。


「じゃあ、改めて自己紹介とかします?

名前は・・・私がサラ、左のこの娘がリリーっす。

あなたはルーカスさんっすよね?」


「ああ、そうだ」



「ルーカスさんは何か聞きたい事とかあります?

 ほら、いきなりここで戦うんですし」


「そういえば・・・

 じゃあ、とりあえず、この後はどうなるんだ?」


「この後は第一地区に帰ります。

 ここに人員50人ほどを残して、明日には出るみたいっすね」


「第一地区?」


「ええ、第一地区っす」


「・・・・」


黙って首をかしげてしまうルーカス、

それに更に首をかしげてしまうサラで

二人で疑問を持ち合ってしまうが、


「ええと、そもそもルーカスさんて

 ここ来る前って何してたんすか?」


「コリン採掘場にいた」


「ああ、なるほど、そりゃ何も知りませんわ」


納得したのか彼女は丁寧に説明してくれた。


「ええとですね、まあ簡単に言うと、

 第一地区は区長がこちら側、つまり革命賛成派というか

 なんなら首謀者とうか、しかも世論もこちらに味方してるんですよ

 だから、私たちはこぞって第一地区を拠点にしてるわけなんですが・・・


 まあ、詳しくは、行けばわかりますよ、この第一地区に列車で着いた時の

 出迎えとか街の雰囲気を見ればね」


「そうか」



「他にも何か説明してほしいことありますか?」


「じゃあ、あなた達は一体、何で争ってるんでしょうか」


「それはつまり、争いの火種は何なのかってことっすかね?」


ルーカスは首を縦に振る


「それはっすねえ、」

サラが懐に手を入れて、何かを取り出す。

それはテオが使っていたのと同じ拳銃のようなものだった。


「これっすね」


「これは・・・・」


彼にとっては見たことのある形だ。

少し銃身の長い自動式拳銃にしか見えない。


「こいつは魔導銃っていうんですが、

これとこれの中に入ってる魔導回路ってもんの

取り扱いとかで揉めてんすよ」


サラは魔導銃の取っ手を開け、

マガジンを取り出す。

その先にあったのは弾ではなく、基盤のようなものだったが

それを取りだした。


「こいつはこの回路とその予備がある限り

クラス3相当の単純な攻撃魔法、爆破と火炎が使えます。

後、このちっこいやつじゃ無理っすけど

みんなが持ってるでかい奴なら障壁も張れますね。」


「これを許すか許さないか、第一区長やテオ兄様とその縁者が政府高官と揉めて、

こちらから仕掛けることになったっていう感じっすねえ」


なぜ揉めるのか、

それはルーカスにも少し察しはついていた。


この世界はイーサ教という宗教が主流であり、

その教義は強き者がそれ相応の責務を背負うべき、

という、ノブレス・オブリージュに相当する思想


だが、裏を返せば、強き者を尊び、

その人に分不相応とされる力を持たれることを嫌うのだ。


生まれや努力

それに応じて強さとは決まるべきであり、それぞれ分相応に

生きていくべきである


という思想はルーカスにも感じ取れた。


それをこの魔導銃とやらは一変させかねない

もしクラス0がクラス3と戦うとすれば

何人集まろうと、本来勝ち目はない。

だが、あの銃さえあれば、もしかすると一対一ですら

勝てる可能性があるだろう。


「なるほど、よくわかりました」


「他にはなんかあります?」


「いや特に」


そこへ


「あの・・・」


ずっと黙っていたリリーが口をはさんだ。


「どうしたんすか?」


下を向いて、暗い声の彼女は

話しづらそうにしているが、

それでも問いかけてきた


「二人は・・・その、アレを見てどう思ったの」


「アレってのは?」


「私たちでやったアレ」


「・・・・・それ聞いてどうしようっていうんすか?」


サラはそう冷たく言い放った。


「・・・・・」


口を閉ざしてしまったリリーにサラは


「別に・・・仕事が終わった、それだけっすよ」


そう平淡に返す。

さっきまでの明るさはどこかに消え、

その目はどこか遠くを見つめていた。


「そう・・・」


そして、リリーの目がルーカスの方を向き、

また気まずそうに下がった。


ルーカスも考えを巡らせる。

自分はどうだろうと

あれを作った大半の要因は自分だ。

だが、あまり気にならないのも事実だった。


(そんなこと、気にしてる余裕は俺にないのか。

それとも、化け物になって心もイカれたのか・・・まあどうでもいいや)


三人が黙る。

沈黙が場を支配する中

サラが大きくため息をついた。


「まあ、あなたが気にするのはわかりますけど、

ここでそんなこと考えてると身が持たないっすよ、リリー」


「そうね・・・わかってる」


「こっからはこういう『相手の生死を問わない任務』なんて

多くあるでしょうし、今からでも・・」


「大丈夫」

遮るようにリリーはそう言う。


「はあ、本当っすか?・・・

ルーカスさんは?」


「どうともない」


「新入りの方が軍人としては素質あるみたいっすね

 あ~あ、湿っぽい話はやめましょう

 リリー、あなたも私たちについてくると決めたんでしょ?

 だったら、覚悟を決めてください」


「・・・・うん」


「それじゃあ」


サラの顔が切り替わる。

見事なほど、顔から暗さが抜けていき、

仕切り直して会話をつづけた。


「そうですね・・・・

逆に新入り君に色々聞いてみるとしましょう。

貴方の体の事とか今後を考えて頭に入れておきたいですし」


「わかった」


「ええ、ええ、まずあの変身は何なんでしょう?」


「それは・・・・」

(あれは言うべきなんだろうか)


ルーカスが少しだけ考えて、言った。

「多分、もらったんだと思う。」


「もらった?」


「要らないって言った子どもがいたんだ。

そいつにくれよって言って、気が付いたらこうなってた。

それまでの俺はただのクラス0だったからこんな力どころか

魔力すらなかった」


「へぇ~、なるほど、子供・・・・

後で報告しときますか・・・

貰ったって具体的にはどうやって?」


「それはわからない。

 そいつに殺されたと思ってたら

 次の瞬間にはこうなってた。」


「はい、はい・・・・・ありがとうございます。」


「それ以外には何か?」


「じゃあ・・・何ができます?

 魔法とか、体術とか」


「・・・それが、その・・意識して動いてるっていう感じじゃないから

 それは、よくわからない、肉弾戦はできると思う。」


「ふ~む、ただ、それはエミリーを討ち取れる力ですよね・・」


リリーの顔がまた暗くなる。

二人は気にしていないようだが


「まあ、強い戦力ではあるんでしょうが、

 運用が難しいっすよねえ」


「まあ、確かに、

あんたらは何で何も気にしないんだ?」


「まあ、テオ兄様は元々、変な物とか新しい物とか好きなんで

 

 私はまあ、私に危害を加えなくて、

 対話ができるなら人っぽい魔獣なんて可愛いもんすよ。

 

 それこそ人ってだけで対話も出来ない、いちゃもんつけて攻撃してくる

 ような奴は世の中に一杯いますしね

 リリーさんはこの通りあれですけど・・・

 

 でも、あなたの姿を見て、毛嫌いする人なんてざらにいるっす。

 魔獣に親類を殺された人とかなら普通は

 見ただけで心象最悪でしょうね」


ルーカスにも魔獣にいい思い出はない。

なにせ一回殺されかけたのだ。

しかも、アレに対抗手段がない人々は騎士に頼るか

自分でハンターを雇うぐらいしか対抗措置がとれない。

それを考えれば、そうなるのも当然だろう。


「良くも悪くも今回の襲撃では目撃者は一人も出ないでしょうが」


リリーが椅子に三角座りを始めてしまった。

まるまって顔をうずめている。


「ただ、こんなこと毎回やれませんし、

多分、横のこの娘の精神が持ちません。」


サラがリリーにもとへ近づき、頭を撫でる


「なので、ここからは・・・そうっすね

ルーカスさんはできるだけその姿のまま戦ってもらう

必要があるかもしれません。」


「わかった」


「魔法はその姿で使えます?」


指先に集中し、火を点火しようとする。

だが、現れたのは火の玉だった。


「まって、まって、まって」


サラが大慌てで

火の玉を手で覆い、小さくしていった。


「何爆破しようとしてるんすか!」


「すいません」


「ええと、これ以外はできないんすか?」


「雷も・・・」


「ここでは止めときましょう」


「魔法の教育は受けてないってことっすよね?」


「ああ」


彼女は、ため息をついて落ち着いた後、

あごに手を当てて、何かを思いついたように

「ちょっと待っててください」

そう言って部屋を出た。


しばらくするとどたばたと音を立てて

部屋に帰ってきた。


彼女の胸には

大きな魔導銃がある。


「これは・・・」


「魔導銃のプロトタイプっすね」


ショットガンのような見た目をしているが

少し近未来的というか金属やプラスチックのような

材質ですべてが作られている。


「みんなが使ってる量産型とは別で

騎士とかと同じく強い人しか使えないような武器も作ってたみたいで

私がもらったんすけど、私じゃ扱えなくて

ルーカスさんにあげようと思います」


ルーカスは銃を受け取り、触ってみる。

(マガジンは・・・)

そう思って入れ替える場所を探すがない。


「替えの回路はいらないっす」


「へ?」


「その引き金の所と取っ手の所に体が触れてると自然に魔力を吸い取ってくれるみたいっす。

ただ、そういう面で、燃費が悪いですし、撃てるのは結局量産型と同じ魔法だけで

威力は高いっすけど、これ使える人なら結局、自分で魔法を撃てばいいんすよね」


「なるほど、だから俺に」


「そういうことっす。なので、これからはコイツで戦ってください。

 そして、あなたの変身は私の許可が下りてからっす。

 わかりましたか?」


「わかりました。」


「よろしいっす。」


彼女が時計を確認すると

夜の九時前ほどだった。


「・・・・もうそれぐらいでいいっすかね。

・・・・はあ、それにしても疲れた~」


体を机に寝かせて伸びるサラ


「明日まで予定ないですし、休んでもいいっすよ

第一地区に行きますけど、うちらは準備に手間取ることないでしょうし、

最悪、11時ぐらいまで寝ててもいいっすね」


そう言われると、リリーは部屋の隅にあったソファーに移動し、寝始めた。


「・・・・・ここで?」


ルーカスの疑問はちゃんとサラの耳に届くが、


「ええ」

帰ってきたのは予想外の答えだった。


「机どけますね。」


そう言って机を軽く持ち上げ、隅に追いやり、

バッグから床に布を敷いた。


「休める時に休んどかないともたないっすよ」


立ち尽くすルーカスを置き去りにして、彼女は寝てしまった。


「・・・・・どうすりゃいいんだ」


ルーカスも部屋の隅にある別のソファに座る。

一人用のそれでゆっくり座っていると彼もこれまでの疲れが噴き出しかのように

ストンと眠りに落ちてしまった。


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